第3章 10-4 竜神の最後の抵抗
「こんんんのやっろおおおおお!!」
神代の蓋めがけて一直線に飛んでゆくのは、なんと、瀕死のレラだ!!
「!?」
さしもの竜神が眼をむく。
七人目は、もう一人のバスクスである!!
「生きて……!?」
「ぬ、ん、ぐんんぬやらああぬぐうううう……!!」
裂け目につっこんだレラが、もう白目をむきながらも、歯も砕けんばかりに食いしばって、生命力とガリアの力をありったけふりしぼった。
とたん、蓋が完全に開いた。
ダール達を、これまでで最も凄まじい衝撃がおそった。
悲鳴も出ぬ。全身が魂ごと引き裂かれそうだった。
「い、い、い、いまよ、いまよ!! カンナ!! カンナ!!」
デリナが叫ぶ。
ズッ、と竜神が足元から引っ張られ、あわてて踏ん張った。ごっそりと神通力が蓋の中へ吸いこまれてゆく。
「やんぬるかな……!!」
「……うううわああああああ!!」
カンナが、背後より五度目の吶喊をかました。
「ーッ……!」
竜神め、人間には出せぬハイ・ソプラノのH音で竜の息を吐こうとしたが、威力がないことがすぐに分かった。喉の調子も下がっていたし、なにより神通力が凄まじい勢いで蓋の中へ吸いこまれている。
「ぬわあ!」
ならばと、戈を振り上げ、黒剣と初めて対等に対峙した。懐へ入らせないよう、一気に振り上げ、音速めいた速度で叩きつける。バアーン!! 竜笛と音響球電が炸裂し、耳もつんざく音がしてカンナがふっとばされるや、やはり竜神の力が弱い! 地面へ足跡の線を残しながらもふんばって停まり、すぐさまズドオッ! 音響弾を放ちつつ、自らも音響推進で竜神めがけてすっ飛ぶ。燕返しで竜神が戈を見事なタイミングで叩きつけるも、カンナがバンバンバン! と連続して空気を破裂させて急激に軌道を修正し、跳び上がって急カーブを描き、竜神の真上をとった。
「てやああ!!」
天より幾筋もの轟雷が降り注ぐ! 神通力と共に神威も弱まっており、雷はそのまま薄い防壁を突き破ってストラへ落ちた。
「ぎゃあああ!」
ストラが初めて悲鳴を発した。たまらずよろめき、せめて眼光をカンナへ発する。その眼光も弱い。カンナが空中へ踏みとどまって黒剣を振ると、光線を反射して切り裂いた。
「こんのおお!!」
着地したカンナが好機とストラへとびかかって黒剣をおしつける。その戈の柄も掴み、反撃される前に、一気に共鳴を叩きこんだ。
「……うぅわああああ!!」
脳天から火花が散った。眼と耳から血が噴き出したかと思った。レラをも一撃で昏倒させたカンナの必殺技だ。相殺するはずの神通力がどんどん神代の蓋へ吸いとられ、力が弱っている竜神へ覿面に効いた。
だが、もたもたしていてはアーリー達がもたない。ダールが力つきて蓋が閉まっては身も蓋もなくストラ竜神の力が復活し、形勢は大逆転。カンナは負ける。
いま、勝負をつけなくては!!
緊張と高揚で心臓が破裂せんばかりに高鳴ったが、アラス=ミレ博士が調整したカンナの肉体はそれへ耐えた。しかも、先ほどのみこんだ「何か」が、圧倒的にカンナの肉体を支えていた。そして、調整中の夢で出会った皇太子妃の最後の伝達……黒剣が、これまでで最もその力を発揮して、その威力は結果としていま! 神のガリアをも上回っているのだ!!
「こんのおおお!!」
その眼を蛍光翡翠へ輝かせ、戈の柄をつかんだままカンナが大音響を発して一気に跳び上がる。上空へ到ると、さらに神代の蓋の吸引力が強まって、カンナが何もせずとも凄まじい圧力が次元の裂け目より二人を引きずりこむ。カンナはただ押せばこのまま封神できる! ただし竜神とて神だ! ただでは封じられぬ!
「こおのおバスクスめがあ!!」
竜の手、竜の牙、竜の尾、竜の翼を展開し、最後の抵抗を試みる。
神通力が通じぬでは、もはや、純粋なる肉弾である!!




