第38話 婚約破棄からの銀河外縁部へ
銀河中心戦線での戦いに勝利を収めたわたしとメルテは銀河外縁部へ向かった。
銀河連邦の支援を取り付ける事以外に戦況を覆す手段はないのかも知れない。
銀河連邦の事をもっと知りたい。
ファーワールドに連絡を取り、わたしも交渉に立ち会いたいと言ってみた。
「それはいい。
マリーマリーの口から、直接惑星グランドの危機を伝えてもらえれば、交渉も有利に運ぶだろう」
ファーワールドも賛同してくれた。
「魔法文明を持つ惑星は貴重だ。
惑星グランドの保護には大きな意義がある」
「魔法文明って貴重なの?」
銀河帝国も解放軍もすごい技術力だから、魔法が貴重とは思わなかった。
「別位相空間と呼ばれる、異次元世界と繋がった惑星にしか魔法文明は現れない」
別位相空間と言う単語は聞いた事がある。
ゴーディクの円盤の中で聞こえた単語で、確か魔界の事だ。
「この銀河に別位相空間を持った惑星は三つしか発見されていない。
その内一つはまだ文明が生まれていない。
そしてもう一つはすでに文明が滅んでいる」
魔界はどこの惑星にでもあるものではないみたい。
そして、それは魔法文明の存在にも影響を与えているようだ。
「では会議の行われる銀河連邦本部で待っているよ、マリーマリー」
かくしてわたし達は銀河中心部から外縁部まで移動する事になった。
「本部まではどのくらいかかるの?」
「本拠地に辿り着くまで2日。
そこで戦艦に乗り換えてから5日くらいですかね」
シャインの声が告げる。
「跳躍を使用して、5日もかかりますか?」
メルテは意外そうに言った。
「わたしの演算では、その半分くらいの時間で行けるはずです」
メルテの瞳の幾何学模様が、ほんの一瞬だけ動いた。
「帝国軍の戦艦と同じに考えられては困りますよ!」
本当に困ったような声でシャインは悲鳴を上げた。
「帝国軍と解放軍では技術力に2世代くらい差があります」
科学力で発展したというだけあって、銀河帝国の技術力はやはりすごい。
帝国の戦艦の方が跳躍の性能も高いらしい。
軍隊の規模だけでなく、科学力でも帝国軍が勝っている。
だからこそ銀河連邦の協力が得たいのだろう。
かくしてわたしは、5日間待っているしかなくなった。
窓の外が暗黒の空間しかないと、不安な気持ちになってくる。
はじめこそ星空の美しさに心を奪われたが、見慣れてしまうと一面に広がる暗黒に息が詰まるような気分になってきた。
たまに惑星が間近に見えてくると、その輝きから目が離せなくなる。
用もないのに、降下したくなってしまう。
惑星を愛おしく感じて、涙すら出てしまう。
どうしたんだろう?
ホームシックだろうか。
別にあの惑星は故郷ではないんだけど。
「それは生存本能のせいですよ」
その話をしたらシャインは笑って言った。
「宇宙空間は死の世界です。
あらゆる意味で生命の存在を否定しています。
だから生き物の生存本能は、死の世界から惑星を見た時に、そこに戻らなければならないと感じてしまうのです」
だから故郷でなくても惹きつけられるのか。
「天体の持つ重力は魂をも引き寄せる、なんて言う人もいます」
不思議な話だけど納得感はあった。
なんだかおひさまが見たくなってきてしまった。
間近にある恒星ではなく、大地から見上げる太陽が。
「そろそろ外縁部です」
メルテがつぶやいた。
「メルテはそんな事も分かるのね」
彼女はこの戦艦の運転には関わっていないのに。
「演算しました」
瞳の幾何学模様が回転している。
「戦艦のコンピュータにアクセスしました」
戦闘艇を電気的に制御できるのがオートパイロット。
その能力は戦艦にも及んでいるようだ。
そう言えば戦艦を自爆させようとした事もあった。
「見えて来ました。あれが連邦本部のある惑星リムスです」
窓の外の惑星は表面に無数の明かりがともっていた。
惑星グランドの外観はこうではなかったはずだ。
「銀河連邦一の都会ですらね」
シャインは驚いた様子はない。
「建物の明かりですよ」
惑星リムスは、惑星グランドのどの城郭よりも立派な建物が乱立していた。
明かりはそれらの巨大建造物からだった。
「これが銀河連邦……!」
こんな建物が無数にあるなんて!
宇宙では何事にも圧倒されるばかりだ。
かくして、わたし達は会議の行われる惑星リムスに到着したのだった。




