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オタク気質が災いしてお妃候補になりました  作者: 森の木
第五章

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5-4 流行


「テト、アリーシア。新しい本は好評なようだ。貴族から受注が入ってきている」


 アリーシアとテトは、兄・アランの書斎に通された。兄は他の新規事業についても忙しく、書斎にはかわるがわる召使や、部下らしき人が書類を持ってきて兄にチェックを頼んでいた。アランは本についての売り上げなどに数字を書類を見て追いながら、満面の笑みを浮かべた。

 

 兄は先日、王へ正式に新しい本の献上をした。

 それはあるお祝いのためだった。


 少し前から調子を崩していたエンドリク様の夫人、サラ様の不調の原因が明らかになったのだ。サラ様は懐妊された。エドワード様以降、公爵家では懐妊の兆候がなく、エンドリク様たちの子どもは、エドワードのみとみられていた。ここでサラ様がご懐妊を受けて、国中がお祝いムードとなった。兄たちはそれを事前に察知していたのか、ご懐妊のお祝いとして新しい教育の形としての、新しい本を王に献上した。


 次世代の子どもたちへの希望と夢を描いたものを国王へ贈るという名目だ。慶事にはふさわしい贈り物とされた。 

 またサラ様はこの本をお気に入りといううわさも、前後して国中に流れ、貴族はサラ様をまねるように本の受注をするようになった。ある者は、サラ様にあやかりたいと夫人の要望を受けた伯爵から。ある者はサラ様と同じように懐妊した祝いで送りたいという子爵まで様々な理由だった。新しい本は、新しい命の誕生とリンクした形で、国中に知られるようになり始めた。


 貴族の流行になれば、商人たちの富裕層もほしがるのは目に見えていた。貴族よりは手に入りにくいが、高額であれば手に入る可能性もあるといった噂もあり、出資したいという資産家が増えた。兄の策略は、ここから思い描いたようにかなっていく。

 莫大な資金をえた本は、今度は廉価版を作り、質も見た目も劣ったものだが、誰もが手に入りやすい点を考えた形状をとって、大々的に販売を開始し始める。

 

 兄から本の売れ行きの状態を聞くまでもなく、屋敷の召使たちも新しい本について話題にするようになった。国中の流行は、新しい本の話題である。

 アリーシアはあまりの国の中の流行ぶりに、自分でも夢を見ているのではないかと頭がおいついてこなかった。アリーシアは騒がしいのが苦手であるので、もともと外には出なかったが、屋敷の書庫にこもって新しい本を読んでいた。


「まさか…こんなに売れると思わなかった」


 アリーシアの手元には二冊の本がある。一冊目は、サンパウロ様の伝記としての本。そして二冊目の本も手元にある。これらは試作品として、アリーシアの家に贈られたものである。一冊目の本はアリーシアが何度も空想し、叶えたかった夢の一つであった。二冊目は自分でも予期していなかった本である。


二冊目の本。

表紙には「サンパウロを継ぐもの」と書かれている。

主人公は女の子。主人公の女の子は、アリスといい、サンパウロの子孫である。

アリスはサンパウロの憧れ、そしてサンパウロと夢で出会う。

サンパウロはアリスに、アリスのやりたいことを尋ねる。

内気だったアリスは、自分のやりたいことを見つけ、仲間を見つけて本を作り始める。

貧しい子どもたちへ文字や教育広めたいと奔走し、アリスは本を国へ普及させていく。

アリスの夢はサンパウロにように勇者らしく誇り高く生きること。

アリスは夢をさらにかなえるために、これからも本を作るのだった。



という内容だった。


 サンパウロ様とアリスという少女が要になっている作品。

 アリスはアリーシアがモデルである。だがあくまでフィクション作品である。原案はもちろんザックスである。最初にこの原案を見たとき、アリーシアは目を大きく見開くだけで、何も言えなかった。

 ザッカスにはアリーシアがサンパウロの子孫とは伝えていない。アリスにしても、ただの偶然かもしれないと思った。しかしアリーシアの顔を楽しそうに見ているザッカスを見れば、これはタチの悪い嫌がらせかもしれないとも思った。


「とても面白いと思うな。アリーシアはどう思う」


 レインは本を読んでいたらしく、アリーシアが本を読んでから、無言でいることを心配して声をかけた。アリーシアはテトにも視線を向けた。テトも気まずそうな笑顔を浮かべるだけであった。ザッカスの思い付きであるこの作品に、テトは付き合わされたのだろう。しかしテトだって職人である。悪いものを作ろうとはしないだろう。内容の完成度見ると、テトも賛同しているのはわかった。


「ええ、この二作目もマンガにしましょう。前後編で一つの作品としてね」


 アリーシアはこれがうまくはいくかわからなかった。しかし一作目が堅苦しい伝記をモチーフにしたオリジナルである。二作目は時代軸が現代であり、娯楽要素が強い作品である。アリーシアが考えている漫画は、娯楽要素が強いマンガである。これこそアリーシアが求めていた形なのではないだろうか。成功するかわからないからこそ、勝負にでることにした。

 そして兄・アランの力もあり、新しい本は国中のブームになったのである。


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