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マリーは10回婚約破棄される  作者: 隘路(兄)
第三部 銀河帝国編
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第35話 婚約破棄からの中心戦線初日

「帝国の戦闘艇を奪ったというから、どれほど強い奴なのかと思ったが、小娘ではないか」


 初対面の銀河中心戦線の司令官はわたしを見てがっかりしたようだ。

 戦闘艇を奪ったのは成り行きなので、そこにあまり期待されても困る。


「この女を連れて来るために増援を1日遅らせたのならば、ファーワールドの奴も勘が悪くなったものよ」


 肩をいからせて立ち去るウェイカー。

 増援が遅れた事で機嫌が悪いのか。


「すみません。マリーさん」


 シャインが謝っている。


「ウェイカー司令は気が短いんです」


「わたしは気にしてないわ」


 シャインを困らせてもしょうがないし。

 しかし、この分だとすぐにも戦闘が始まるかも知れない。


「戦況を教えてもらえる?」


「はい」


 自室に案内されるとすぐにモニターに状況を出してもらった。

 状況はメルテが演算して表示してくれた。


 円形の銀河に部隊が展開しているなら円形なのかと思ったが、そうではなかった。


 でこぼことした形で部隊が展開している。

 中でもこの辺りの宙域に突出した形で展開していた。


「周囲に生存に適した惑星がないのでこの辺りが戦場になりやすいのです」


 なるほどね。

 宇宙が広いと言っても生存できない場所は拠点にしようがない。


 「銀河全域で戦争をしている訳ではなく、要衝となる場所を中心に戦いが起こっているのね」


 宇宙にも地上と同様に地形があるようだ。


「詳しいんですね。

 戦場にいた事があるんですか?」


「いいえ、本で得た知識だけ」


 ゼイゴス王子との婚約に向け、わたしは政治経済の知識を叩き込まれた。

 戦争も政治の一形態。

 読んだ本の中には戦争に関するものもいくつかあったのだ。


「敵の攻勢が限られているなら、ここは守りに徹するべきね」


 銀河連邦との会議の結果待ちだし、守りを鉄壁にしておくのが一番被害が少ない選択だ。


「ええ、そうなんです……」


 そう言ったシャインの表情が硬い。

 方針の一致を確認できたのに何故だろう、と思ったわたしだが、その後の作戦会議で理由はすぐに理解できた。


「シャイン隊も来たので、すぐに攻撃を開始する」


 ウェイカー司令の宣言は耳を疑うものだった。


「ここは守りを固めるべきではないの?」


 わたしはすぐに発言したが、


「新兵は黙っておれ」


 と取り合ってもらえない。


「帝国の抵抗は弱くなっている。今こそ果敢に攻める時なのだ」


 とウェイカー司令は言うが、帝国は補給線が確保できないので、部隊を展開できていないだけのように見える。

 と、言うよりそもそも攻める必要がないのでは?


「メルテはどう思う?」


 オートパイロットの意見も聞いておきたい。


「この戦力で決戦を挑んでも、消耗するだけです。


 銀河帝国はオートパイロットによって、戦力を大量に動員できるので、消耗戦も痛手にはなりません。

 費用の節約のために無意味な攻撃はしないでしょうが」


 理にかなった説明だと思う。


「ほら、元帝国兵のメルテもこう言って……」


「帝国のオートパイロットなんぞに発言権などないわ」


 ところが、ウェイカー司令は聞く耳を持たない。


「総員に連絡します。スクランブルです。

 敵部隊が接近しています」


「それ見た事か!

 ちゃんと敵が攻めて来たではないか!」


「どういう事?」


 理にかなった説明だと思ったのに。

 メルテも目を見開いていて驚いている。


 そして、シャインの表情も曇っていたが、こちらは驚きの色はなかった。


「マリーさん達の考えは正しいです。


 ここでいたずらに戦力を消耗するのは帝国側にとっても無意味です」


 会議室のモニターに宙域図と敵部隊を示す赤い光が写し出された。


 こちらに迫る戦艦を示す赤い光はまっすぐこちらに近づいているが、イマイチ整然としていなかった。

 それどころか味方同士で衝突しそうになって、減速している艦すら見受けられた。


「優秀な指揮官ではないようですね」


 メルテももはや納得した顔になっている。


「敵の指揮官、フォレスト中将は戦力が補充されると考えなしに攻め込んできます」


「付き合わないで守りを固めていればいいんじゃないの?」


「その通りです」


 意見が一致したが、シャインの表情は例によって曇っている。


「ですが、ウェイカー司令は必ず撃って出ます」


 どうやら敵も味方も、理にかなっていない戦い方をしているようだ。


 銀河中心戦線の問題が少しずつ見えて来た。


 銀河中心部1日目に目撃した戦闘は目も当てられないものだった。


「突撃せよ先手をうつのだ!」


 解放軍は高速接近する敵に先制攻撃を仕掛けた。


 高速で前進していた帝国軍の先鋒は回避し切れずビーム兵器やミサイルの直撃を受けた。


「そのまま押し込め!」


 ウェイカー司令の号令の元、前進する解放軍。

 しかし、程なく彼らの大半は返り討ちにあってしまう。


 戦艦を守る戦闘艇の合間からさらに小型の円盤型の高速艇が現れ、接近戦を仕掛けて来たのだ。

 その奇襲に突出した解放軍の戦闘艇が次々と落とされていく。

 奇襲を回避した解放軍もさらなる帝国の戦闘艇の猛攻に晒される。

 大打撃を受ける解放軍だが、帝国の高速艇もその後解放軍の戦艦の機銃であえなく散って行く。


「帝国もなかなかやりおる。

 面白くなってきたわ」


 ウェイカー司令は感極まっている。

 白熱のバトルとでも思っているのだろう。


「こんなの見てられないわ」


 しかし、わたしには全然理解できなかった。

 こんな事をしている間にも人命が失われている。


 戦闘艇も高速艇も有人だし、戦艦を運営するに当たっては数百人程度の人員が必要なのではないだろうか。

 その集団同士が殺し合っている。


 戦争とは、政治形態の最も効率が悪くて、損害の多い状態の事である。

 わたしが読んだ戦争の本には書いてあった。

 戦争状態は最短にしなければならない。


 しかし、敵味方共に指揮官にそういう視点がない。


「それに敵のオートパイロットも手強いでしょうね」


 メルテは心強いが、同じオートパイロットは敵にもいる。

 それも集団で。


「いいえ。その問題はないと思います」


 メルテは首を振った。


「この部隊の行動の無駄の多さはオートパイロットが投入されているとは思えません」


「そうなの?」


「オートパイロット同士で同期した連携攻撃ができているようには見えません」


 連携攻撃がオートパイロットの売りとか言ってたし、確かに目の前の消耗戦はお粗末過ぎるかも。


「だったら望みはあるわ」


 戦争は、最も効率が悪く、損害の多い政治状態。

 しかし、今のわたしは掛けられた呪い、運命シークエンスを解かなければならないのだ。


 ゴーディクは神の御業とか言っていたけど、帝国の上層部から命令されている事は間違いがない。

 宗教でまとめ上げられた文明とか言ってたし。

 呪いを解くためには帝国の中枢に切り込む事は必須だろう。


 そのためにはこの戦線を後退させる訳にはいかない。


「メルテ、明日は出撃しましょう」


「待機命令を受けていますが」


「わたしの見立てでは、このままでは敵も味方も大きな被害が出る。

 あなたの演算ではどう?」


「双方に壊滅的な被害が出るでしょう」


 わたしの見立てと同じだ。


「それをわたし達で阻止ましょう」


 一つだけ心配だったのは、明日を迎える前に呪いが発動する事だった。

 この日は特に何も進展がなかったし。


「おはようございます、マリー」


 しかし、無事にわたしは3日目を迎える事ができた。


 わたし達はウェイカー司令の元へ向かった。

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