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オタク気質が災いしてお妃候補になりました  作者: 森の木
第二章

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23/70

2-9 誕生日プレゼント

 新年になった。我が家は昨晩、いつも通り夕食を食べそれから就寝した。

 屋敷の者たちは、年末年始と休暇をとり故郷に帰っているものが多い。昔から屋敷に住み込み、特に田舎へ帰る必要もない者は屋敷に残り、静かに休日の時間を過ごす。年末の掃除を済ませ、屋敷の者がいなくなり、シーンと静まりかえった屋敷もたまには面白い。いつもは人の気配がどこかでするので、気を遣ってしまうこともあったが、それもこの時期は特別だ。


 新年になった朝、朝食をとった後、仕事もない両親が3人の子どもたちを居間に呼んだ。母は隣国出身なので誕生日という概念がある国の出身である。誕生日を兼ねて新年の最初にプレゼントをもらうのが恒例行事だ。


 父からそれぞれにプレゼントが渡された。

 兄・アランは時間を見られる懐中時計をもらっていた。西の貴族が治める地域の高級品である。これから寄宿舎へ行くと時間を自分で管理することも多くなるだろう。そのために贈られた。

 アポロは体にあった剣をもらった。最近はサンパウロ様ごっこが好きで、大きなおもちゃの剣が欲しかったらしい。贔屓にしている鍛冶屋で、木刀を軽量化したものを、アポロが握りやすいよう持ち手を工夫した大剣を作ってもらったそうだ。しかしいくら軽量化されたといっても重そうであるのだが、アポロは楽しげに振り回している。最近また力が強くなっていないだろうか。

 アリーシアは大きな本であった。渡された瞬間ずっしりとした重さがあった。しかしアリーシアはこれがとても待ちわびたものであり、本を開く前から胸がいっぱいになっているのを感じた。

 本の表紙は革で出来ているのか重い。しかし頑丈であり、大切にすれば長い年月を経ても形が損なわれないだろう。


 ゆっくり開いてみる。


 そこにはサンパウロ様たちがいた。これはピエールに頼んだ絵本だった。アリーシアが構図を考え、そしてピエールの息子さんにアイディアを伝え、彼が絵を制作してくれた。アリーシアがアポロに英雄話をするために頼んだのだ。

 絵本に描いてある絵は、いつもピエールたちが描いている人物の描き方と少し違った。複雑な線が書き込まれず、とてもシンプルであり、アリーシアはこれはイラストに近いと感じた。人物の描写をシンプルな線にすることにより、人物の特性がわかりやすくイラストタッチにされていた。


 これなら子どもでも確かにわかりやすいだろう。今までのアリーシアがこの世界で見てきた絵とは違うのに驚いたが、この絵本の作風は前世で言うと漫画やイラストの表現だと思った。


 横からアポロが絵本をのぞき込む。


「わあ!サンパウロさまだ!! 」


 一目見てアポロはサンパウロ様だと思ったみたいだ。これは成功なのではないかと思った。誰もがサンパウロ様にイメージを持っているとは思うが、子どもが一目見てわかるというのは単純であり、わかりやすいということだ。


「ええ、アポロ。これはサンパウロ様の絵本なの。一緒にあとで見ましょうね」


「やったあ!姉さま。はやく見せて!見せて! 」


「だめ、アポロはそろそろお昼寝の時間でしょう」


「ぼく眠くない」


「アポロはサンパウロ様のように大きくなりたいのでしょう?だったらちゃんとお昼寝をしなさい」


「わかった」


 アリーシアはアポロが言うことを聞くキーワードをいくつか知っている。まずはご飯やお菓子などについて。アポロは食いしん坊なので、食べ物の話をするとちゃんと話を聞く。そしてサンパウロ様のお話もちゃんと聞くので、アリーシアにとってはありがたい言葉である。


 アリーシアは自室に戻ると表紙をゆっくり開いて絵本を読み始めた。自分が描いた世界観に絵がつけられ、さらに色がつく。今まで想像の世界だけだったものが、いっきに現実になるような気がした。目で見える自分の世界。サンパウロ様たちの服や、髪の毛の色、肌の色、もっている武器。それらすべてが忠実に再現されていた。


 ピエールの息子さんは絵の才能を見込まれて、ピエールの養子になったとは聞いていた。その才能は間違いないと思う。今描かれている絵画のほとんどは肖像画などが主で、見たままのものを写実的に描くことがほどんどだ。

 しかしこれはそれとも違う。この世界では新しい表現の方法かもしれない。今までにない方法で新しいものを作り出す力は、やはり才能があるのだと思う。


 アリーシアはそれからしばらくの間、何度も何度も絵本を見ては、世界観にはまっていくのであった。もちろんアポロも同様だ。アポロはもともと席に座って勉強をするのが嫌いなタイプであったのに、絵本の前にくるとおとなしくなる。何度も何度もページをみて世界観に没頭する。


 そしてアリーシアとサンパウロ様の話をするのだ。アポロはもうすっかりサンパウロ様がお気に入りで、アリーシアの思惑通りになってきた。

 絵本のことで夢中になってしまったが、ピエールの息子さんに会ってお礼をいう機会を逃してしまった。また機会があればサンパウロ様のお話をしたい。こんな素晴らしい絵を描くピエールの息子さんに、もっといろんな絵本を作って欲しいと思った。


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