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オタク気質が災いしてお妃候補になりました  作者: 森の木
第一章

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1-10 ガーデンパーティー2

 父はいつもは仕事以外ではラフな服で、動きやすいものを好む。今日は上質なシャツを着ている。元々侯爵家で育っているので、公式の場で全く違和感はない。いつも母に尻をひかれている父だが、ざっくばらんな人柄もあって、アットホームな雰囲気作るホストとして、ゲストをもてなしていた。


 「お集まりの皆さん。今日は我が妻、リリアの代わりに我が娘が皆様にご挨拶いたします。まだまだ幼い子どもですので、こういった場所は初めてです。皆さんの力添えも賜りつつ、どうか立派なレディになるべくお見守りください」


 父が声を上げて挨拶をすれば、兄に手を引かれて会場に入ったアリーシアは、そっと頭を下げる。ゆっくり周りを見渡し、前日まで練習した通りの仕草をなぞる。スカートを指先でもち、それを広げて膝を軽く折る。


 「今日は当家のパーティーへいらしてくださり、ありがとうございます。娘のアリーシアです」


 顔をそっと上げると、もう一度周りを見回す。そしてゆっくり言葉を口にする。


 「初めての場所ですので、わからないことも多いですが、どうぞよろしくお願いいたします」

 

 つたない口上であるのはわかっていた。ただ、人前で挨拶ができるか問われている大事な場面だ。アリーシアだって英雄サンパウロの血を引く、侯爵家の生まれ。きっとできる!と何度も練習のとき自分に言い聞かせた。

 声が震え、足だってガクガクしてしまう。だって前世だってこんなドレスを着て、人前で挨拶したことはないのに。


 「皆さん、今日はアリーシアを連れてご挨拶に回ります。後ほどごゆっくりお話を出来ればと思います」


 タイミングよく兄のアレンが入り、アリーシアの手をとった。やっと後ろに下がることができた。


 「さあ、今日はあくまで親交を深めるものですから。和気あいあいとした雰囲気で行いましょう。音楽を頼む」


 アリーシアとアランが下がると、父が室内楽の指揮者に目配せを送る。明るい音楽が流れ始めた。


 どうにか最初の挨拶は成功したようだ。もう部屋に引きこもりたい。これからあいさつ回りもしなくてはならないようだし、震える足はもつのだろうか。兄がしっかり手を握って支えてくれているから、どうにかがんばってみよう。


 そんなアリーシアの手を握っている兄・アランは、手の震えが伝わってきて一瞬心配そうに視線を向けた。しかしどうにか踏ん張る小さな妹の姿に、淡く笑みを浮かべる。


 父が主賓らしき人に挨拶をしている。父がアランに視線を向ける。まずはそこから挨拶をするように促されているのにアランは察した。


 「アリーシア、大丈夫。僕がいるからね」


 「お兄様! 」


 不謹慎だと思うが、こういうときの兄はとってもかっこいい。いつもは線が細い兄の印象が、今はまばゆい光をまとった王子様みたいだ。お兄様にならどこだってついていくわ!と言いそうになる。


 兄に手を引かれた先には、とても立派な服を着た男性と男の子がいた。


 どこかで見たことがあるような……


 緊張で頭がショートしそうで、いまいち頭が働かない。


 「かわいらしい娘さんだね。まさかお前にこんな可愛らしい子どもができると思わなかったよ」


 父とその男性は仲がいいみたいだった。その方はまだ若々しく、赤髪で金色の瞳だった。一緒に連れている子どもも同じ色。その後ろにいる従者らしき人は、茶色の髪の子ども。


 「当たり前だろう。リリアに似て可愛い子どもたちなんだ。ほらアリーシア、この国の世継ぎの公爵様だ。エンドリク、アリーシアに子どもを紹介してやってくれ」



 公爵様、いわゆる王太子みたいな感じだろうか。後々国王になる人。つまり赤髪の子どもは次の次の国王か。


 「アリーシア。赤ん坊のころに会ったことがあるんだけれど。かわいらしいレディになった。こちらは私の息子、エドワードだ」


 エンドリクといわれた公爵様は、エドワードと言う名の子どもをアリーシアの前に立たせた。



 「エドワードです」


 アリーシアの前に立ったエドワードは、アリーシアとそれほど変わらない年齢なのに高貴なオーラがあった。放つ空気は威圧的、そして自信家なのだろう。美形であるのには間違いないが、それよりも圧倒的強者のような雰囲気に、苦手意識をもってしまう。なんとなく怖い。


 「アリーシアです」


 あまり顔を真正面から見たくない。もし前世の25歳の体だったら、小さい子であるので生意気そうな子どもだなと思うくらいだ。子どもだから、特に何も思わなかったと思う。だけれど今は小さい少女。自分より体格のよい、さらに目に力があるエドワードに気後れしてしまう。


 「エンドリク、その後ろの子どもは? 」


 「ああ、この子はエドワードの乳兄弟なんだよ。ジャン挨拶をしなさい」


  公爵エンドリクに言われ、そばに仕えていた少年が頭を下げた。


 「今日は主人の共で参りました。乳兄弟でエドワード様に仕えております子爵のジャンです」


 「ジャンか。しっかりした子だな。子爵で………この髪の色だと南の貴族の出身か? 」


 「はい、父は南の子爵です。母が王宮で働いていたので、同時期に出産ということで、このお役目をいただきました。母は王妃様の遠い親戚でございます」


 ジャンはアリーシアよりは少し年上なのかもしれない。地味でありながらも、エドワードという少年よりももっと精神的に成熟しているような感じだ。そしてジャンをみた瞬間、中庭で出会った初恋の人に似た彼であることが分かった。緊張で頭が真っ白になりそうなのに、さらに初恋の人に似た彼をみて、アリーシアは倒れそうになるのを必死に堪えていた。


 エドワードはさっきから睨んで威圧してくるし、ジャンをみているだけで前世の記憶を思い出し苦しい気持ち、そしてときめいてしまう気持ちが渦巻き苦しいのだ。


 それから位のある人に何人か挨拶をして回ると、兄は仲がいい友人たちの輪の中へ行ってしまった。

アリーシアは少し疲れたので、パーティーがある場所とは少し離れたサンパウロの像へ行こうと思った。

 

 少し人酔いしてしまったし、落ち着きたかった。




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