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恋弾~正義の殺し屋、その弾丸は君のため~  作者: YAMATO
花屋のユウヒ篇
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第16話「花火」

日がすっかり沈んだ頃、赤レンガ倉庫の広場では、屋台の灯りが並び、香ばしい匂いが風に乗って流れてくる。


「ねぇヤヤ君、たこ焼きと焼きそば、どっちが好き?」


「……どっちでもいい」


「じゃ両方ね!はい、あーん」


「自分で食え」


「もう、ノリ悪いな~。じゃあこっち、あーんしてあげる」


「だから――」


強引にたこ焼きを口に押し込まれ、ヤヤはむせる。

その様子を見て、ユウヒが笑い転げる。


「ぷっ……あははは!ヤヤ君、最高!」


笑い声が、夜の喧騒の中で柔らかく響いた。

ヤヤの胸の奥が、不思議な痛みと温度で満たされていく。

“これは……情報収集だ。俺は、ただ敵かどうか確かめてるだけだ”

そう言い聞かせながら、視線がどうしても彼女から離れない。


--

花火大会が始まる直前。

ふたりは山下公園のベンチに並んで座っていた。

夜風が心地よく、遠くで打ち上げ準備の音が響く。


「ねぇヤヤ君!もうすぐお待ちかねの花火だね~」


「俺が誰かと一緒に花火を見に行く日がくるとは思ってもみなかった」


「ふふっ、それもとびっきりの美人とね~♪」


「自分で美人って……どれだけ自信あるんだよ」


「事実なんだからいいでしょ~♪」


「はいはい。でも……ユウヒといると自分が自分でなくなる気がする。初めてだ。こんな気持ち……なんなんだよ。おまえ……」


「おやっ?それは最高の誉め言葉ですな~」


その後ユウヒは何か思い出したかのようにスマホを取り出す。


「あ、そういえばつい楽しくて忘れてたけど、まだ一枚も写真撮ってなかったね~!今日の記念に今撮ろ?」


「写真?ま、まぁいいけど……」


「ヤヤ君表情かた~い!ほらほら、笑って~!はい、チーズ!」


シャッターの音。

画面に映る二人の距離が近すぎて、ヤヤは少し心臓の鼓動が高鳴る。


その直後――夜空に大輪の光が咲いた。

ドンッ、と腹の底に響く音。

火花が夜空を染め、光の雨が二人の顔を照らす。


「花火……はじまったね……綺麗」


「そうだな……」


港の方から吹く潮風が、甘く髪を揺らした。

ユウヒはしばらく花火を見上げたまま、ふとヤヤの横顔をちらりと見つめる。

 ――さっき観覧車でやられた分、今度は私の番。

唇の端が、いたずらっぽく上がった。


それからさりげなくユウヒは静かに動いた。

隣に座るヤヤの肩に、ちょこんと頭をもたれさせる。

髪が触れた瞬間、ヤヤの全身がびくりと固まった。


「……な、なんだよ」


「ん~?別に~。ちょっと寄っただけ」


「“ちょっと”の距離じゃねぇだろ……」


「だってさ、花火の音が大きくて、声が届かないんだもん」


そう言いながら、ユウヒは小さく笑った。

いつも通りの余裕ある笑み――でも、どこかあざとい。


ヤヤは横目で見ながら、そっと息をのむ。

近い。

頬に触れる髪の香りが、ほんの少し甘い。


「……今日は、楽しかったよ」


ユウヒの声が、花火の音の隙間に落ちた。

その言葉がやけに胸に響く。


「……あぁ。俺も」


「珍しく素直じゃん」


「……いや、その……ユウヒといると、時間たつの早く感じる」


ヤヤは耳まで赤くしながら、視線を逸らす。

ユウヒはそんなヤヤを見て小さく口角を上げ、わざと耳元に顔を寄せた。吐息がくすぐる距離。


「ねぇ、ヤヤ君……」


「な、なんだよ」


「またどこか遊びに行こうね」


その囁きは、音よりも近く、あたたかかった。

ヤヤは息を止めたまま、返す言葉を探す。

心臓の鼓動がうるさくて、頭が真っ白になる。


「……ああ」


ようやく出た声はかすかに震えていた。

ユウヒが驚いたように目を丸くし、すぐに嬉しそうに微笑む。


「ふふっ、約束だよ」


「べ、別に……そんな大げさなことじゃないだろ」


「ううん、嬉しいよ。ヤヤ君がそう言ってくれたの」


ユウヒがさらに肩に体重を預ける。

ヤヤは動けず、少しぎこちなく肩を傾けて受け止めた。


「……まったく、ずるいよな。おまえ」


「え?なにが~?」


「……そうやって、油断してるとこついてくるとこ」


「それって……褒めてる?」


「……どうだろな」


言いながら、ヤヤの口元には小さな笑みが浮かんでいた。


花火の光が、二人の距離を柔らかく包む。

夜風に混じる潮の匂い。

ほんの数秒、時間が止まったように感じた。

ユウヒはその沈黙の中で、小さく呟いた。


「ねぇヤヤ君。今、すっごくいい顔してる。私が隣にいるからでしょ?」


「そ、そういうこと、平気で言うなよ……」


「だって本当のことだも~ん」


二人は少し照れ笑いをしながら、

 ――この時間が、終わらなければいいのに――

と、心の中でそっと思うのだった。

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