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恋弾~正義の殺し屋、その弾丸は君のため~  作者: YAMATO
新たな出会い篇
30/66

第30話「最強夫婦~無敗の銃と壊れた姫~」

トラモント亭で夕食を終えた四人は、歌舞伎町の夜風に吹かれながらノクターンへ向かって歩いていた。

オレンジ色の街灯とネオンが濡れたアスファルトを淡く照らす。


「それにしても偉いべっぴんさんだったな。いや~いるんだなあんな異次元の美貌を持った女」


「もう!カイトったらさっきからその話ばっかり!メロメロじゃない……!こんなにイケてる女二人が一緒に歩いてるのよ。もっとありがたいと思いなさい!」


「そうだよ~ヤヤ君。もっと感謝したまえ」


「ユウヒ……俺は何も言ってない」


それから話題は別のものに移る。歩きながら、ユウヒがふとヤヤの方を見て口を開く。


「そういえば全く話かわるけど、私達のチームってコードXIIIじゃん?XIIIって凄いの~?」


「そうか。説明してなかったな。ジャスティスのチームは、コードIからコードXIIIまである。数字が小さいほど強くて、Iが最強、XIIIが最弱」


ヤヤは手で順番を示すように話す。


「えー!じゃあ私たちのチームはビリってこと~?」


「そうだ。つい最近できたチームで、経験も浅いから一番ビリ。任務実績が上がれば数字がかわるらしいぞ」


「そうなんだ~。コードIってどんな人達がいるんだろ~。後で先生……じゃなくてボスに聞いてみよ~」


--

ノクターンのドアベルが、静かに鳴った。

外の喧騒とは対照的に、店内には低いジャズと琥珀色の光が漂っている。

カウンターの奥で、ボス――天草キョウがいつものようにグラスを磨いていた。


「おかえり。おや?カイト。いい顔してるな。どうかしたのかい?」


「い、いえ……最近できた定食屋に行ってきたのですが美味しかったので……」


「……あんたが嬉しそうなのはあの店員さんのせいでしょ」


レインが呆れたように肩をすくめると、カイトは「う、うるせぇ」と返した。


キョウは口の端をわずかに上げ、磨いていたグラスを棚に戻す。


「さて――仕事の話に戻ろうか。来週の金曜から三日間、ジャスティスの“強化訓練”を行う」


「たしかに来週の金曜日は祝日だよね~?でも強化訓練って」


ユウヒが身を乗り出す。


「全チーム合同で行う年に一度の訓練だ。新旧関係なし。実戦形式での特別訓練。各コードの連携力と異能制御の精度を試す。……ん?カイトどうした?」


カイトは気になったことがあったのか口を挟む。


「全チームってことは今年はコードIもくるんですか?毎年欠席だったじゃないですか」


「ああ。彼らにはずっと京都で大きな仕事を頼んでいたんだ。だがようやく片付いてもう東京に戻ってきてるみたいでね。一応声をかけたら今年は参加すると言っていたよ」


「そうですか……それは楽しみです」


ユウヒがオレンジジュースの入ったグラスを両手で包みながら首をかしげた。


「そのコードIって、誰がいるんですか~?」


キョウは磨いていた布を静かに畳み、カウンターに置いた。


「二人……茜坂ケイと、茜坂シルファ――夫婦だ」


「夫婦!?」


ユウヒが思わず声を上げる。


「二人で最強ってこと!?」


「そうだ」


キョウがそう認めた後、カイトが煙草を取り出しかけて、ふと手を止めた。


「名前は聞いたことある。……だが、俺も実際に会ったことはない」


「噂によるとだけど茜坂ケイはスッゴい超超超イケメンらしいわね♡どうやって……ふふっ」


「レインのくだらない妄想はさておき、都市伝説みたいに語られてる“任務に失敗したことがない”って本当ですか?」


レインのイケない妄想をカイトはスルーしキョウに尋ねる。

キョウはわずかに目を細めた。


「事実だよ。茜坂ケイはジャスティスの中でも突出した実力者だ。人間離れした動体視力と反応速度……そして、“アウトロー・トリガー”の使い手でもある」


 その言葉に、ヤヤの瞳が小さく揺れた。


「……アウトロー・トリガー」


「そうだ。ヤヤと浜中と同じ、幻の異能の銃を持つ者だ。ただし――あいつのトリガーは特別だ。あれは“全てを無力にする銃”だ」


「へぇ……三人目のアウトロートリガー使いかぁ~」


ノクターンの空気がわずかに張りつめる。

ジャズの音が遠くに霞んでいくように感じられた。それから今度レインが問う。


「その……茜坂シルファはどうなんですか?」


キョウは一瞬、言葉を選ぶように黙り、それからゆっくりと口を開いた。


「シルファは――普段は、まるでお姫様みたいな女だよ。穏やかで、気品があって、誰にでも優しい。あの微笑みを見たら、誰だって癒やされるだろうな」


「へぇ、そんな人が最強チームにいるんだ~」


ユウヒが感心したように声を上げる。

だが、キョウの表情がわずかに陰った。


「……だが一度、“あれ”が壊れると別人になる」


「壊れる?」


 ユウヒが小首をかしげる。


「夫のケイに手を出そうとする女がいたら、殺戮兵器に変わる。理性も倫理もなく、ただ“排除”する。敵だろうが味方だろうが関係ない。……過去には、任務中にケイに偶然抱きついた味方の女性を見て、真っ二つにしようとしたことがある。いわゆるヤバい女ってことだ」


誰も、息を呑む音すら出せなかった。

キョウは淡々と続ける。


「それでもケイは、そんなシルファを止めない。むしろ、彼女の暴走と重い愛を受け入れているように見える。……二人の間には、常人には理解できない絆があるのさ」


「……やっぱりそのヤンデレメンヘラ女も強いのか?」


ヤヤは少し緊張した様子で、キョウの目を真っ直ぐ見て尋ねる。それに対してキョウは不敵な笑みを浮かべ答える。


「強いなんてものじゃないよ……元々ロシアの軍にいたんだ。戦闘のプロだ。強さで言うとケイの次に強い。単純な戦闘力だけなら、彼女に勝てる者はほとんどいない。殺すことに一片の迷いがないからな」


「……そうか。愛の力って奴か。恐ろしいな」


ユウヒが引きつった笑みを浮かべる。


「つまり……敵に回したら終わりってことね」


「そういうことだ」


キョウがグラスにウイスキーを注ぎながら、静かに言った。


「彼らが参加する今年の強化訓練――君たちにとってはいい機会だ。上を知るといい」


ヤヤはその言葉を黙って受け止めた。

強化訓練――その名の通り、試されるのは力と覚悟。

そして、“最強”と呼ばれる者たちの現実。


カウンターの上で、琥珀の液体がゆらめいた。

外ではネオンが滲み、夜はますます深く沈んでいく。

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