第1章 7-3 メスト
「じ、じゃ、また……」
そそくさと三人が出てゆく。この島で百五十カスタともなると、庶民の数年分の収入にもなるのではないか。まして、それが竜を退治するたびにもらえるのだ。
「と、思いますでしょ。ところが、島の凄腕の漁師は、巨大なマグロやニシンやタラの大漁で、いっぺんにあの十倍は稼ぐときもあるんですよ」
「へええ……」
男性職員の言葉に、マレッティが感心する。
「そんな大層な町には見えないけどもねえ」
「島の反対側に御殿が立ち並んでますよ。温泉付の。丘の上に豪邸が。でも、それもここの十数年の竜の出現で、半分ほどは廃墟になってますよ。残ってるのは、公民館として使っているやつくらいで」
「たいへんなのねえ」
「さっきのは、どういう竜なのだ?」
小太りの職員が説明してくれる。
まず、サラティスの軽騎竜に匹敵するのが、海騎竜。これは、二種類が確認されていた。まず、マグロのような魚体をした竜で、手足は鰭になっているやつ。タータンカ号を襲ったやつだ。目玉が大きい。遊泳能力が高く、その尖った鼻先で船ごと突進体当たりで人を襲う。
次が、尾の長い海トカゲ竜だ。ワニにも似ている。四肢が鰭のものと、水掻きのついた手足のものがいた。魚竜ほど高速では泳げないが、パワーが凄まじい。両方とも大きさは二十キュルト(約二メートル)から五十キュルト(約五メートル)いったところだった。
次が、海の主戦竜である海戦竜。これが三種類。タータンカ号を襲った、全長百三十キュルト(約十三メートル)以上もある大海蛇。そしてトカゲ竜がそのまま巨大になった、百キュルト(約十メートル)はある大海蜥蜴。そして大王火竜に匹敵するのが、大海坊主竜だ。
「どんなやつだ、それは」
「海の大王ですよ、真っ黒い岩の塊みたいなのが、どーん、と海の中から現れて。立って歩くんです。翼はありません。尾がとても長く太いのです。火は吐きませんけど、熱水というか、火山の噴火みたいな熱い水蒸気を吐くといいます。わたしは、見たことはありませんが、パーキャス周辺には、これがまた特別に大きいのが一頭いるみたいです」
「なによそれ、バケモノじゃないの。冗談じゃないわ。大王火竜にすら勝つのは難しいというのに……海の上じゃ、あたしたちにも勝てるかどうかでしょ、そんなの」
「そいつと戦うとは限らない。問題はコンガル群島で雇っているというガリア遣いだ。そいつらの情報は何かあるか?」
事務所の職員は首を振った。
「ま、そおでしょおねえ。まずは様子見でやるしかないんじゃなあい? いきなり正面からやりあってもね……。スターラの暗殺者……裏のガリア遣い“メスト”は強いわよお」
「メスト……」
カンナは身震いした。
「対ガリア戦の訓練と実戦の場数を踏んでいるもの。カンナちゃん、アーリー、あたしたち、竜退治は専門だけど、ガリア遣いとの戦いは、慣れてないのよ? 分かってる?」
しかし、アーリーは珍しく不敵な笑みを浮かべた。マレッティは驚いた。




