表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/35

第三十三話

叔母さんは吹き出した。

「それが結論?」

彼女は本当におかしいといった様子だ。


涙まで出たのか眼を擦っている。

「あーあ。嫌になっちゃうな。……先生?」

そう彼女は市松先生に問いかける。


「ユキを連れて帰ってもどうせ自殺しちゃうんでしょ?」

「その可能性は高いですね」

「部屋が汚くなっちゃうな。面倒臭い話になるってわけね」


叔母さんは少し唇に手を置いて考える仕草をした。

「いいわ。あげる」

そう言うと彼女は僕の側に来て肩に手を置いた。


「ちゃんと面倒見るんだよ。返品無しだからね」

そう叔母さんは今までの執着から考えられないくらい淡々と言った。

彼女は目を伏せて自分の席へ戻り鞄を取ると踵を返そうとした。


「吉野さん」

そう先生が彼女の後姿に声をかける。

「大人だってつらい時は吐き出せる場所が必要ですよ」


彼は続ける。

「精神科は心の弱い人が来る場所ではありません。前に向かって前進する意思がある人間が来る場所です。だから。もし家庭がつらくなったら顔を見せに来てください。そうしたら」


市松先生は微笑んで言う。

「美味しい珈琲をお淹れしますよ」

後ろから見ただけだが彼女も微笑んだ気がした。


「お義母さん」

おもむろにユキが口を開き彼女に駆け寄った。

叔母さんも振り返る。


「……今まで本当にありがとうございました」

叔母さんはまた呆れた様に溜め息を吐いた。

それからユキの頭に手を置く。


「そういうのは自分が幸せになってから言う台詞よ」

そうユキの頭を撫でる叔母さんは一瞬だけ本当の母親にも見えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ