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オタク気質が災いしてお妃候補になりました  作者: 森の木
第二章

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2-3 絵本

 アリーシアは暇なので母に付き添って、弟のアポロの相手をしていた。アリーシアも午前中は、読み書きの先生がきて、貴族として最低限の教育を受けている。母は女の子でも教育をしっかりさせようと考えているらしく、アリーシアが勉強に関して興味があったものなら購入を許可してくれる。特にこの世界は書物が高価なものなので、そうそうおねだりはできないのだが、アリーシアが読みたいと少し難しい小説を頼めば快く許可してくれた。ただ兄が持っているものも多かったので、まずは兄に本があるかどうかを聞くことが先だ。


 当家の書庫には400年の叡智エイチが眠っている。相当古い書籍もあるのでその辺の本屋よりは数があるはずだ。ただ最近の風刺などを書いたものなどはそれほどない。


 アリーシアが興味がもてるのは、もっと楽しくラクに読めそうなものだ。そう例えば前世だったら、ライトノベルやケータイ小説などもっと手軽に読めるのがいい。しかし文字が読めるのも貴族や、それに準ずる知識人ではないとできないことだ。文字が読めるのも特権階級の証拠でもある。アリーシアにとってこの世界の知識は6歳児並のものでしかなく、文字はまだまだ勉強が必要だ。物事は多少大人ぶって考えているところはあるが、意識が覚醒したからといってそれほど変化はない。


 もともと騒ぐタイプの子どもではなかったようで、素を出し過ぎなければ静かで親の言うことを聞く子どもという認識を周囲はもつだろう。両親もアリーシアに多くを期待もしていなければ、不満もないのでアリーシアも楽だった。実際両親も毎日のことで大変忙しそうであり、アリーシアとじっくり話をする時間もない。


 アリーシアは言動が変になったと下手に騒がれたくもないし、もし問題行動をしてまた医者にお世話になったら母に心労をかけるのでは、という恐れもあった。ご飯が食べられ、雨露しのげる場所があればいいのだ。アリーシアなりに地味にストレスを感じる日々もありながら、その中でサンパウロ様への妄想は至福の時間であった。もっと本が読めればと思い、少しは読み書きの勉強もやる気にはなる。


 そういう何気ない毎日が過ぎて、アポロが生まれてからあっという間に時間が経とうとしていた。アポロは本当に健康優良児であり、体格もよく、発育も早かった。近頃はハイハイどころかつかまり立ちをして、気がつけば屋敷内を散策しているようだ。目を離すとすぐどこかへ行ってしまう。しかし、お腹がすくとキッチンへ行っているあたり本能に忠実なようだ。


 よく食べ、よく寝る子でもある。今日もご飯を食べて、ウトウトしているアポロの横で、アリーシアは兄からサンパウロ様の話を聞いていた。もうこの話は何度も聞いている。近頃は隣国の話もまじえて教えてくれる兄。政治についてはよくわからないことも多いが、どんなものがおいしいかなどそういうことには興味があった。


 アポロも寝て起きて機嫌のいいときは、アリーシアと兄の顔をよく見ている。アポロは体は大きいが、顔のパーツはアリーシアやアランに似ていた。顔は母親似らしい。目がクリクリしていて、周りの動きの興味深そうに見入っている。時々「あー、あー」とか「うー、うー」とか喃語ナンゴを話して楽しそうに会話に入ることもある。


 「アポロもサンパウロ様が好きみたい。だって、サンパウロ様っていうとパチパチ手を叩くこともあるの」


 「そうか、アランは話が上手だからな。アリーシアに勉強を教えるのも上手だからな」


 「そう、お兄様のお話はとっても上手なの。わかりやすくて、私がわからないことも何度も教えてくれるの。それにお兄様がわからないことも、次のときは調べて教えてくれるの。お兄様ってすごいの」


 「お父様、アリーシア。そんなに褒めないで。僕も興味があってたまたま調べただけだから」


 アリーシアと父が食後ゆったりとくつろいで居るとき、アランを褒めた。その側にいたアランは褒められると嬉しそうに笑うが、同時に少し照れくさいらしい。謙遜ケンソンをするのだ。母はアポロに目をやりながら、みんなの話を聞いている。アポロは食後でお腹がいっぱいなのか機嫌がいい。


 「私もっとサンパウロ様について知りたいわ。それにアポロに色々サンパウロ様のお話をしてあげたいの。何か、子ども向けの本がないかなと思っていて」


 「子どもの本? 」


 「そう。絵本…………例えば、絵だけがあって。サンパウロ様の活躍を絵でわかるような本がないかなと思って」


 「絵の本か。あることはあるけれど、子ども用ではないかも。宗教画のようなものだったらあるかな」


 「それって作れないかな? 」


 「作れると思うけれど時間もかかるだろうね」


 兄と会話をしているうちに絵本があれば、アポロもわかりやすいと思った。絵本というものがないなら、いちから作るしかないのかなと考えた。

 

 「私がこういう絵を描いてほしいと頼めば、誰か描いてくれるかしら?」

 

 「画家に描いてもらうとか? 」


 「そう。工房で頼まなくても、まだ修行中の人にデッサンでもいいから描いてもらって。そうして色をつけてもらうの」


 「そうだね、構図を簡単に描いて頼めばやりやすそうだとは思うけれど。工房でやってくれるかな」


 アランは少し考えた。


 「知り合いに頼んでみるか。少し変わったじいさんだが、新しいものが好きなじいさんがいる」


そこに口を挟んだのは、ゆっくり食後のお茶を飲んでいた父だった。


 「お父様いいの? 」


 「ああ、ダメ元で聞いてみるさ。アリーシアがアポロに教えたいっていうんだ」


アリーシアのサンパウロ様好きはもう父は十分わかっていて、それを応援してくれる。


 「お父様、ありがとう!じゃあ今日からどういう絵を描いてほしいか考えてみる」


 「夜更かしはしないようにな。しっかり毎日の勉強もすること」


 「はい、お父様! 」


 父から許しをえたことに喜びを感じたアリーシアだった。アポロに小さい頃からサンパウロ様のお話ができる!サンパウロ様マニアにするくらいアポロに教えてあげたい!アリーシアは自分の萌えを、身近な弟に語り、共有できたらそれは楽しいと考えたのだ。

 まずはオタク育成の一歩をいそしむことにしよう。そのための絵本であった。





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