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ガリウスの救世者  作者: たぷから
第2部「絶海の隠者」
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第1章 2-1 北上

 2


 サラティスからストゥーリアへゆくには、三つの方法がある。それは、中継地であるバソ村から別れるのだが、パウゲン連山を超えてゆく山越えルートと、連山の裾野を大回りしてゆくルート、そしてバソ村から西へ向かう街道の行きつく先にある港町リーディアリードから船で北方へ向かう海路ルートだ。


 最も早いのはまっすぐ北上する山越えルートで、約二十日で到着する。バソ村まで五日、山越えに十日、山を越えてからストゥーリアまで五日。


 次に早いのは、リーディアリードから船でストゥーリア領の港町ベルガンへ二日で行き、そこから徒歩で十日ほどのルート。バソ村からリーディアリードまでは約七日なので、何事もなく進んで二十四、五日……約一か月近くかかるルート。


 最も時間のかかる山裾周りルートは、街道を途中で抜け、未整備地帯の多い荒野を進むので、一か月半から二か月を要する。しかし、季節によっては山越えも海路も天候が荒れるので、特に冬場は最も確実かつ安全なルートといえる。竜の出現も少ない。ただし、迷わなければ。


 とうぜん、三人は連山越えルートを選択し、街道をバソ村へ向けて北上する。この時期はぎりぎり、厳冬期の猛烈な吹雪の前に越えることができる。


 バソ村までは徒歩で五日だが、アーリーの足では四日ほどだろう。しかし、カンナがいるので、やはり五日の行程を組んだ。途中に宿らしい宿はなく、野宿となる。かつては街道沿いに民宿が点在し、鹿や兎、猪、野牛、川魚などの野趣あふるる料理が名物だった時代もあるが、竜の出現によりまぼろしとなった。干しパン、干し果実、干し肉を五日分相応に携帯し、ただただ無味乾燥に歩くだけだ。


 この主街道は古代サティ=ラウ=トウ帝国時代に整備され、サティス=ラウ及び北部諸藩連合王国から現代に至るまで、人々の足を支えていた。途中途中に井戸、泉が設えられ、水だけは困らない。旅人は自由に喉をうるおし、水筒に水をつめることができる。


 サラティスを出て、二日ほどは順調に旅を続けていたが、連山へ近づくにつれ標高が上がり、夜は異様に冷えた。そこでアーリーとマレッティが大きな荷物から真冬用の防寒夜具を取り出したのでカンナは目を見張った。見たこともない厚さだ。


 「そ、それは……」


 「中にストゥーリア産の毛長竜の毛がつまってるの。あったかいわよお。防水もしっかりしてるし。……カンナちゃん、やけに荷物が小さいと思ったけど……そんな毛織物のマントだけなの!?」


 カンナは何も云えずに唸った。無知は恐ろしい。下女に適当な指示をした自分のミスだ。少なくともアーリーに何かしら聞けば良かった。


 「私が火をたくから、あと数日我慢しろ。バソにゆけば温泉もある……そこで厳冬期用の装備を整えるしかない」


 アーリーがガリア「炎色片刃斬竜剣(えんしょくかたばざんりゅうけん)」の力で火をおこす。カンナは自分で芝を集め、二人が休んでも火の番をするしかない。しかし、無理な相談だ。たちまち眠気におそわれ、火が消えてもかまわずに眠ってしまった。が、


 「……さぁむう!!」


 一刻もしない内に猛烈な寒気が肉体を浸食し、眠っている場合ではなくなった。底冷えに地面から冷えてくる。夜空は星が異様にきらめいて、地面の熱が吸い取られてゆくようだ。


 カンナはほとんど眠れなかった。

 朝方には霜がおりて朝日に光っていた。カンナは自分のメガネに霜がこびりついているのに、驚愕した。


 三日目でそれであるから、さらに標高が高くなる四日目と五日目は、カンナは不眠と寒さで倒れそうになりながら、這うようにして歩いた。


 「しっかりしてえ、カンナちゃあん!」

 見かねたマレッティが支えてくれるが、礼を云う気力も体力もなかった。


 「ちょっとアーリー、背負ってあげるくらいしたらどうなの!? つめたいわねえ」

 「大丈夫だ。……もう、村の入り口が見えたぞ」


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