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オタク気質が災いしてお妃候補になりました  作者: 森の木
第五章

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5-11 新しい出発

「侯爵家 アリーシア様より、本が献上されます」


 アリーシアは謁見の間で、銀糸で織り上げられた正装をまとい、国王へ本を献上する儀へ呼ばれた。国王と王妃がいる玉座へすすみ、頭を下げ、従者として随行したテトが後ろで本をもち、腰をおり王へ本を献上する。王はそれを頷いてみると、近くの内政官に本を受け取るように指示をする。


 アリーシアはいくつかの本を王とのいくつかの孤児院へ寄贈したこと、さらに教育の向上に向け基金を創設したことにより、特別に国王から勲章をもらうことになった。

 アリーシア個人ではなく、アトリエAならびにピエールたちの工房すべての功績が認められた形になった。この勲章のおかげで、漫画や絵本は国王の許可が正式におりた形になる。これからは新しい産業として、国のお墨付きとして、もっと世界各地へ展開できる足がかりとなった。

 アリーシアはこういった正式な場所で、まして勲章をもらう儀にでることなど初めてであった。社交界以上に緊張した。


 それ以上に緊張しているのはテトだった。

 テトは城に入ることは、絵の修繕以外ではなかったそうだ。しかも今回は国王を拝顔することになる。誉れ高きことである。貧民街出身であり、まだ新人の職人であるテトには身に余る光栄だとテトは恐縮していた。ただアリーシアの試みには、テトが欠かせない存在であった。テトが相談に乗ってくれ、さらにアリーシアの思い描くものを、実際に表現してくれた。


 だが、この喜びの裏には少し悲しいこともあった。ザッカスは数日行方がわからなくなっていたのだ。


 ザッカスは孤児院育ちだが、実は血族がいたということが判明した。ザッカスは隣国で大変身分が高い生まれの貴族だったということがわかった。ザッカス自身は身の上話を話したことはなく、マリアなど一部の孤児院の人にしか事情を知らされていなかった。

 ザッカスは隣国の王位に近い身分の父親がいた。母は身分が低い、村娘であった。父親はほんの気まぐれで手を出した村娘が、子どもを宿したことは知らなかった。母親は父が誰かもわからないことで、村で迫害を受けたという。母は体調を崩し病に伏せった。

 そして父親がザッカスの存在を知ったときは、母親はもうこの世にいなかったという。ザッカスは父親に対して強い不信感があったが、強制的に連れられ屋敷に移り住んだという。だがザッカスが血族から迎えられることはなかった。ザッカスは逃げ出したそうだ。


 追っ手をかいくぐり、隣国から逃げ出して、ぼろぼろの状態で発見したのが、マリアの前任の孤児院の責任者だったという。ザッカスは孤児院で暮らすようになった。

 

 ザッカスの本への貢献度は高い。しかし、その大きすぎる貢献は逃げ延びた父へザッカスの行方が知れることになってしまった。ザッカスは隣国へ連れ戻されてしまった。


 テトとレインはザッカスがいないアトリエAで、祝う気持ちにもなれなかった。

 


 ある時、ザッカスから手紙が届いた。

 ザッカスは今回の功績において、ザッカスの才能を認め、出資してくれる商人を見つけたそうだ。ザッカスは父親と話し合い、関係を修復するそうだ。そして父親との約束をとりつけた。貴族としての最低限の教養を身につけるため、寄宿舎学んでからなら、卒業後好きにしていいと言われたそうだ。ザッカスは遅ればせながら、アリーシアたちとともに寄宿舎で学ぶことになった。



「アリーシア様は、来年は寄宿舎。ザッカスも寄宿舎ですね。アトリエAも寂しくなります」


 テトとレインとアリーシアは、アトリエAに集まり、今後のことを話していた。


「レインちゃんも確か、教師の学校へ行くことが決まったのでしょう? 」


「そうだね。わたしも来年は学校へ行くよ。先生の資格をとりにね」


 アトリエAはしばらく休業となる。


 作った漫画はいくつかあるので、それを作品として売り出す。ほとんどはテトが企画して、工房へ原稿を渡し、そこで印刷する作業の繰り返しになるので、アランの商売の手の見せ所になるだろう。

 アトリエAはアリーシアたちが卒業して、みんながまたできるときに再開する見通しになった。

 今回のことで、ほかの工房も絵本や漫画を印刷する技術を学びに工房に見学にくるようになった。国王から認められた本は、さらに国中の工房により進化し、新しい技術と、新しい文化を創造していくのである。

 それこそアリーシアが目指していた世界である。アリーシアはしばらく創作物を作ることはできないが、作り手が多くなれば、今度は読み手としてたくさんの本に触れることができる。そうしたら、本が好きな友人達と語り合うこともできるのだ。


「じゃあ、新しい出発を乾杯して。今日は屋敷にある秘蔵のワイン置き場にある、特別な葡萄の果実シロップをもらってきたから。みんなで飲みましょう」


 アリーシアとレインとテトの3人は木のコップに葡萄ジュースをいれ、これからの新しい進路に向かって乾杯をした。


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