第53話 婚約破棄からの大統領就任
ジャーゼラ議員に会うため、メルテの戦闘艇で宇宙に飛んだわたし達。
「これが宇宙……!」
窓の外の光景に絶句して釘付けになるシャラーナ。
初めての見る星の海の美しさは圧巻なのだ。
きっとシャラーナも感動しているに違いない。
「でも宇宙空間は真空状態で息ができないのでは?
あと有害な宇宙線が飛びかっているのでは?
この宇宙船の機密性は大丈夫なんですか?」
そうでもなかったようだ。
矢継ぎ早に質問が飛んで来る。
「環境シークエンスを展開させているので問題ありません。
展開中はハッチを開ける事も可能です」
「シークエンス?
魔法みたいなものなのかな。
君が制御しているの? すごい!」
宇宙のスペクタクルより、シークエンスの方が気になるみたい。
天才魔術師は目の付け所が違う。
「戦闘艇や高速艇を、電気的に制御する能力を与えられたのがオートパイロットです」
ちょっと自慢げなメルテ。
「すごいな。僕も使ってみたい。
シークエンスの事をもっと教えてよ」
「教えても構いませんが、あなたが遺伝子操作されたオートパイロットのように、シークエンスを使えるようにはならないでしょう」
「そうなの?」
「普通の人間は、補助装置で脳波を制御して使用します。
その場合でも訓練が必要です」
「どんな訓練? 興味があるね。
是非教えて欲しい」
天才魔術師は好奇心旺盛だ。
「作戦行動中でなければ構いません」
メルテの声が弾んでいる。
シャラーナのリアクションはまんざらではなかったようだ。
仲良くなってくれれば何より。
「見えてきました」
宇宙船などよりはるかに大きい建造物が近づいてくる。
「マリー様、あれが高高度プラットフォー厶ですか?」
「そうね。
わたしが見たものより全然大きいけど」
以前見たのは宇宙船の停留所のような施設だったが、目の前の建造物は無数の建物が乱立しており、さながらひとつの都市のようだった。
規模感が桁違いだ。
「前見たのは二世代は古いタイプとか言ってたっけ。
これは新しいもの?」
「はい。
要塞としての機能を兼ね備えた、最新式です。
帝国の首都惑星のものと同等の規模です」
帝国の首都と同じ!?
「それって最高クラスって事?」
「そう考えてもらっても差し支えありません」
すごいものをジャーゼラ議員は用意してくれたものだ。
戦闘艇が停泊するとそこにはすでにジャーゼラ議員が待ち構えていた。
「マリー君、また会えて光栄だ」
「でも、故郷の協力は得られませんでしたわ」
「そうらしいね。
だが、その可能性は考えていた。
内乱状態の惑星との貿易も珍しくはない」
過去にも似たような事はあったようだ。
宇宙に出たからと言って地上の争いがなかった事にはならない。
「さっそくだが、特効薬の量産の話をしよう」
そう、それが急務だ。
「材料のほとんどはこちらで用意できそうだ」
「本当ですか?
貴重な薬草もあったはずです」
「銀河連邦中を探し、大体同じような成分のものは見つかった」
銀河連の膨大な数の惑星の中からなら、確かに見つかるのかも。
「『魔力』の宿ったもの以外はね」
それでも発見できないものはあるみたい。
魔法文明は魔界のある星にしか現れないんだっけ。
「それなら僕が栽培法を知っています」
「助かる。
特効薬の量産は銀河中の人命に関わる」
そうなのだ。
この貿易は単に利益のためではない。
ティアラ病に苦しむ銀河連邦の人々のために必要なのだ。
「この高高度プラットフォーム内で特効薬のプラントを作る。
そして、軌道エレベータを建設し、国家を建設するんだ」
「国を作る?!」
「この都市型のの高高度プラットフォームなら国家を建設する事も可能だ。
これで銀河連邦に加盟できるだろう」
そうか。
どの国の助けも受けられないなら、国家を自前で用意すればいい。
確かにこれで戦いを止められる。
「恐らくこの方法が最も早く特効薬の量産態勢を整えられる」
「そうね。
病に苦しむ人々のためにも、急がなけいと」
ジャーゼラ議員はティアラ病の特効薬の量産に向けて、最速の方法を求めている。
こちらとしても銀河帝国が侵略して来る10日目までに、銀河連邦に加盟しなければならない。
「国家の建設にはわたくしも賛成ですわ」
お互いの思惑が一致した瞬間だ。
と、言いたいところだったが、その後の議員の提案は全く思ってもみない事だった。
「ではマリー殿、あなたを初代大統領として話を進める」
「わ、わたしが何ですって?」
大統領って何?
「大統領とは選挙によって民主的に選ばれたリーダーの事だ」
世襲による王政は前時代的で、銀河連邦では好まれない。
しかし、だからってわたしがリーダー?!。
「ちょっと待って。
わたしは民主的に選ばれなくていいの?」
「選挙をする時間的な余裕がない。
それに、誰に聞いても、この国のリーダーにふさわしいのはマリー君だと言うはずだ」
そういうものかなあ。
「その通りです、マリー様。
マリー様がリーダー以外、考えられません」
「わたしのマスターはマリーです。
わたしもそれで問題はないと思います」
シャラーナとメルテは賛成みたい。
「うーん……!」
時間がないという現実もある。
10日で銀河帝国の大艦隊の侵略を止めなければならない。
できなければまたわたしは胸を刺し貫かれて殺される。
「やるしかないか!」
こうしてわたしは大統領になる事にした。




