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マリーは10回婚約破棄される  作者: 隘路(兄)
第三部 銀河帝国編
56/71

第56話 婚約破棄からの運命からの解放

 停戦合意は無事成立した。


 軌道上の高高度プラットフォームからは、撤退していく艦隊を視認する事ができた。


 惑星侵略の危機は回避できたが、わたしにはまだ一つだけ不安があった。

 祝賀会が催されたが、わたしは疲れたと言って早々に退散した。


 今はベッドの上で、膝を抱えてしゃがみ込んでいる。

 目の前に置かれたデジタル時計は、どの惑星にいても、1日を24時間に分けて表示してくれる便利アイテムだ。


 デジタル表示を凝視する。

 午前0時を迎えるまで、運命シークエンスが発動しないか確認するまで、わたしの不安は消えない。


 胸に手を当て、ドキドキしながらその瞬間を待つ。


 時計に0が4つ並ぶ。

 手のひらに伝わる鼓動に変化はない。

 胸を貫く刃は現れない。


 そのまま10秒経過したが何も起こらない。

 念のため時計を鷲づかんで、時刻取得ボタンを長押しする。

 惑星の公転と自転と恒星との位置関係を計算して、改めて時刻が算出される。


 それでも数字は変化しない。


 間違いなく午前0時になった。

 午前0時を経過しても、わたしはどうやら生きている。


「ふーーーっ……………!」


 ベッドに大の字で横たわる。

 これで正解だったみたい。

 少なくともまた1日は生き延びられる。


「マリー、起きていますか?」


 ノックと共にメルテの声が聞こえてきた。

 軽い足取りでドアに向かって行くわたし。


「メルテ、やったわ!

 わたし、生きてる!

 新記録よ!」


 メルテの腕をつかんで、部屋に招き入れ、抱きしめる。


「ハイタッチしましょう」


「マリー、待って下さい」


 メルテの瞳が回転している。

 至近距離で見る瞳の幾何学模様。

 細かなディティールまでよく見える。


「話があります。

 ハイタッチの前に聞いて下さい」


「え、何?」


 わたしは手のひらを広げた状態で動きを止めた。

 何か大事な話があるようだ。


「本日午前0時に観測しました。


 マリーに掛けられた運命シークエンスは消滅しました。」


「え?」


 わたしに掛けられた呪い。

 午前0時に死に、婚約破棄の瞬間に戻される呪い。

 メルテがその性質を突き止め、運命シークエンスと名付けた。


 干渉する事すらできないとされたそれが消滅した?


「本当?」


「マリーを直接見て、確認しにきました。

 間違いありません」


「演算した?」


「演算しました」


 だから瞳の幾何学模様が回転していたのね。


「運命シークエンスは消滅しました」


 そして、回転が止まる。


「そっか………」


 その場にへなへなと座り込むわたし。


 呪いが消えた。

 もう午前0時を恐れる必要はなくなった。


 しかし何故このタイミング?

 そもそも何のために掛けられた呪いなの?


 分からない事だらけだけだ。

 でもとにかく、


「ハイターッチ!」


 暗い部屋に乾いた音が響く。

 つい力が入り過ぎて、手がしびれている。


「ごめんね、メルテ」


 今回ばかりは許して欲しい。

 10日間を無事生き延びただけでも嬉しいのに、今後は午前0時になる度にドキドキしなくて済むなんて、嬉し過ぎる。


 運命シークエンスが結局何なのかは、後でゴーディクに詳しく尋ねてみよう。


 マリーマリー連邦共和国の運営もあるし、心配事はどっさりある。

 まだまだ気は抜けない。


 と、思っていたが、その夜は速攻で眠りに落ちていた。

 さすがに疲れた。


 ☆☆☆


 翌日、軌道エレベータに押し寄せる船団が見えた。


 と、言っても宇宙船の話ではない。

 海上から向かってくる帆船の群れだ。


 帆船に描かれた紋章には見覚えがある。

 それはコート王国の紋章だった。

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