第48話 婚約破棄からの制圧を目的とした総攻撃
「空の上から人間界を侵略しに来るだと?!」
わたしはザンとリンドに銀河帝国の侵略の魔の手が迫っている事を説明した。
「ダイザーの親分だか何だか知らねえがふざけるんじゃねえぜ!」
人間界を侵略していた魔王が何を言ってるんだと思ったが、それはこの際、黙っておこう。
「そいつらを倒すために我らの力を借りたいのか」
「相手はとても強大なの。
お願い、力を貸して」
「ワシはそなたの下僕よ。
願う必要などはない」
行きがかり上、魔竜リンドはわたしの下僕なのだ。
今となっては心強い限り。
「ダイザーの奴は気に食わんしな」
「ああ、リンド。
まずはその銀河帝国をやるしかねえ」
魔王ザンと魔竜リンドの協力は得られそうだ。
「じゃあ行くか、宇宙とやらに」
「うむ、ザンよ。
ダイザーの奴を倒すためだ。
特別にワシの背にに乗せてやろう」
「ああ、頼んだぜ!」
あのいがみ合っていたザンとリンドが意気投合している。
魔竜と魔王が宇宙で戦う勇壮な姿を想像すると……、想像すると…………
「ねえ、シャラーナ、あの二人って宇宙に出ても大丈夫だと思う?」
急に心配になってきた。
宇宙では生物は生きられないらしいけど、魔族はどうなのだろう。
「宇宙では太陽の紫外線を直接浴びる事になりますが、大丈夫ですか?」
「太陽か。おれは太陽は苦手なんだ」
「まさか太陽を浴びると溶けちゃうとか?」
「そうじゃねえが、力が入らなくなっちまう」
ザンと宇宙は相性が悪かったようだ。
「ガッハッハッハッハ!
ならばワシに任せておくのだな。
ワシは炎には強いのだ」
紫外線と炎の話は別のような気がするけど、でもドラゴンならばあるいは。
「宇宙は超低温の世界ですけど、耐えられますか?」
「ワシは冷気には弱いのだ」
リンドも宇宙との相性は悪かった。
宇宙という死の世界は、魔族をもってしても生き延びる事は出来ないようだ。
「どうせこっちに来るんだろうが」
「うむ、地上で蹴散らしてやるまでよ」
わたしとしては地上に被害が及ばないようにしたかったが、なかなか上手くいかない。
そして宇宙10日目、メルテが急に瞳の幾何学模様を回転させた。
「跳躍の反応です」
空を見上げたが、その時は何も見えなかった。
「銀河帝国艦隊が現れました。
宇宙戦艦100隻以上です。
10以上の艦隊が集結していると予想されます」
みるみる空が曇って行く。
まるで嵐の迫る前のように……。
しかし、それらは雲ではなかった。
宇宙から迫りくる無数の戦艦の影だった。
制圧を目的とした総攻撃。
その言葉がついに現実になった。
もはや夜になったように暗い。
まるで世界が終わる前触れのような光景だ。
「ファーワールド氏より通信です」
メルテが戦闘艇から呼び掛けてきた。
「ちょうどいいわ。
わたしも話がしたかったところよ」
目の前に敵が迫っている。
今こそ銀河連邦の力を借りたい。
「状況は分かっているよ。
この艦隊はゴーディクが率いている。
どうやら奴は少将に昇進したようだ」
ゴーディクの奴、追ってこないと思っていたら、昇進なんかしていたのね。
「こちらの軍団の編成はまだ始まったばかり、そう簡単にはいかない。
到着まで20日はかかるだろう」
それでは遅過ぎる。
でも、数日前に決まった話なので、仕方がないと言えば仕方がない。
「それまでわたし達だけでどうにかしろって事?」
どうにかと言っても、文明のレベルが違い過ぎる。
1日だってもつか怪しい。
「僕ら銀河解放軍は先遣隊として駆けつけるつもりさ。
幸い、敵は軍団の集結まではまだ時間がある。
仕掛けて来るのは恐らく明朝だろう」
ファーワールド達が来てくれる。
それだけでも光は見えて来た気がする。
「20日持たせられるかしら」
わたしはシャラーナとメルテの方を見てみた。
しかし、二人とも渋い表情をしている。
「いえ、マリー様。
問題はそこではありません。
仮に20日持ちこたえたとしても、それは戦いの始まりに過ぎません」
それは確かにそうかも知れない。
「空を覆う軍勢を目の前で見て実感しました。
この戦争は一年以上は続くでしょう」
そんな……。
一年でどれだけの被害が出てしまうのだろう。
「メルテの演算でも同じ結果なの?」
「シャラーナの見解は、予測され得る状況の中で、最も楽観的なパターンです。
わたしの見立てでは、一年もかからずこの惑星は焦土になる可能性が高いです」
なんて事!
それでは銀河連邦の協力を取り付けた意味がない。
「世界が終わる前触れのような光景」なんてのんきな事を言ってる場合じゃない。
でも、どうすればいいの?
何か、何か、方法を考えなけれぱ。
「むむむ…………」
いくら考えても、夜になっても、いいアイデアは出ない。
明朝には銀河帝国の大艦隊が攻め寄せてくるというのに。
まずはこれから何が起こるか見極め、作戦を決め、それから……、それから……。
「ごふっ……!」
午前0時になった。
光の刃がみぞおちから突き出している。
「だめ……、だった……?」
内心、ここまではこれで正解だと思っていた。
新たな10日間でも始まるのだろうと思っていた。
しかし、それは甘かった。
10日間でどこまでやればいいのか。
それとも正解などなくて、死の運命を避ける事はできないのか。
これ以上、わたしにできる事はあるのか。
「むむむ………、む……」
わたしは悩みながら意識を失っていったのだった。




