第3章 9-7 白竜参陣
すばやく確認し、大海坊主竜と冥月竜、それに氷河竜が一頭ずつ、計三頭残っていた。その三頭で黄竜と碧竜のダールを妨害し続け、神代の蓋を開けさせないようにしなくてはならない。
「姉貴! 逃げに入るなッ!」
レラが再び空へ舞い、旋回して突進する。しかし、不用意に飛ぶと危険だ!
「レラ!」
カンナが地面へおりてレラを側面より支援する。
「猪口才な!!」
竜神がいきなりカンナめがけて走って戈を振り上げる。まずはカンナか。カンナも黒剣をふりかざした。球電と竜笛の鳴き声が直接ぶつかり合う。
甲高い竜の声と、プラズマの弾ける音が異様な軋みを立てて衝突した。そのまま対消滅し、カンナが第二波をすかさず出す。共鳴は相変わらず常に打ち消されている。直接攻撃しかない。
だが、その第二波も燕返しに振り降ろされた戈先が弾き飛ばした。
「な……!!」
カンナが驚愕に顔をゆがめる。ここまで攻撃が通用しない相手は、これまでいなかった。
「紛い、ここまでだ。よく、ここまで戦った」
ストラ竜神が、にんまりと顔を引きつらせる。瞬間、まるで瞬間移動めいて一足でカンナの間合いへ跳び、グバア!! 地面が陥没するほどの踏みこみで、竜の掌打がカンナの腹をしたたか打った。
「…………!!」
たまらず血を噴き出して、眼をむいたカンナが後ろへぶっ飛ばされる。そのまま転がって、メガネもずれたまま尾根の裂け目から崖下へ落ちそうになった。
「……姉貴ィイイイ!!」
レラが叫んで、黒刀を突き出してストラめがけ吶喊!! ストラが分厚い神威の壁を張るが、バギバギバギ!! 神威などものともせずに砕いてゆく。
だが、竜神へ届く一歩手前で、勢いが止まる。神威が増している!?
見やると、ストラ竜神の大口が化物めいて裂けんばかりに開いている。喉が復調したのか!?
紫の光がまばゆいばかりに輝き、これまでで最も激しい光線がレラを直撃した。
レラはかろうじて重力の壁を作って、即死をまぬがれるのが精一杯だった。
「…ァアアア!!」
神の声にして神の息吹! 紫竜の死の怪光線! エネルギーが弾け、大爆発が起こる。ガラネル、ショウ=マイラ、マイカ、アーリー、そしてデリナも、何事かと顔を向けた。だが閃光で咄嗟に目をつむり、顔をそむけ、腕で遮る。熱波と衝撃波が飛んできて、ダール達はそれに耐えた。
直撃をくらい、ガリアも砕けて、レラは一瞬にして全身が焼けただれ、紫の炎にくるまれて燃えながらふきとばされた。
「レラ!!」
アーリーが走り、レラを追う。だがレラはそのまま湖に落ちる軌道で、ふっとんでゆく。
そのレラを、北方の毛長飛竜へ乗った何者かが空中で受け止めた。
そのまま、素早くアーリーのところへ下りてくる。
「……ホルポス!!」
アーリーが驚いて立ちすくんだ。
冷気で応急手当をし、地面へ気絶するレラを寝かせたのは、まぎれもなく薄い萌葱色の袖無しワンピースへ手を通した、白竜のダール・ホルポスだった。そのレラやカンナ、なによりデリナへ似た雪のような白い肌と、漆黒の絹の黒髪。
「よく来た!」
「……アーリー。なんとか間に合った」
「よく……来てくれた」
アーリーが、少し背が伸びたように見えるホルポスの前に出る。
「あたしだって、ダールよ。それに……もう、ダールが生まれるのは、いやなの。もう、お母様みたいな哀しい思いは誰にもさせたくない」
ホルポスの母カルポスは先代の白竜のダールであるが、自分の娘二人がダールとしての力を幼くして発現してしまい、それに耐えきれずに早死にしたことで精神へ変調を来した。三人目のホルポスが、かろうじてダールとして安定していたときに、急死してしまったのである。
「だから、アーリーの考えに従う。もう……竜神もダールもこの世にいらないのよ」
アーリーは感慨深げに、そして哀しげにホルポスをみつめる。
「しかし……よく、ボルトニヤンとシードリィが許したな」
その二人はカルポスが作った高完成度バグルスで……ホルポスをわが子のように愛おしんでいた。ここにホルポスか来るのは、絶対に反対だったはずだ。
ホルポスは毅然と云い放った。




