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マリーは10回婚約破棄される  作者: 隘路(兄)
第二部 魔界編
19/71

第19話 婚約破棄からの敵計略看破

 荒野に現れる魔王ザン。

 反対方向から現れたのは魔竜リンド。


 魔界三強の一角である両者は睨み合う。

 ただし、いつまで経ってもそのままだった。

 ただ睨み合ってるだけだった。


「■■■■■、奴ら何をしている?」


 近くの高台からザンとリンドを見詰める黒いフードの男の姿があった。

 魔神官ダイザーだ。


「魔竜リンドは、人間界侵略の順序を巡ったくじ引きに納得していない。

 果し合いを計画していたはず。


 これは一体どういう事だ?」


「それより自分の心配をする事ね」


 彼の後ろには、宙を舞うユウちゃんを前方にかざしたわたしがいた。

 わたしはこの高台に移動していたのだ。


「ローズマリー=マリーゴールド!?」


「わたし達、初対面のはずだけど。

 どうしてわたしの名前を知っているの?」


「そうか……、すでにやり直しているのか」


 さすがは呪いを掛けた張本人。

 察しがいい。


「5回目だけど。

 これで終りにしたいわね」


「ふん……。

 しかし、それは予想していた事。


 これてでどうだ!」


 ダイザーがリンドの方を見ながら、手を大きく動かした。


 しかし、リンドは何の反応も示さない。


「何っ?!」


 ダイザーはもう一度同じ動作をした。

 その動作はさっきよりスローで丁寧だった。

 それは一回目の手順違いを疑うような、ミスを繰り返さないように細心の注意を払うような、そんな動作だった。


 しかし、ニ回目もやはり彼の狙い通りにはならなかった。


「もしかしてこれに期待をしておったのか?」


 ダイザーに降り注ぐ魔竜リンドの大きな声。

 さらにリンドが投げ捨てたものを見たダイザーは目を見開いた。

 それは策士が秘策を看破された表情だった。


 投げ捨てられたのは、金属でできた棒状の物体だった。

 もっとも折られたり、つぶされたりして、グニャグニャになっているけど、元は正方形だった。

 前回の戦いでリンドが錯乱してザンに襲いかかるきっかけとなった、魔法陣のような光を作り出していたのがこれだ。

 これが地面に埋めてあったのを、昨日掘り出しておいたのだ。


「このようなものでわしをたばかるつもりだったか!」


「■■■■■?!」


 謎の言語で狼狽するダイザー。


「わしにこのようなものは通用せん!」


 と豪語するリンドだが、事前に取り除いたから助かっただけで、正常に作動していれば問題なく通用しただろう。

 とにかく今回は、ダイザーの仕掛けた罠を阻止する事ができた。


「ちぃっ!」


 逃走するダイザー。

 崖の下の大軍勢に守らせて逃げおおせる算段だ。

 が、これも彼の望んだようにはならなかった。


 ダイザーは眠りの園や炎の山、氷の山を横目に走っていた。

 しかし、やがて彼の足は止まる。


「■■■!

 戦いが始まっている、だと?!」


 ダイザーを待ち構えていたのはザンとリンド、そしてわたしだけ。


 ハーピー三姉妹にダイザーがこちらに移動した事を確認してもらい、その後、両軍の部隊を密かに崖の近くに移動していたのだ。

 そして、その部隊が、ダイザー軍への奇襲をかけていたのだ。


「やはり、侮れんか、ローズマリー=マリーゴールド」


 混戦の中に飛び込み、逃げるダイザー。


「ザン様ーっ!」


 ちょうどこのタイミングで鎧兜を纏い、馬に跨った騎士が現れた。


「我らとドラゴン軍団の強襲は成功しました!」


 兜を取った騎士はゴブリンだった。


「よくやったぜ、ヴォルフガング!」


 ゴブリンの名はヴォルフガング。

 ザンの副官だ。


「敵の配置は全てローズマリー様の言われた通りでした。

 地中のゴーレムまで言い当てられるとは、まったく驚きです」


 前回は手痛い敗北だったが、敗走しながらもダイザーの軍勢の配置を頭に叩き込んでいた。


 死んだ後の事を当てにするなんてよくないと思うけど、やり直す機会を得たならば経験は活用させてもらうのだ。


「ドラゴン軍団が炎の山をものともしないのも驚きました。


 炎の山からの奇襲で敵軍は総崩れになりました」


 これも昨日打ち合わせた事だった。

 途中に炎の山があった話をしたら、リンドから申し出があったのだ。


 自分の配下の火竜達なら、炎の山など我が家も同然だと。


 それでザンの配下の魔族部隊は、ダイザー軍を炎の山の近くまでおびき寄せたのだ。


「■■■■■!

 ローズマリー=マリーゴールド、お前の仕業だな」


 ダイザーの怒声には、明らかな焦りの色が見えた。


「この作戦を先回りしていたか。■■■!」


 走って逃げるダイザー。

 しかし、今度は追跡の邪魔をする魔物の軍勢はいない。


「待ちなさい!」


 追いかけるわたし。


「マリー、慌てる事はねえ。

 奴の逃げ込む場所は決まっている」


 後ろからザンが声を掛けて来た。


「奴の本拠地は分かってる。

 このまま攻め込むぜ」


 ついにダイザーの本拠地に向かう時がやって来たのだった。

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