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マリーは10回婚約破棄される  作者: 隘路(兄)
第二部 魔界編
18/71

第18話 婚約破棄からの魔界決戦のやり直し

「ローズマリー=マリーゴールド!

 お前との婚約を破棄する!」


 ついにわたしに呪いを掛けた張本人、魔神官ダイザーが姿を現わす。

 しかし、ダイザーの魔法によって魔竜リンドが操られてしまった。

 大混戦になってしまい、ダイザーを取り逃がしてしまう。

 結局、午前0時の呪いが発動し、わたしは死んでしまい、玉座の間に戻された。


「くっ……、何て事!

 こんな事になるなんて……!」


 ショックのあまりこの場に崩れ落ちる。


「わたしは何て愚かなの!?」


 呪いを掛けた張本人が、何の備えもしていない訳がないのに。

 顔を覆うわたし。


「ふん、後悔しても遅いぞ、ローズマリー!」


 完全にしてやられた形の、無惨な敗北だった。


「ああ……! く……、悔しい……!」


「余に対して生意気な口を聞くからだ」


 大部隊に守られたダイザーに追いつくのは簡単な事じゃないだろう。


「一体どうすれば……」


 真相にあと少しのところにまで近付いているのに。


「どうもこうもない。

 せいぜい後悔するんだな」


 そう、どうもこうもない。

 やるべき事は決まっている。


「魔界に行ってきます」


「何で?!」


 わたしは片手を上げ、大きく開いた。

 すると、ユウちゃんが飛んで来て、手に収まる。

 ちなみにユウちゃんは、勇者の衣も城の宝物庫から、持って来てくれていた。


「気が利くね、ユウちゃん。

 じゃあ、そういう事で」


「こ、婚約破棄の事は……?」


「それは全然オッケーです」


「全然オッケー?!」


 そんな小事には構っていられない。


「帰りはいつになるか分かりません。

 ではごきげんよう。


 あ、シャラーナ、ついて来て」


「マリー様?!」


 玉座の間の全員があっけに取られている。


「それから、勇者セットはお借りします。

 魔王は途中でやっつけるからご安心を」


「途中で?!」


「よしなに」


 かくしてわたしは一目散に城を飛び出た。


「ぐあああああっ!」


 そして、首尾よく魔王ザンをやっつけた。


「このおれが手も足も出ないとは……!」


 戦いも小慣れたもので、軽くザンを追い詰めた。


 しかし、今回はわたしに呪いを掛けたのが誰なのかを追及したりしない。

 ダイザーか、あるいは彼が仕えている魔神か何かなのは明らかだからだ。


 代わりわたしは言った。


「魔界に戻った瞬間、魔竜リンドが待ち構えているわ」


「なんでそんな事が分かるんだ?


 リンドは人間界に来た事はないはずだ」


 ザンが驚くのも無理はないが、分かるのだ。

 リンドがザンより頭が悪くて、魔法を使えない事も分かっている。


「このままではハーピー姉妹がさらわれる。

 手負いのあなたには助けられない」


「えーっ、普通に怖いんだけど!」

「微妙に怖いんだけど!」

「逆に怖いんだけど!」


 ハーピー姉妹が悲鳴を上げる。


「なんでそんな事をわざわざおれに教える?

 関係ねえだろうが」


「関係あるの。ダイザーを捕まえたい」


「ダイザーだと?

 なんで奴の事まで知っているんだ?」


「彼に呪いを掛けられたからよ」


「呪い?」


「殺されて時間が戻る呪い」


「時間が戻る呪い!?」


「これが5回目。

 あなたに勝つのは3回目になるわ」


「さ、3回目だと?

 次から次へと何なんだ、お前?!」


「傷を治しがてらでいいから、聞いてもらえる?」


 わたしはザンにこれまでの事を話した。


「3回も負けてるのか、おれは……」


 回を重ねるたびに、わたしはユウちゃんの扱いが上手くなっていた。

 もはやザンには負ける気がしない。


「ちゃんと転移して、その場でリンドと勝負して」


 前回はわたしが転移魔法に強引に割り込んだせいで、ハーピー三姉妹は木に引っ掛かり、リンドに連れ去られた。


「落ち着いて転移しましょう。

 さあ、転移魔法を使って」


 ザンが地面に手を当てると光り輝く魔法陣が現れる。

 ちなみに前回は気付かなかったのだが、この時点でシャラーナはかなり目を輝かせていた。

 魔王の魔法陣に興味津々らしい。


「ごめん遊ばせ」


 魔法陣に入るわたし。


「お前、ひっついてくんなよ。

 暑苦しい」


 そう言われても、魔法陣に収まらないといけないんだから仕方がない。


「あなたは魔法に集中して」


「っち、じゃあいくぞ」


 こうしてわたしは、魔王ザンと共に二度目の魔界転移をした。

 今度こそダイザーを追い詰めて、わたしに掛けられた呪いを解いて見せる!


「着いたぜ」


 魔王ザンと一緒に魔界に転移したわたし。


 今度は振動もなく静かに転移できた。

 魔法陣が静かに光を失い、ゆっくりと消えて行く。


「こっちよ」


 荒野を走るわたし。

 まっしぐらに目指すは前回ハーピー姉妹が引っ掛かった岩山。

 その向こうには……、


「な……、何だ、貴様?!」


 岩山の後ろに回り込む。

 そこには黒い巨大なドラゴンの姿が。


「見つけたわ、魔竜リンド!」


「何故わしがここにいるのが分かった?」


 2度目だからだけど、その説明は面倒だ。


「それより何でてめえが待ち伏せしてるのか、教えてもらおうか?」


 しかし、説明するまでもなく、割って入ってくるザン。


「おれを騙し討ちするつもりだったのか?」


「そんな真似をする訳がなかろう。


 やはり、くじ引きで人間界を攻める順番を決めるなど納得できん。

 貴様と決着を付けようと思って待っておったのだ。


 しかし、まさか人間の女に負けたとはな」


「ああ?」


 まあ負けたのは事実なんだけど。


「貴様が魔王を名乗るなどおこがましい。

 わしの下僕になるなら、わしが代わりに人間界を攻めてやってもよい」


「てめえ、ざけんじゃねえぞ」


「やるか、魔王ザン」


「おれもくじ引きには納得してねえ。

 ここでやってやるよ」


 それからザンはわたしをちらっと見やった。


「勝負の邪魔をすんじゃねえぞ」


 手を振るわたし。

 今日中に対決を済ませてもらえるなら、好きにしてもらって構わない。


「やるぜ、リンド!」


「来るがいい、ザン!」


 こうして前回とは1日繰り上げで、魔王と魔竜の決戦が始まった。


「ザン様! そんなドラゴン野郎、のしちまえ!」


「リンド様! 負け犬はさっさと片付けて人間界に攻め込みましょうぜ!」


 いつの間にか二人の手下達も現れ、観戦に盛り上がっていた。


「普通に頑張れー!」

「微妙に頑張れー!」

「逆に頑張れー!」


 捕まっていないハーピー三姉妹も、飛び回って声援を送っている。

 誰もが魔界の頂上対決に熱狂していた。


「早く終わらないかな」


 わたし以外は。


「やるじゃねえか……、リンド」


「貴様もな……、ザン」


 大の字になって寝転がるザンとリンド。


「二人とも気が済んだ?」


 あくびを抑えなら寝転がるふたりに近付く。


「それで明日の計画の話をしたいんだけど……」


「おう、そうだったな」


 起き上がるザン。


「そう言えばその女は何だ?

 ザンに勝ったなら勇者ではないのか?」


 ダイザ―も鎌首を持ち上げ、わたしを睨む。


「まあそうなんだけど」


「同じ時間を何度もやり直してる、らしいぜ」


「何を言っておる?」


 わたしは二人にダイザ―の罠について話して聞かせた。


 ☆☆☆


「おはようございます、ローズマリー様」


「おはよう、リーゼロッテ」


 次の朝、魔王ザンの城でよく眠ったわたしは、ゴブリンのリーゼロッテに起こされた。


「普通におはよう!」

「微妙におはよう!」

「逆におはよう!」


「よう、ちゃんと休んだか、マリー」


 前回と違い、ハーピー三姉妹もいる、魔界の魔王の城の、にぎやかな食卓。


「おはよう。

 とってもよく眠れたわ」


「じゃあしっかり食え。

 これから戦なんだからな」


 万全の用意をして、魔神官ダイザ―との決戦に挑む。

 今度こそわたしに掛けられた呪いを解くんだから。

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