第26話 婚約破棄からのゴーディクとの対峙
お待たせいたしました。銀河帝国編スタートです。
「わたしの呪いを解く方法を教えなさい」
ダイザー、もといゴーディク大佐にユウちゃんを突き付けたわたし。
「この高速艇に潜り込んでいたとはな」
ため息をつくゴーディク。
彼はフードを脱いだ。
その顔立ちは彫りが深く、中年男性のそれだった。
他の惑星の人間のはずだけど、外見はわたし達と大差なかった。
魔族のザンだって肌の色は違ったのに。
それはさて置き、
「質問に答えなさい」
彼には何度も煮え湯を飲まされた。
このままユウちゃんを彼の首に突き刺してしまいたい衝動にかられる。
しかし、彼を殺したら、呪いを解く手掛かりを失ってしまう。
「言っただろう。
シークエンスはわたしが施したが、わたしが作ったものではない」
「だったら作ったのは誰なの?」
「神の御業だ。
あのようなものは一軍人の手に負えるものではない」
大真面目に答えるゴーディク。
「わたしの上官でも、皇帝陛下であろうとも、そのシークエンスの解除はできない。
わたしは経過を観測して、報告するだけだ」
彼の手には負えないらしいが、「じゃあしょうがないね」で済ます訳にはいかない。
「あなた、死ぬのは怖くないの?」
「何の話だ?」
「わたしが死んだら、これまでの記憶を持ったまま、過去に戻される。
わたしはあなたにとても迷惑しているのよ。
今後わたしは、あなたを必ず殺そうとするかも知れない」
ただの脅しだけど、その気になれば実行は可能な気がする。
「そして、あなたにこの任務を命じた人間が、あなたの運命を予測できなかったとは思えないわね」
ゴーディクの眉がかすかに動く。
「あなたは初めから見捨てられていたんじゃないの?」
ここはあくまで冷酷に、凄みを効かせて、彼を見下ろす。
しばらく無言だったゴーディクだが、
「誰かがやらねばならない任務なのだ。
わたしは軍人。
そのくらいの覚悟はできている……」
そうつぶやいた。
「覚悟、ね」
そういう気構えは確かにあるのだろう。
それでも彼の声がわずかにうわずったのをわたしは見逃さなかった。
「それよりわたしに協力しない?」
「どういう事だ?」
「呪いを解く事に協力してくれるなら、手心を加える気にもなるでしょ」
彼に呪いを解く事ができなくても、彼が呪いを解く手掛かりである事には代わりがない。
いちかばちか、わたしは彼に交渉してみる事にした。
「過去に戻された後も、あなたが協力者なら無下にはできない」
少しの沈黙のあと、ゴーディクは口を開いた。
「悪くはない提案だ」
「国に背く事になるけど?」
「わたしにも妻と子供がいる。
死にたくはない」
「へえ、意外ね。子供はいくつ?」
「今年で18だ。士官学校を卒業する。
もっとも15年も会っていないがな」
彼は魔界で魔神官ダイザーになり、魔界三強まで上り詰めた。
その間は家族と会う事はできなかったのだろう。
「ローズマリー=マリーゴールド、あなたがここにいる事は、まだ帝国には知られていない」
何しろゴーディク自身が、今知ったばかりだ。
「この高速艇に隠れていて欲しい。
調べられる限りの情報を与える」
「分かったわ」
わたしはユウちゃんを引っ込めた。
ずっと首に突き付けておくわけにもいかない。
そうこうしてる間に、戦艦の正面が上下に開いていく様子が見えて来た。
いよいよ中に突入する。
「着艦する。待っていてくれ」
視界が星空から、戦艦の内壁に変わって行く。
円盤は少しずつ減速していき、いよいよ着艦の瞬間が迫る。
「息子の写真だ。見るか?」
「え?」
急にそんな事を言って、ゴーディクはわたしに向かって紙切れを投げた。
「写真」というのが何なのか、わたしには分からないが、とにかく紙切れをキャッチした。
その時だった。
ゴーディクは操縦桿をグイと押し込んだ。
それは乱暴な動作で、到底着艦に必要な所作には見えなかった。
果たして円盤は、戦艦の床に衝突し、轟音と共に激しく上下動した。
「きゃあっ!」
わたしは壁にぶつかったが、ゴーディクは素早い身のこなしでハッチから外に逃れていた。
そして、
「■■■、中に侵入者がいる。捕らえろ」
円盤の外からゴーディクの声が聞こえる。
「まったく……!」
はじめから交渉に応じる気なんてなかったのだ。
キャッチした紙切れもただの白紙だった。
何が妻と子供よ。
またまたゴーディクにしてやられた。
結局、彼を取り逃がし、わたしが窮地に追い込まれてしまった。
円盤の中に突入してくる帝国軍。
カツカツと複数の足音が近づいて来る音がする。
ただし、その姿はわたしからは見えない。
なぜなら、
「ゴーディク大佐、高速艇の壁面がくり抜かれています。
■■■■■」
帝国軍が円盤の中で見つけたのは、ユウちゃんが空けた穴だけだった。
「ナイス、ユウちゃん」
ゴーディクが逃げた瞬間、ユウちゃんが空けてくれたのだ。
「探せ。
ただし、絶対に殺すな。
■■■■■、特異点である事は忘れるなよ」
さて、これからどうしよう。
円盤の真下で考える。
すぐにここにも帝国兵は来る。
ゴーディクを取り逃がした以上、長居する意味はない。
脱出しなければ。
戦艦に入った瞬間、他の円盤や、形や大きさの違う何らかの物体が見えた。
円盤がここに収容されたという事は、ここに置かれている他の物体もきっと乗り物だろう。
だったら、それらを動かして脱出できないだろうか?
運転の仕方なんか知らないけど、そのくらいしか思い付かない。
無茶で無謀だが、やるしかない。
まずはこの円盤から離れなければ。
乗り物の下を潜りながら、足音や人の姿を避け移動する。
と、その時、大きな音がして、大きな声が鳴り響いた。
言葉を理解する事はできなかったが、侵入者であるわたしが原因である可能性は高い。
わたしは周囲に帝国兵のいない事を確認して、乗り物の一つによじ登る。
二等辺三角形のフォルムの長い側の頂点には透明の窓があり、その中に座席が。
わたしはコクピットらしきものの窓を持ち上げた。
これを運転して脱出するのだ。
しかし内部を見た瞬間、わたしははっとした。
前後に並んだ二つの座席。
その前部の座席にはすでに人がいたのだ。
身動き一つしないので、気が付かなかった。
その人物は、わたしに気付き、目を開けた。
気だるげな視線と目が合う。
「ご、ごきげんよう」
わたしは挨拶したけど、それで何とかなると思えない。
この騒ぎだ。
わたしの事は知れ渡っているだろう。
少女はピクリともせず、わたしを凝視する。
すると、その瞳の中で幾何学模様が現れ、回転を始めた。
瞳がそんな事になる人間にわたしは会った事がないが、何らかの魔法の動作かも知れない。
だとしたら、それは臨戦態勢と考えた方がいい。
やはり戦うしかないか。
手を上げてユウちゃんを引き寄せるわたし。
しかしその後、幾何学模様の回転は止まった。
そして、
「初めまして、マスター」
少女が口を開いた。




