第14話 婚約破棄からの魔王との会話
翌日、わたしは城の中の一室で目覚めた。
清々しい朝、と言いたいところだが、残念ながら空は赤黒く、遠くの山々はトゲトゲした岩山で、その向うからは遠雷の音がしている。
「ああ、そうだった。 魔界だったっけ」
転移する魔王に強引に付いて行き、魔界にやって来たのだった。
「でも、ちゃんと生きてるから正解だよね」
午前0時を過ぎても、呪いは発動しなかった。
と、言う事は魔界に来た事は正解のはず。
「よく寝れましたか? ローズマリー様」
ノックの音が聞こえてきた。
入ってきたのは一人のゴブリンだった。
リーゼロッテと言う名前で、外見からは分からないが女性らしい。
「ええ、とっても」
よく手入れされたベッドは、疲れていた事もあり、ぐっすりと眠る事ができた。
「食事の用意ができてございます。
食堂へどうぞ」
身支度をして、リーゼロッテと共に食堂に行くと、魔王ザンも着席していた。
「お口に合えばよいのですが」
すでに食事も用意されていた。
パンとスープと野菜だった。
野菜は見かけないものだが、ここで収穫されたものなんだろう。
魔界での初めての食事だ。
「とってもおいしい!」
魔界の食べ物なんて何だか不気味だと思っていたが、予想に反してとてもおいしかった。
「それは何よりですわ。
わたしが作ったんです」
「本当? すごい!」
ゴブリンと言うと、粗暴で知能も低い印象を持っていたが、わたしはその認識を改めなければならないと思った。
「戦の前だ。
しっかり食っておけ」
わたしはザンと会食する事になった。
「そう言えば何であなた達は戦ってるの?」
わたしはザンに尋ねてみた。
魔王ザンと魔竜リンド。
よほどの因縁があるんだろうか。
「理由なんぞない」
え?
「強くなって最強まで昇りつめる。
勝ったら負けた奴を配下にする。
それだけだ」
魔王の侵略にも、彼らなりの理由があるのかも知れないと思ったのだが、至ってシンプルな話だった。
「なんであんた達ってそんなに野蛮なの?」
「この世界は力が全てだ。
おれはそうやって魔王と呼ばれるまでのし上がってきた」
「全然理由になってないけど」
魔界の中だけならまだしも、人間界まで侵略されてはたまったもんじゃない。
「おれに言わせるとお前の方が分からん。
なぜお前は勝ったのにおれを殺さなかった?」
確かに勇者としてはそれが正しいのかも知れない。
けど、わたしにも事情がある。
「あなたには聞きたい事があるって言ったでしょ。
わたしに呪いを掛けた人物を探しているの」
わたしはザンに呪いの内容を説明した。
「時間が戻る、だと?」
「あなたも2回やっつけてる」
「2回!?」
ザンも唖然としていた。
「そんな呪いは聞いた事がないぜ」
以前シャラーナに話した時もすごく驚いてたし、やっぱりこの呪いはかなり珍しいらしい。
「この呪いを何とかしなければ、わたしは未来に進めない」
勇者になって翌日を迎えられた時は、呪いの解けた可能性も考えた。
しかし、ザンを倒した後、人間界に留まったら再び呪いが発動した。
やはり、原因を突き止めるしかない。
「あなたもあの竜も違うなら、もう一人しかない」
「もう一人か。
魔神官ダイザーだな」
初めて名前が出てきた。
魔神官ダイザーと言うらしい。
「奴なら魔法が得意だ。
可能性があるなら奴だ」
「それはどんな人物なの?」
「ダイザーか」
そうつぶやいたダイザーは苦虫を噛み潰したような顔になった。
「急速に勢力を伸ばした奴だ。
魔神に仕えていて、魔神の復活を目的にしているらしい。
魔法で他人を操って配下にできる」
今度こそちゃんと魔法の使い手のようだ。
「操った魔物を道具のように使い捨てる、いけすかない野郎だ」
ザンはダイザーを嫌っているみたい。
恐ろしい人物のようだけど、魔法が得意なら接触してみる価値はある。
「わたしはそのダイザーに会ってみる」
「そうか」
呪いを解くに当って、今の所一番有力な手掛かりなのは間違いない。
呪いを解けなければ、結局また午前0時に殺され、婚約破棄の瞬間まで戻されてしまう。
「じゃあな。おれはリンドとの戦の支度をする」
「待って。わたしも行くわ」
「ダイザーのとこに行くんだろ?」
それはそうだけど、その前にあのハーピー達は助けたい。
「わたしのせいで魔竜に捕まったようなものだし」
「お前が気にする事じゃねえ」
「すっきりしないでしょ。
それにあなたには一泊させてもらった借りもある」
「よく分からん奴だな、お前」
「ローズマリーよ。マリーでいいわ」
「じゃあマリー、手勢を集めてくるから待ってろ」
わたし達は城の門を出たところで待つ事にした。
「ハーピー達を宜しくお願いします」
城を出ようとしたら、ゴブリンのリーゼロッテに声を掛けられた。
「あの子達を知っているの?」
「あの姉妹もわたし達も、ザン様に拾われたんです。
あの方は虐げられている弱い魔族を保護して下さっているのです」
ハーピー達はザンに保護されていたらしい。
あの魔王、ケンカが好きなだけかと思ったら、意外な一面があったみたい。
「もちろん、あなた達人間にとって、魔王は侵略者でしかないのは分かっております。
それでもわたし達はあの方を信頼しております。
わたし達はあの方を頼りにしております」
あいつも人望があるのは確かなようだ。
だからと言って、人間界侵略を水に流す事はできないけど。
「何おしゃべりしてやがる?」
ザンが姿を現した。そして、
「行くぞ、野郎共!」
「ウオオオオオオオオオッ!」
その後ろには魔物の大部隊が。
手勢は集まったようだ。
こうして、わたしと魔王ザンは、魔竜リンドと戦う事になったのだった。




