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オタク気質が災いしてお妃候補になりました  作者: 森の木
第二章

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2-7 予習

 アリーシアは、自分が頼んだ本の依頼がピエールの息子によって制作されていることを聞いて、俄然ガゼンやる気になった。もともとやる気はあったのだが、これは予習をかねてやっておかなければならない。何をやるのかというと、アポロのオタク育成計画である。

 

 「いい?アポロ、サンパウロ様、わかる?サンパウロ様」


 「?さ、ぱうおさあ」


 「違うわ、サンパウロさま! 」


 「さうぱうおさあ」


 何かが違う。アポロは最近おしゃべりが出来るようになってきた。ただまだ話すことが得意ではないようで、姉からサンパウロ様オタクなるべく教育を受けているのだが進展は薄い。


 「どうすれば、アポロにもサンパウロ様の英雄話がわかるようになるかしら。アポロ!」


 目を離すとすぐアポロはどこかにいってしまう。最近はヨタヨタと歩いていくのだが、まだ頭が重そうに歩いているのでいつ転んでしまうか心配である。今も興味の引かれたもののところへ行ってしまうのに、バランスを崩してしまい転びそうになった。頭から転倒しそうになった。それをアリーシアが支えた。

 

 「アポロ、あなたまたオデコにコブを作る気?この間、階段から転げ落ちて大泣きだったじゃない」


 アポロはいくらメイドが面倒をみていても、目を離すと消える。早さは尋常ではない。歩けるようになると階段さえ、自分で降りようとする。この間も勝手に降りたのはいいのだが、途中で転げ落ちて大泣きしていた。額にはコブができてしまって、屋敷中アポロの泣き声が聞こえた。メイドは大慌てだったが、子どもはこれくらいの傷はよくあることと両親は特に気にしていないようだ。まだ外は危険だと、アポロは庭もほとんど出てはいない。ただ屋敷も大きいので、遊び場としては困らないのだが。


 アリーシアも午前中の勉強が終わり、お昼を簡単にいただいた後は、お昼寝が終わったアポロと遊ぶ。

アポロはマイペースで、自分の興味があるものは突進していく。こういうところはアリーシアもあるので、性格はアリーシアにも似ているのかもしれない。

 幼児特有のプクプクした腕や頬はさわり心地がよく、たまに顔周りはよだれでぐちゃぐちゃだが、それもぬぐってあげるのもお姉さんの役割だ。


 「ねえ?あー、ねえ」


 「何?アポロ」


 最近アポロは、アリーシアを姉とやっと認識してくれて、アリーシアを呼ぶとき「ねえ」というのだ。

とってもかわいらしい。本当に大きな子どもだけれど、小さな成長が毎日嬉しい。


 アポロの指さしたのは、窓から見える庭のサンパウロの像だった。


 「あれは、サンパウロ様の石像なの。サンパウロ様はね、いつも私たちの暮らしを見守ってくださるのよ」


 「?」


 指をさして確認するようにアポロはアリーシアを見上げた。


 「ええ、アポロもサンパウロ様に見守られているわ。アポロが毎日大きくなっているのを喜ばれていると思うの。だからアポロも元気に大きくなりましょうね」


 アポロは嬉しそうにパチパチと手を叩いた。わかっているのかは判別できないが、アリーシアがサンパウロ様を語るときとても嬉しそうにするから、アポロもそれを感じ取っているのかもしれない。

 

 子どもは周囲の反応に敏感だ。

 

 最近のアポロは、兄とアリーシアがサンパウロ様の話で盛り上がっているときは、必ず中に入りたがる。兄と姉が楽しそうにしているのだから、自分も中に入れてほしいと主張しているのだろう。そういうときは、兄のアランがじっくりサンパウロ様のお話をアポロにしてあげる。

 アポロは途中で寝てしまうことも多くあるが、アランはその寝顔を見ながらまたアリーシアにお話を続けてくれる。アリーシアはアポロを抱えると結構重いので難しいが、兄はアポロを抱えて話をすることもある。アポロはとても重い。

 

 アリーシアは前世、妹がいたがこんなに重たくなかった。意外と軽々持ち上がった印象だが、アポロは重いしなんとなく妹にくらべて堅い印象だ。男の子と女の子の体の違いなのだろうか。


 アポロはたくましいしく成長しているので、母も最近はアポロを長くは抱き上げない。やはり重いと感じているのかもしれない。メイドも大きな体格の人なら軽々アポロを持ち上げているのだが、細身のメイドはやはり大変そうだ。兄とアリーシアが赤ん坊の時は、その点においては特に大変ではなかったとは思う。

 アポロは兄とアリーシアが着たものが入らなかった物も多くある。やはりビッグベイビーである。


 アポロはいたずらもよくするが、基本的に聞き分けがよく優しい子でもある。アリーシアがお腹すいてキッチンをうろうろしていたとき、先にキッチンにいたのはアポロだった。料理長に内緒でクッキーをもらったらしいアポロは、アリーシアに分けてくれた。二人で内緒でクッキーを食べたこともある。


 一応おやつの時間はあるのだが、そのとき以外はあまり甘い物を食べさせてもらえない。虫歯になってしまうからである。だから内緒でキッチンにいくと、優しい料理長は毎回ではないが手作りのお菓子をくれることもあるのだ。そういう時はアポロと一緒にお茶をのみ、穏やかな時間を過ごすことも楽しみの一つであった。


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