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ガリウスの救世者  作者: たぷから
第2部「絶海の隠者」
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第1章 7-1 バーレスのガリア遣い

 7

 

 翌日、マレッティとカンナは早くから起き出して裏の冷たい水の井戸で顔を洗い、風が強いために着込んで、市場へ向かった。当面の食料でも買おうと思ったのだ。


 市場には、魚介しか売ってなかった。

 「晩秋といっても、根菜も売ってないのかしらあ」

 「島で、畑は作ってないんですかね」


 「ピクルスでも買わない? ……それも無いのねえ。なによこれ、豆ばっかり」


 しかし、干したハーブ類だけはやたらとあった。中には、牧草めいた乾燥ハーブの塊が軒先にいくつも転がっている店もある。みな、冬期の野菜はこのハーブで賄っているようだ。


 「こんなもの買ったって、料理なんかできないわあ。ま、朝食だけ買って帰りましょ」


 二人は島のハーブとヒヨコ豆の入ったパンを買い、借家へ戻った。

 「なんでパンに豆が入ってるわけえ?」

 「いや……さあ……」


 戻るとアーリーも起きており、ささやかな朝食をとる。それから、バーレスで雇ったガリア遣いがいるという、サラティス・ウガマール合同竜退治事務所パーキャス出張所へ向かった。


 こんなところでカルマの身分証を使うことになるとは、思いもよらなかった。


 竜退治請負のサラティス・ウガマール合同出張所は、群島政府庁舎の隣にあった。サラティスのそれに比べると、掘っ建て小屋だった。中へ入って身分証を出すと、職員の小太りな中年男性が冗談ではなく本当にひっくり返って椅子から落ちた。この人物が一人で、サラティスから出張しているのだという。他の事務員は、この島で雇っているそうだ。


 「ど、どういうわけで、カルマの方々がここに……!?」


 「わけあってのことだ。いま、サラティスのバスクが二人と、ウガマールのガリア遣いの合わせて三人が島にいると聴いたが?」


 「は、はい、二日前から竜退治にでかけております。そろそろ帰ってくるころかと」

 「待たせてもらおう」


 三人が狭い待合序でめいめいに座っていると、昼前に、その三人が戻ってきた。建物へ入るなりアーリー達と鉢合わせして、特にモクスルの二人は相当驚いたように見えた。


 「えっ!? まさか……カルマのアーリーに、マレッティ!!」


 ……と、こいつはだれだ? という顔でカンナを見やる。彼女たちは、もうここで半年近くも出張しているので、カンナを知らないのだ。


 しかしカンナにとっては、もはやそういう反応の方が有り難かった。デリナと差しで戦ったことによる、あの、剣よりも鋭い恐怖と嫉妬、不必要な羨望と憧憬の視線は、こりごりだ。


 「だれなの?」


 色黒で眼の大きな、癖のある黒髪を長く伸ばしたウガマール人のガリア遣いの少女が、年かさの二人へ尋ねる。


 「サラティスで一番上のバスク。アーリーに、マレッティ。あと一人は、フレイラ……のはずだったと思ったけど」


 「フレイラなら死んだわあ」

 さも、見下したかのように、半分鼻で笑いながらマレッティが云う。


 「なんだって……!? じゃ、この子は? セチュじゃないの?」


 「カルマの新人のカンナよお。ほらカンナちゃん、何か云いなさいよお。黙ってるから、セチュと思われてるわよお」


 どこかで聴いたことのある台詞だとカンナは思った。

 「カンナです」

 自己紹介は嫌いだった。いや、嫌いになった。


 「そいつは……ど、どうも……」


 カルマってことは、こいつが可能性80以上!? そう、顔に書いてあった。しかし今となっては懐かしい反応なので、カンナはむしろ嬉しかった。おもわずにやける。


 モクスルの二人が、明らかに引いた。

 「……で、そ、その、カルマが、わざわざなんでパーキャスに?」

 「その前に、名乗りなさいよお」

 「あ、ああ……申し訳ない」


 三人のリーダー格と思われる、茶髪にそばかすだらけの背の高い痩身の女が名乗る。


 「あたしはニエッタ。モクスルで、可能性は54。水上戦のガリアなもんで、サラティスじゃあまり仕事が無くて、ここの海竜退治を斡旋してもらったんだ」


 次に、ニエッタよりやや年上に見える、中肉中背に丸い顔をした、亜麻色の髪を海藻みたいに顔へ垂らしている女が、低い声でぼそぼそと口をきいた。


 「……自分はパジャーラです……可能性は41……ほとんどセチュですけど……サラティスじゃあまり役に立たなくて……だめ元でここに……そうしたら、役にたったようで……初めて竜退治がまともにできるように……」


 最後が、ウガマールから来たカンナと同じ歳ほどの少女が、ウガマール訛りで、

 「トケトケ。飛び道具が必要だからと、出張所から呼ばれてきたわけ」

 歳は、ニエッタが二十四、パジャーラは二十七、トケトケは十六であった。


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