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ガリウスの救世者  作者: たぷから
第2部「絶海の隠者」
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第1章 8-2 襲来

 カウベニーの港へ滑り込み、一同は上陸した。リネットは(もや)った船で待つことになっていた。マレッティはアーリーが背負った。カンナはかろうじて歩けた。


 「じゃ、アーリー、明日は早いけど、なんとか休んでちょうだい。この広場に、五つころ集合ね」


 「分かった。手間をかけさせてすまない」

 五つとは、この季節なら夜明けまでかなりある。暗いうちから出発するようだ。


 翌日、その五つ。


 アーリーとカンナは少し寝てすぐ起きることができたが、マレッティはまだ船酔いの症状が残っていた。


 「景色が揺れるわあ。たまんないわね。まさかまた船に乗るんじゃないでしょうね」


 「いや、歩きだよ。入り江で退治する」

 ランタン片手に、ニエッタが答えた。

 「道すがら、退治の手順をきいておこうか」


 カウベニーの港は、バーレスよりさらに半分以下の規模だった。宿も二軒しかない。そのわりに、漁師の家々は古く立派だった。一昔前は、腕のよい漁師が稼いでいたのだ。


 「それも、竜が出て、かなり収入が減ったというよ。魚がとれないというより、とって加工した魚を売りに行くことができなくなってね。それで、おそかれながら、竜退治を」


 「それは分かった。今日は、どのように?」


 「いつも通りにやるから。自分が水上から竜をおびき寄せて、入り江に追い込む。パジャーラが動きを止めて、あたしやトケトケがトドメ」


 「うむ……と、いうことはほぼ陸上戦だな」

 「そうなるね」

 「カンナ、トケトケを護衛しろ」


 「ふえっ?」


 突然ふられ、カンナは驚いた。いや、ニエッタ達も驚いた。


 「過日の話では、トケトケの弓のみが連中に手傷を追わせたそうではないか。私なら、次は真っ先にトケトケをねらう」


 「だいじょうぶなわけ?」


 トケトケは眉をひそめてカンナを見た。カルマを知らないトケトケは、明らかにカンナへ不審を持っている。


 「まあ、いいけど」

 「が……がんばります」


 やがて夜が明けるころ、峠をこえて山道を下り、入り江に到達した。侘しい、風の吹きすさぶ狭い入り江だ。以前はここからも船が出ていたというが、いまは人もおらず閑散としている。朽ち果てた漁師小屋があるのみだ。


 海鳥がもの悲しい声をあげ、凄まじい数で上空を舞っていた。

 「じゃ、行ってくるから」


 ニエッタが右手を振り、ガリアを出した。燻銀の、大きな銛だった。ガリア「竜水銛(りゅうすいせん)」だ。そのまま海へ入ってゆく。ガリアの力で足元が水を弾き、そのまま氷上を滑るように行ってしまった。カンナとトケトケが二百キュルト(約二十メートル)ほどの高台へ残って陣取り、トケトケはそこから上から入り江へ入ってきた竜を射る。パジャーラもその手から大きな投網を出した。黒い、細かい鎖で編まれている。ガリア「小鎖連環竜捕投網(しょうされんかんりゅうほとあみ)」であった。これは、からめとった竜を完全に足止めできるというガリアだ。


 アーリーとマレッティは、砂浜で立ってそれを見守っている。

 半刻(一時間ほど)もしたころか。


 ニエッタがすごい勢いで逃げてくる。その背後に、二十近くはいるかという海トカゲの大群が迫っていた。


 「おおい! 何頭かぶっ殺したら、群れに襲われて……」


 ガリアの力で、ニエッタは竜にも負けぬ速度で水上を走れる。入り江にうまく誘い込み、波を切ってUターンすると、荒れ狂う竜へ襲いかかった。銛を次々に竜へ打ち込む。さらに、丘の上からトケトケが矢を射りつけた。トケトケの背丈ほどもある強大な鋼鉄の複合弓のガリア「鋼板発条竜射弓(こうばんばねりゅうしゃきゅう)」を、その細腕で引き絞っている。ガリアなので、連射も可能だ!


 一撃で竜を射抜き、絶命せしめてゆく。さらに、パジャーラの投網が投げ込まれ、それが空中で刺し網のように長方形に開くと、入り江の狭い口を塞いでしまった。これで竜は逃げられないうえに、何頭か網へつっこんでからめ捕られ、溺れて死んだ。海竜とて空気は吸う。


 たちまち、入り江が竜の血で真紅に染まった。

 肉片をついばみに、海鳥が群れを成してさらに集まってくる。


 と、興奮した一頭の海トカゲが、浜に上がってきた。海トカゲ竜はワニめいて陸も歩ける。


 「ぬぅ!」


 アーリーが巨大なガリア「炎色片刃斬竜剣(えんしょくかたばざんりゅうけん)」を片手で一閃! 竜は縦に真っ二つの背開きとなった。


 「たいしたものだな」

 銛一本で次々に竜を倒してゆくニエッタを見て、アーリーがつぶやいた。


 「でもこいつら、海の軽騎竜でしょお? 百や二百倒したって、自慢にもならないわあ」


 「小隊の連携の話をしている」

 「そりゃ、あたしたちは単独戦が基本だからねえ」


 あらかた、倒し終えたところだった。


 ガーン!!


 雷鳴轟き、どうしたの、カンナちゃん、とマレッティが丘の上を見やったが、当人のカンナが驚いて尻餅をついているので、あわててアーリーを見た。アーリーが右肩をおさえ、片膝をつく。


 「アーリー!!」

 アーリーは立ち上がった。

 全身に力を込めると、その右肩よりガリアの弾丸がぼろり、と落ちた。


 「な、なによ、これ」

 マレッティが見上げると、丘の上に、四人、立っていた。


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