第三十三話
叔母さんは吹き出した。
「それが結論?」
彼女は本当におかしいといった様子だ。
涙まで出たのか眼を擦っている。
「あーあ。嫌になっちゃうな。……先生?」
そう彼女は市松先生に問いかける。
「ユキを連れて帰ってもどうせ自殺しちゃうんでしょ?」
「その可能性は高いですね」
「部屋が汚くなっちゃうな。面倒臭い話になるってわけね」
叔母さんは少し唇に手を置いて考える仕草をした。
「いいわ。あげる」
そう言うと彼女は僕の側に来て肩に手を置いた。
「ちゃんと面倒見るんだよ。返品無しだからね」
そう叔母さんは今までの執着から考えられないくらい淡々と言った。
彼女は目を伏せて自分の席へ戻り鞄を取ると踵を返そうとした。
「吉野さん」
そう先生が彼女の後姿に声をかける。
「大人だってつらい時は吐き出せる場所が必要ですよ」
彼は続ける。
「精神科は心の弱い人が来る場所ではありません。前に向かって前進する意思がある人間が来る場所です。だから。もし家庭がつらくなったら顔を見せに来てください。そうしたら」
市松先生は微笑んで言う。
「美味しい珈琲をお淹れしますよ」
後ろから見ただけだが彼女も微笑んだ気がした。
「お義母さん」
おもむろにユキが口を開き彼女に駆け寄った。
叔母さんも振り返る。
「……今まで本当にありがとうございました」
叔母さんはまた呆れた様に溜め息を吐いた。
それからユキの頭に手を置く。
「そういうのは自分が幸せになってから言う台詞よ」
そうユキの頭を撫でる叔母さんは一瞬だけ本当の母親にも見えた。




