第62話 婚約破棄からの隕石兵器阻止
「マリー様、僕も行きます」
シャラーナも身支度をしている。
「戦闘艇の仕組みも調べました。運転できます。
足手まといにはなりません」
「分かったわ。よろしくね」
わたし達は隕石兵器に向けて出発した。
「ローズマリー=マリーゴールド。あれを本気で止めるつもりなのか?」
まだゴーディクとの通信は繋がっていた。
「隕石兵器を一人で止めるなど……」
「やるしかないでしょ」
「作戦を止められなくて済まない。
わたしは本当にお前達と争いたくなかった」
彼も家族のために、軍人として行動しているに過ぎない。
この通信もバレたら危険なはず。
銀河帝国の軍人だけど、彼を憎む気持ちはもうなかった。
「死ぬなよ」
「ええ、死ぬのはもうたくさん。
そう言えば家族には会えた?」
「妻には会えたが、息子は兵役中だった。
後方待機らしいな」
「そう」
彼の息子はもう18歳なのだ。
しかも、18年間、任務で会えていなかったが、まだ会えていないようだ。
「……ねえ、ゴーディク。神託って何なの?」
移動しながら、気になっていた事を尋ねてみた。
彼がそんな任務を負っていたのも、その神託によってだったはず。
確か、銀河帝国は宗教でまとまっているとか言ってたっけ。
「銀河中心ブラックホール、そこにマイクロウェーブを送ると、それがブラックホールに到達する前に返事が届く。
それが神託だ」
「ブラックホール?」
「時間と空間に捕らわれない存在がそこにいる。
そして、それはこの銀河に生命を作った存在だ」
この銀河を作ったなんて、いよいよ本当に神様のよう。
「銀河帝国の侵略行動は全てその意思に従っての事なのだ」
「それが惑星グランドを攻撃しろって?」
「残念だが、そうだ」
と、言う事はここで惑星の危機を脱しても銀河帝国の侵略は続くのだろうか。
そう考えると絶望的な気分だ。
でも、銀河連邦も黙ってはいないはずだ。
後の事は後で考えよう。
今はとにかく、目の前の脅威を何とかしなければ。
「隕石兵器を確認しました」
モニターには、惑星グランドを表す円と、それに少しずつ近づいて行く円が表示される。
近づいている方が隕石兵器だ。
それらの奥のちいさな印がユウちゃんの現在位置。
わたし達の位置とユウちゃんの位置を結んだ直線が隕石兵器落下阻止の防衛線だ。
宇宙の暗闇に青く輝く惑星を見ていると、感動にも似た、切ない気持ちになってくる。
あれがわたし達のたった一つの故郷。
わたしは精神を集中した。
無意識でもユウちゃんを動かせるのだ。
集中すればもっと大きな力を発揮できるはず。
「故郷を守って見せる!」
光がわたしのかざした両手に集まって行く。
そして、それはわたしの手からユウちゃんに伸びて行った。
光はユウちゃんの所に留り、長大な光の帯になった。
「よし!」
惑星と隕石兵器の間を遮る光の帯。
目に見えるほどの、かつてない強い力が発揮されているのを感じる。
この力で、惑星兵器から惑星を守るのだ。
遠くからは少しずつ近づいているように見えた隕石だったが、今や球速接近する巨大な鉄の塊だ。
「この星を守って!」
光の帯が隕石兵器に触れる。
「やった!」
光の帯に触れた瞬間、確かに隕石兵器が動きを止めた。
「いける!」
しかし、そう思ったのは束の間の事でしかなかった。
巨大な惑星兵器が止まったと思った瞬間、大きな負荷を感じた。
「加速です。
ジェット噴射を確認しました」
負荷はどんどん大きくなり、光の帯は惑星グランドの方向にたわんでいく。
「ぐぐっ……!」
さらに負荷は大きくなる。
光の帯は隕石兵器の軌道の通りに伸びている。
もはや何の妨害もできていない。
「ああっ?!」
ふっ飛ばされたわたしは座席に座り込んでいた。
「しまった!」
慌てて宇宙を見てみると光の帯は寸断されていて、隕石兵器が惑星グランドに向かって進行していた。
「ダメ!
ダメ!
ダメ!
ダメ!
ダメェェェェェーーーーーッ!」
わたしの想いと裏腹に、もはや隕石兵器は落着していく。
目の前で、隕石兵器が惑星グランドに接する。
海に落下した隕石から津波が起こる。
真空の宇宙では轟音が起こるでもなく、まるで夢でも見ているかのようだった。
津波は陸地に到着すると土砂となって地上を走って行き、地表のほとんどを覆い尽くした。
軌道エレベータも倒壊し、土砂にのみ込まれた。
コート王国もマリーマリー王国も当然それらに飲み込まれたのだろう。
「嘘、でしょ……」
こうして惑星グランドは壊滅した。




