第33話 婚約破棄からの帝国の脅威
無事に宇宙での二日目を迎える事ができたわたし。
朝食が済むと、銀河系図の表示された部屋に案内された。
「さっそくだが、僕らの置かれた状況を説明しよう」
地図の指さした場所が青く輝いた。
「ここが現在位置だ」
魔法のようだが、そうではないのだろう。
戦闘艇の座席に付いていた「モニター」のような仕組みに違いない。
ちなみに現在位置は渦巻き状の銀河の中心部と外縁部のちょうど中間辺りだ。
「そして、これが銀河帝国領」
銀河の中心部が真っ赤に染まった。
そして、その赤の直径がどのくらいかと言うと青の光のすれすれの辺り、つまり中心部と外縁部のほぼ中間辺りだ。
「銀河の中心部は全部帝国領?」
「生存に適さない惑星も多いので一概には言えないが、そう考えていい」
「ちなみにわたしの故郷、惑星グランドはどこです?」
「ここがそうだ」
緑色の光で示されたその場所は、こことそう離れてない位置。
赤の光と青の光の中間辺り。
つまり銀河の中間辺りだ。
と、言う事は、
「帝国軍が迫っていると言う事ね」
「残念ながらそうだ。
惑星グランドは帝国の勢力拡大の途上にある」
ゴーディクは「総攻撃を要請する」とか言っていたようだが、要請などしなくともいずれは攻撃されるさだめだったようだ。
「銀河帝国は一つの宗教によって纏め上げられ、迅速に惑星統一を果たした文明だ」
銀河の情勢を知らない事には銀河帝国への対応の仕方も分からない。
ファーワールドの説明をしっかり聞かなければ。
「彼らは銀河でも突出した科学力を発展させ、それを軍事力に転化させた。
そして、銀河帝国は銀河中心部の惑星を次々武力で制圧し、領域を広げていった」
やがて、銀河帝国は銀河連邦の領域と隣り合うに至り、戦争状態になったと言う。
銀河連邦は、銀河中心星域以外の広範囲の惑星が加盟する銀河最大の勢力だ。
大国同士の宇宙戦争は百年近く続いた。
軍事力では帝国が有利だったが、国力においては圧倒的に連邦に軍配が上がった。
銀河帝国は国力を疲弊する前に銀河連邦に降伏。銀河連邦に加盟し、その加盟国とは交戦しない事を誓った。
「銀河帝国は妥協したのね」
「そう甘くはない。
銀河連邦に議員を送り込むもくろみあっての事だ」
銀河帝国の科学力を欲しがる者は多かった。
彼らに便宜を図る事で、目的は首尾よく達成された。
以降、百五十年もの間、一応の平和な状態は続いたと言う。
「しかし、ここ15年、銀河帝国は突如銀河連邦に加盟していない中間地帯への侵略行動を開始した。
僕ら解放軍はその中間地帯の惑星の出身者が中心なんだ」
銀河連邦にも帝国を非難する人達はいるが、侵略を止める決議はできていない。
帝国が送り込んだ議員が原因だった。
帝国を銀河連邦に取り込んだ事が仇になっていた。
もちろん帝国は初めからそれを狙っていたのだろう。
ところでわたしは15年という言葉に引っ掛かりを覚えた。
ゴーディクが魔界にやって来たのは15年前だ。
と、言う事は侵略開始直後に、惑星グランドの、しかも魔界にやって来た事になる。
それは不自然な動きだ。
惑星グランドは本当に領土拡大の巻き添えなんだろうか?
ゴーディクがわたしに呪いを掛けた理由も気になる。
わたしの故郷の惑星こそが彼らの目的地である可能性はないだろうか。
「ではその目的は何だ」と言われると分からないんだけど。
「僕らの計画はこうだ」
モニターから銀河系図は消え、代わりに文字が表示される。
見た事のない文字で読めなかったけど。
「わたしが説明します」
メルテの瞳の幾何学模様が回転している。
「翻訳シークエンスはすでにマリーの惑星の言語に対応しています」
そうなんだ。
でもゴーディクの話はところどころ聞き取れなかったけど。
「旧型のシークエンスだったのでしょう。
フィードバックされてなかったのではないでしょうか。」
15年間帰還してなかったならそりゃあ旧型か。
「これから僕は銀河連邦に向かい、会議に参加する」
ファーワールドがモニターの一角を指差すと、そこが緑色に輝いた。
「銀河連邦の中心地、惑星リムスだ。
僕らはここで開かれる議会で、銀河帝国の横暴を訴える」
「うまく行くの?」
帝国の議員もいるらしいし、連邦の中にも帝国の技術力を求めている人がいるみたいだし。
「今回は勝ち目はある。
銀河連邦の中にも銀河帝国を危険視する人間は多い。
しかし、懸念材料はある」
そう言うとファーワルドはモニター上の銀河系の中心部を叩いた。
「銀河中心戦線は膠着状態だ。
会議中の僕の不在の間隙を突いて、銀河帝国が攻勢を仕掛けて来る可能性がある。
そこにお二人には行ってもらえないだろうか?」
「わたし達が役に立つのでしょうか?」
宇宙の戦闘に不慣れどころか、宇宙での生活すらままならないのに。
「ゴーディクの戦闘艇に侵入して、さらに戦艦から脱出してくるなんて素質十分さ」
リーダーのお墨付きだで、不安がなくなったなどとはとても言えない。
わたし達二人が行ったくらいで戦局が変わるものか、はなはだ疑問。
しかし、わたしは彼の提案を引き受けた。
わたしに掛けられた運命シークエンスを解くために、少しでも銀河帝国と接点のある場所に行くべきだと思ったのだ。
こうしてわたしとメルテは銀河中心戦線に向かう事になった。




