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マリーは10回婚約破棄される  作者: 隘路(兄)
第一部 王国編
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第11話 婚約破棄からのマリー覚醒

 ユウちゃんに動いて欲しいと願ったら、その通りに動いてくれた。


 魔王が拳に闘気を集中したら、輝くのも拳だけになった。

 それなら拳以外は固くないかもって思ったのだ。


 だから拳を避けて、闘気を纏ってない部分を攻撃して欲しいと思い、そしてその動きで手首を動かした。


「こういう事ができるの? わたし……」


 戦闘訓練を受けていないわたしが勇者の剣を抜くなんて、謎過ぎると思っていた。

 神様の手違いかも、と思っていた。


 でも、わたしにもできる事はあるのかも知れない。


「やりやがったなあ……!」


 ザンは腕からユウちゃんを引き抜いて、投げ捨てた。

 ユウちゃんは床に落ちる前に軌道を変え、わたしの前に戻って来る。


「やはり只者じゃあなかったな」


 二の腕の傷はすぐに止血され、傷口も塞がり始めていた。

 魔王の生命力の強さなのだろう。


「今できるようになったの。

 ……ユウちゃん」


 わたしが手首のスナップを効かせると、ユウちゃんがその動きに合わせて動く。

 やっぱりわたしの意志で動いてくれている。


 肘を動かすと、大きく薙ぎ払うように動いた。

 細かく操作する事もできるみたい。


「面白れえじゃねえか」


 魔王が構えると両手の拳が輝く。


「じゃあ肉弾戦と行こうぜ」


 魔王の拳が金色に輝く。


「くらえっ!」


「くっ!」


 魔王の拳を受け止めるユウちゃん。


「おらおらあ!」


「っ………!」


 その動きをまるで目の前の事のように感じる。

 まるでユウちゃんと視覚を共有しているみたいだった。


「大丈夫、ユウちゃん。こんなのへっちゃらでしょ?」


 パンチの連打を全て受け止める。

 わたしが手首を細かく動かすとユウちゃんはそれに連動して動いてくれた。


「てめえ、やるじゃねえか」


 まるで武術の心得のないわたしなのに、魔王の攻撃を見極め、拳に剣を合わせている。

 わたしはユウちゃんと一つになって魔王と戦っていた。

 何でわたしはこんな事ができるんだろう。

 勇者としての覚醒なのだろうか。

 訳が分からないが、拳と剣の打ち合いは続く。


 そして、戦っている内に、魔王の攻撃に強弱のブレがある事に気付く。

 さっき傷を負わせた方の腕の動きが鈍い。

 回復力が高くてもダメージは残っているようだ。


 これを利用できないだろうか?

 わたしの中でそうよぎった瞬間、ユウちゃんはわずかに後ろに下がった。


「ビビってんじゃねえぞ!」


 追いかけるザンはダメージのない方の腕で殴りかかる。

 その重く素早い一撃をユウちゃんは紙一重で回避。


 ただし、前方に。


「なんだとおっ!」


 そのまま突っ込むユウちゃん。

 魔王はもう片腕で殴りかかっていた。


 ユウちゃんは魔王のふところに潜り込む形になった。

 闘気で硬質化していないふところに。

 そのままユウちゃんは刀身を斬り上げる。


「ぐああああああ!!」


 逆袈裟斬りに斬り付けられた魔王。紫色の血の噴き出す胸を押さえている。


「魔王様ー!」


 ハーピー達の悲痛な叫び声が聞こえる。


「……お前らは、逃げろ……!」


 ハーピー達に向かって声を絞り出す魔王。

 ユウちゃんはさらなる追撃を狙って魔王に向かって行く。


「待って、ユウちゃん!」


 わたしの声でユウちゃんは、魔王の目前で止まる。


「何の真似だ?」


 苦悶の表情でわたしを見上げる魔王。


「元々あなたを殺す事が目的じゃないの」


「何言ってる?

 勇者ならオレを殺す事は目的のはずだ」


 正論ではあるけど、こちらにはそれより大事な問題がある。


「あなたにどうしても聞きたい事があるの」


「ああ?」


 害意のない事を告げたのだけど、魔王は一層キツい表情でわたしをにらみつけてきた。


「わたしには呪いが掛けられているの。

 魔王クラスでなければ掛けられないほど強力な呪い。

 あなたの呪いじゃないの?」


「なんでおれがお前に呪いなんか掛けるんだ?

 お前には今日初めて会ったんだぞ」


「じゃあマリーゴールド公爵領に魔族を差し向けた事は?」


「……ないな」


 薄々は感じていた。

 この魔王は魔法が苦手と言っていた。

 呪いなんか掛けてきそうじゃない。

 北の山奥に本拠を構えていながら、王国の南側の端に当たる公爵領を襲撃するのも不自然だ。


「分かったわ」


 わたしはユウちゃんをこちらに戻した。


 にらみ合うわたしと魔王。

 魔王は胸を押えて苦悶の表情を浮かべているが、腕と同様、胸の傷はどんどん修復している。

 この程度は致命傷ではないだろう。


「この借りは必ず返す」


 寄り添う魔王とハーピー三姉妹。

 その後、魔王が地面に手をつき呪文を唱えると、彼らの足下に魔方陣が現れた。


「他の奴らに負けんじゃねえぞ。お前を倒すのはおれなんだからな」


 魔方陣が回転し、光を放つ。


「普通に負けんじゃねえぞー」

「微妙に負けんじゃねえぞー」

「逆に負けんじゃねえぞー」


 ハーピー達の捨て台詞も聞こえ、魔方陣から光の柱が立ち上がる。


「他の奴ら?」


「魔界には3つの勢力がある。

 盟約でオレは一番に人間界に攻め込む権利を得た。

 次は別の勢力の番だ」


 この魔王以外にも同じくらいの実力者がまだ魔界にいるようだ。

 しかも二人。

 そして、それらも人間界を狙っているみたい。


「せいぜい気を付けるこったな」


 魔法陣の輝きを残し、魔王達は消えた。

 少しすると輝きも消えた。

 こうして魔王達は、魔界に去っていったのだった。


「ああっ!」


 シャラーナが声を上げ、魔法陣の跡に駆け寄る。

 急な事でびっくりした。


「どうしたの? シャラーナ」


「魔界への転移魔法なんて、そうそう見られませんよ。

 どんな文字が刻まれていたのか、もっと間近で見たかったなあ」


 彼は研究熱心な宮廷魔術師。

 魔王の使う魔法に興味津々だったみたい。


「よく見ると地面に文字が焼き付いてる。

 解読できるかなあ」


 シャラーナはひれ伏して、魔法陣のあった地面を凝視している。


「でも、彼らを逃してよかったんですか?」


 しばらく熱心に地面を凝視していたがシャラーナだったが、少しするとメモをとりながら話しかけてきた。


「あの魔王が呪いを掛けたのではないわ」


 公爵領襲撃も魔王の仕業ではなかった。


「さあ、帰りましょう」


 あくびをするわたし。

 今日の勝負は長引いた。


「もうクタクタ。眠いし」


 明日は王子に魔王を倒した報告をしないと。

 公爵領に戻って、お父様にも報告して、それから……


「もう日付が変わりますからね」


 そんなに時間が経っていたんだ。

 連戦だったものね。


 この時、シャラーナの言葉で、ふと何かがわたしの心をよぎった。

 大事な事を忘れている気がする。

 その瞬間、


「ぐふっ……!」


 背中から胸にかけて激痛が走り、みぞおちから光輝く刃が飛び出すのが見えた。


「ローズマリー様っ!」


 発動しなかった呪いが、ここで発動した。

 やはり呪いは解けてなどいなかった。


 仰向けに倒れるわたしにシャラーナが駆け寄って来る。


 勇者になった事で発動しなくなった呪いが再び発動した。

 勇者になる事が正解だから死ななかったのならば、これはつまり……


「不正解、だった……?」


「マリー様!

 ああ! これがその呪いなんですか?!」


 シャラーナの声が遠くなって来る。

 二日ぶりの激痛。

 二日ぶりの意識の混濁。


 それらの中で、わたしは何が不正解だったのか、考え続けた。

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