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オタク気質が災いしてお妃候補になりました  作者: 森の木
第四章

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4-4 孤児院の変化3


「テト、もしザッカスに出会っても。わたしが侯爵家のものと言わないでくれる? 」


 アリーシアはテトと印刷をする小さな工房を作ることを話し合っていた。

 あくまで利益は考えず、孤児院から巣立った子どもたちの働き口を考えてのことだ。もし利益が出そうならそれはそれで工房のあり方を考えれば良い。工房の出資は侯爵家が出すことになっており、マリアもこのことは大変喜んでくれた。女子の就職口が安定的にあれば、孤児院を出たとしても横のつながりを保つことが出来る。困ったことがあったら支え合うこともできるのだ。


 アリーシアは、細かい資金のことなどは母に任せた。アリーシアはあくまで発起人であり、実行するのはテトや大人のやることだ。テトの友人で職人見習いの人も、女性達が仕事になれるまで手伝いをしてくれることになった。そこでアリーシアはいつか印刷工房ができたら、見に行きたいと考えたが、そこではザッカスに出会ってしまう可能性がある。

 ザッカスとは良好な関係であったし、貴族は嫌いであるのは変わらないザッカスとの仲を荒立てたくなかった。もともと孤児院へも、社交界デビューまでは行けるとは思っていたが、その後は未定である。社交界デビューをしたら、顔が知られるようになるし、それまでは侯爵家のアリーシア嬢ではなく、ただのアリーシアでいたかった。


 テトと簡単な打ち合わせをしていると、アリーシアは先の不安もあってお願いをした。テトはアリーシアの言葉の意味を少し考えるように首をかしげ、それから小さく頷いた。


「顔が割れてしまうと、何かと不便でしょうから。それがいいでしょう」


「だましているようで悪いというのもあるのだけれど。明かして良いことはない気がするの」


「ただザッカスは顔が広いでしょうから、もう情報を知っていて察している可能性ありますね」


「それは考えたわ。ただいつかは身分をあかす時があるでしょうが、今ではないと思って」


「承知しました」


 印刷工房は女子がおもに働くということで、多少せまくても動きやすい内装を考えた。また女子が寄宿できるように寮も併設し、衣食住まで完備できるよう空き家をリフォームすることも考えた。工房のほうはあくまでテトが考えるが、住居スペースに関しては女性が使いやすいようにということで、レインやマリアたち若い女性の意見もいれていった。


 まずは工房では子ども達が学びやすいようにと、絵本の制作をすることを当面の目標とした。絵本から派生して、絵本から応用した教科書なども作って行けたらという話も盛り込んでいく。


 学校へ行けない子どもであっても、本が手に入りやすくなれば、家で文字を読むことが練習できるかもしれない。


「ただの教科書ではつまらないから、テトが書いてくれたようなイラストがあるといいわ」


「イラストですか、キャラクターが説明しているような感じイラストですか? 」


「ええ、そうすれば子どもも楽しめるでしょう? 」


「面白いですね」


「それに、こういう風な四コマみたいなのがあればいいなって」


「四コマってなんでしょうか? 」


「四コマっていうのはね…………」


 アリーシアは前世で授業がつまらないと四コマ漫画を描いて友人に見せていたことがあった。

 小学生が描いた四コマなのでオチの四コマ目は、オチですらなかった。ただ退屈な授業の暇つぶしだった。


 アリーシアは久々の四コマ漫画を手元にあった紙に書いていった。枠を作り、四つの区切りをつけていく。そして簡単に犬と猫のイラストを描いて、掛け合いを四つのイラストともに描いていく。犬と猫に言葉を話させる吹き出しも絵の横に描く。


 アリーシアは新聞などで四コマ漫画があったことを思い出した。アリーシアは描いた。春はあたたかくて寝てしまうという犬に対して、犬は冬が好きで雪のなかを走るではないかと猫に突っ込まれる。犬はそれに対して猫は暖かいのが好きだから、春が好きなのかと問いかける。しかし猫は気まぐれなので、どっちでもいいと言う。寝たいときに寝るのが猫だと。というオチも特にない内容を描いた。


 ただそれを描いているアリーシアに驚いたのは、テトだった。見たことがない技法だったのだろう。確かに四コマで話が完結する。絵で話を進めていくのは斬新だったのだろう。


「アリーシア様、これは素晴らしいです」


「上手じゃないけれど。こういうのを漫画というの。四コマだから四コマ漫画」


「漫画? 」


「ええ、屋敷の書庫で見かけたの。状況を説明しやすいし、文章を読むのが苦手な子でも内容を理解できるでしょう? 」


 アリーシアは嘘をついた。屋敷の書庫で見かけたことはない。ただ侯爵家の秘蔵の書庫にはいろんな叡智エイチが眠っているだろうから、あり得そうな嘘をついた。アリーシアはあわよくば、テトが漫画を作ってくれないかなと思ったのだ。完全に私利私欲であった。


「アリーシア様と話していると、知らなかったことを知り。勉強になります」


「書庫で見たのだと四コマだけではないの。コマ割りを自由にしていろんなお話を絵で表すことも可能みたい」


「是非またお話を聞かせてください」


「ええ、今は工房を作ることが先だわ」


「はい、アリーシア様の期待に応えられるように」


「テトはいつも期待以上にがんばってくれるわ。きっと今回もうまくいくでしょう」


 テトは頭を下げて部屋を出て行った。少しずつ孤児院の変化が目に見えてきた。まだまだこれから先が大変であろう。しかし少しの変化が積み重なって、大きな変化へとつながっていく。アリーシアも先はどうなるか予想はできない。ただ楽しい方向へ進んでいけばと思った。全部は自分の思い通りにはならないだろう。ただ少しでも叶えたい。この世界でもオタクの活動ができる日がくるのを願って。


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