第18話 婚約破棄からの魔界決戦のやり直し
「ローズマリー=マリーゴールド!
お前との婚約を破棄する!」
ついにわたしに呪いを掛けた張本人、魔神官ダイザーが姿を現わす。
しかし、ダイザーの魔法によって魔竜リンドが操られてしまった。
大混戦になってしまい、ダイザーを取り逃がしてしまう。
結局、午前0時の呪いが発動し、わたしは死んでしまい、玉座の間に戻された。
「くっ……、何て事!
こんな事になるなんて……!」
ショックのあまりこの場に崩れ落ちる。
「わたしは何て愚かなの!?」
呪いを掛けた張本人が、何の備えもしていない訳がないのに。
顔を覆うわたし。
「ふん、後悔しても遅いぞ、ローズマリー!」
完全にしてやられた形の、無惨な敗北だった。
「ああ……! く……、悔しい……!」
「余に対して生意気な口を聞くからだ」
大部隊に守られたダイザーに追いつくのは簡単な事じゃないだろう。
「一体どうすれば……」
真相にあと少しのところにまで近付いているのに。
「どうもこうもない。
せいぜい後悔するんだな」
そう、どうもこうもない。
やるべき事は決まっている。
「魔界に行ってきます」
「何で?!」
わたしは片手を上げ、大きく開いた。
すると、ユウちゃんが飛んで来て、手に収まる。
ちなみにユウちゃんは、勇者の衣も城の宝物庫から、持って来てくれていた。
「気が利くね、ユウちゃん。
じゃあ、そういう事で」
「こ、婚約破棄の事は……?」
「それは全然オッケーです」
「全然オッケー?!」
そんな小事には構っていられない。
「帰りはいつになるか分かりません。
ではごきげんよう。
あ、シャラーナ、ついて来て」
「マリー様?!」
玉座の間の全員があっけに取られている。
「それから、勇者セットはお借りします。
魔王は途中でやっつけるからご安心を」
「途中で?!」
「よしなに」
かくしてわたしは一目散に城を飛び出た。
「ぐあああああっ!」
そして、首尾よく魔王ザンをやっつけた。
「このおれが手も足も出ないとは……!」
戦いも小慣れたもので、軽くザンを追い詰めた。
しかし、今回はわたしに呪いを掛けたのが誰なのかを追及したりしない。
ダイザーか、あるいは彼が仕えている魔神か何かなのは明らかだからだ。
代わりわたしは言った。
「魔界に戻った瞬間、魔竜リンドが待ち構えているわ」
「なんでそんな事が分かるんだ?
リンドは人間界に来た事はないはずだ」
ザンが驚くのも無理はないが、分かるのだ。
リンドがザンより頭が悪くて、魔法を使えない事も分かっている。
「このままではハーピー姉妹がさらわれる。
手負いのあなたには助けられない」
「えーっ、普通に怖いんだけど!」
「微妙に怖いんだけど!」
「逆に怖いんだけど!」
ハーピー姉妹が悲鳴を上げる。
「なんでそんな事をわざわざおれに教える?
関係ねえだろうが」
「関係あるの。ダイザーを捕まえたい」
「ダイザーだと?
なんで奴の事まで知っているんだ?」
「彼に呪いを掛けられたからよ」
「呪い?」
「殺されて時間が戻る呪い」
「時間が戻る呪い!?」
「これが5回目。
あなたに勝つのは3回目になるわ」
「さ、3回目だと?
次から次へと何なんだ、お前?!」
「傷を治しがてらでいいから、聞いてもらえる?」
わたしはザンにこれまでの事を話した。
「3回も負けてるのか、おれは……」
回を重ねるたびに、わたしはユウちゃんの扱いが上手くなっていた。
もはやザンには負ける気がしない。
「ちゃんと転移して、その場でリンドと勝負して」
前回はわたしが転移魔法に強引に割り込んだせいで、ハーピー三姉妹は木に引っ掛かり、リンドに連れ去られた。
「落ち着いて転移しましょう。
さあ、転移魔法を使って」
ザンが地面に手を当てると光り輝く魔法陣が現れる。
ちなみに前回は気付かなかったのだが、この時点でシャラーナはかなり目を輝かせていた。
魔王の魔法陣に興味津々らしい。
「ごめん遊ばせ」
魔法陣に入るわたし。
「お前、ひっついてくんなよ。
暑苦しい」
そう言われても、魔法陣に収まらないといけないんだから仕方がない。
「あなたは魔法に集中して」
「っち、じゃあいくぞ」
こうしてわたしは、魔王ザンと共に二度目の魔界転移をした。
今度こそダイザーを追い詰めて、わたしに掛けられた呪いを解いて見せる!
「着いたぜ」
魔王ザンと一緒に魔界に転移したわたし。
今度は振動もなく静かに転移できた。
魔法陣が静かに光を失い、ゆっくりと消えて行く。
「こっちよ」
荒野を走るわたし。
まっしぐらに目指すは前回ハーピー姉妹が引っ掛かった岩山。
その向こうには……、
「な……、何だ、貴様?!」
岩山の後ろに回り込む。
そこには黒い巨大なドラゴンの姿が。
「見つけたわ、魔竜リンド!」
「何故わしがここにいるのが分かった?」
2度目だからだけど、その説明は面倒だ。
「それより何でてめえが待ち伏せしてるのか、教えてもらおうか?」
しかし、説明するまでもなく、割って入ってくるザン。
「おれを騙し討ちするつもりだったのか?」
「そんな真似をする訳がなかろう。
やはり、くじ引きで人間界を攻める順番を決めるなど納得できん。
貴様と決着を付けようと思って待っておったのだ。
しかし、まさか人間の女に負けたとはな」
「ああ?」
まあ負けたのは事実なんだけど。
「貴様が魔王を名乗るなどおこがましい。
わしの下僕になるなら、わしが代わりに人間界を攻めてやってもよい」
「てめえ、ざけんじゃねえぞ」
「やるか、魔王ザン」
「おれもくじ引きには納得してねえ。
ここでやってやるよ」
それからザンはわたしをちらっと見やった。
「勝負の邪魔をすんじゃねえぞ」
手を振るわたし。
今日中に対決を済ませてもらえるなら、好きにしてもらって構わない。
「やるぜ、リンド!」
「来るがいい、ザン!」
こうして前回とは1日繰り上げで、魔王と魔竜の決戦が始まった。
「ザン様! そんなドラゴン野郎、のしちまえ!」
「リンド様! 負け犬はさっさと片付けて人間界に攻め込みましょうぜ!」
いつの間にか二人の手下達も現れ、観戦に盛り上がっていた。
「普通に頑張れー!」
「微妙に頑張れー!」
「逆に頑張れー!」
捕まっていないハーピー三姉妹も、飛び回って声援を送っている。
誰もが魔界の頂上対決に熱狂していた。
「早く終わらないかな」
わたし以外は。
「やるじゃねえか……、リンド」
「貴様もな……、ザン」
大の字になって寝転がるザンとリンド。
「二人とも気が済んだ?」
あくびを抑えなら寝転がるふたりに近付く。
「それで明日の計画の話をしたいんだけど……」
「おう、そうだったな」
起き上がるザン。
「そう言えばその女は何だ?
ザンに勝ったなら勇者ではないのか?」
ダイザ―も鎌首を持ち上げ、わたしを睨む。
「まあそうなんだけど」
「同じ時間を何度もやり直してる、らしいぜ」
「何を言っておる?」
わたしは二人にダイザ―の罠について話して聞かせた。
☆☆☆
「おはようございます、ローズマリー様」
「おはよう、リーゼロッテ」
次の朝、魔王ザンの城でよく眠ったわたしは、ゴブリンのリーゼロッテに起こされた。
「普通におはよう!」
「微妙におはよう!」
「逆におはよう!」
「よう、ちゃんと休んだか、マリー」
前回と違い、ハーピー三姉妹もいる、魔界の魔王の城の、にぎやかな食卓。
「おはよう。
とってもよく眠れたわ」
「じゃあしっかり食え。
これから戦なんだからな」
万全の用意をして、魔神官ダイザ―との決戦に挑む。
今度こそわたしに掛けられた呪いを解くんだから。




