第8話 婚約破棄からの違約金請求
さてこれはわたしが勇者として旅立った後の話。
「どういう事だ、ゼイゴス王子! 説明してもらおう!」
玉座の間に物凄い剣幕で怒鳴り込んで来た初老の貴族。
わたしの父上、現マリーゴールド家当主、ダイカント=マリーゴールド公爵その人だった。
「他の女と結婚するために、ローズマリーとの婚約を破棄するだと?!」
わたしは出発前に、父上に婚約破棄された顛末を書いた手紙を送っていた。
本来は直接会って話す事だったと思う。
しかし、婚約破棄された直後は魔物襲撃を知らせなきゃだったし、その後は勇者になってしまったので不可能だった。
「納得のいく説明をしてもらうぞ!」
「い、今の余は国王代行。
その余に対する無礼、父王のお耳にも入れねばなりませんぞ」
マリーゴールド公爵のあまりの剣幕に気圧され、椅子からずり落ちそうになりながらなんとか言い返すゼイゴス王子。
王子の傍らにいるラーリンも青ざめている。
「こわっぱが!
国王の名を出せば怖じ気づくとでも思ったか!
わしを誰だと思っておる?!」
南部の温暖な気候の、肥沃な農村を保有するマリーゴールド公爵家との婚礼は政治的に重要だ。
下手をすると食料不足に陥ってしまう。
魔王が出現している今はなおさらだ。
「これは一方的な契約違反だ」
そしてわたしの父は契約違反を許しはしない。
国王陛下ならば、上手くなだめすかす交渉力もあっただろう。
しかし、ゼイゴス王子にはそんなものはない。
「わしの娘がいらないならそれでもよい。
ただし、それならば違約金を支払ってもらおうか」
わたしの父親はとても強欲で、短気なのだ。
それでいて領土経営には辣腕を奮っている。
わたしが政治に口を出す事ができたのも、この父のやり方を見ていたからというのもある。
かくして、ゼイゴス王子はマリーゴールド公爵に多額の違約金を支払う事になったのだった。
「ローズマリーから、疫病に苦しむ民衆への援助はして下さい、と言われていたので物資は送る。
有り難く思うのだな」
違約金を取ると父上は必ず言うと思っていたので、わたしは民衆には負担をかけないようにお願いしていた。
疫病が解決しても、民達は今年は苦しい日々が続くに違いないと考えたからだ。
結果として違約金は国庫から支払われ、貴族達を圧迫するようになった。
このような事態になると、さすがに大臣達も王子の浪費にいい顔はしない。
街に繰り出そうとする王子を、貴族達が制止するようになった。
そればかりでなく、今後は財政の会議にも必ず顔を出すよういい含められた。
国王陛下なら、当たり前にやってた事なんだけどね。
かくして、王子は婚約破棄の代償を支払う事になったのだった。




