第3章 7-4 審神者達
「審神者どもなんか、みんな死んだわよ」
ガラネルの声が引き攣ったように据わり、紫に光る眼元も歪む。
「なんですって……!?」
さすがにマイカも息をのんだ。ショウ=マイラを見やる。ショウ=マイラも黙りこんだ。
「?」
空気が少し変わり、ガラネルも様子を見る。
「……いいこと教えてもらっちゃった」
ショウ=マイラの声も、少し変わっていた。
「どういうことよ」
「神代の蓋を支える七人が、全員いなくなったってことよ。聖地も滅んだし、もう二度と神代の蓋は支えられない……」
「どういうことかって聞いてんのよ……!!」
ざわり、ガラネルの殺気がふくらむ。
「ピ=パの審神者達は、ただの拝み屋でも神の口述家でもないの。ヒチリ=キリアは何も云ってなかった?」
ガラネルが黙る。何も云っていない。もっとも、あの先代黄竜の性格からすれば、聴かれてもいないことをべらべら話すものではない。それは理解できたし、むしろその性格を好んでいたので、ヒチリ=キリアを責めるつもりはなかった。
「本来は、我ら黄竜と碧竜のダールで聖地の蓋を開け閉めするとき……開け放たれた聖地の蓋を支える役目が審神者にあったのよ。その数は七人……紫竜神様を御顕現なさったとき、審神者達が無意識のうちにそれを行った。そうでなくば、神代の蓋などとても神が実体化するほど開けていられない……審神者以外の、人の力ではね」
「ダールといえども人ということです」
ガラネル、云っている意味が分からず、思案する。つまり、
「そいつらがいなくなったってことは……もう神代の蓋をあんた達が開いても、対抗させる次の竜神は出てこられない。紫竜様は、いったん実体を現世へ顕現なさったから、あとは神の力で魂魄を自由に行き来させられる。そして竜神様を神代へ返そうとしているあんた達にしてみれば……」
ガラネル、にやっとその紫色に光る眼をゆがませ、もう脱兎がごとくその場より消え去ってしまった。
二人が、凝とその光の痕を見つめた。
鵺の声が響いている。
「馬鹿な奴ら、重大な秘密を私なんかにペラペラと……」
日空竜は昼行性なので、夜間飛行は技術を要する。ガラネルはその技術を持っている一流の竜騎兵だった。そもそもアトギリス=ハーンウルムの紫月竜は逆に夜行性なので、夜間飛行はアトギリス=ハーンウルムの竜騎兵の十八番なのだ。
ガラネルは可笑しくて、上空で風を受けながら高らかに笑ってしまった。
「しょせん、雲隠れして大事を何百年も先送りにしていた連中ね……! これで、万が一にもカンナの封神は成功しない! 紫竜皇神様が直にこの世を統べ、それを奉ずるアトギリス=ハーンウルムの千年……いや、万年王国が誕生する!」
勝利を確信し、楽しくてしょうがない。
とはいえ……。
あそこまでのダールが二人して、そんなうっかりで口を滑らせるだろうか? という思いもある。
そこがさすがに、ガラネルだった。
もう一度、意味を考えた。
(あいつらが再び神代の蓋を開ける……こっちは、デリナとヒチリ=キリアがそれを妨害できる可能性がある……そうか……そのためにまだ二人とも生きているのかもね……カンナの役目は、開いた蓋へ竜神様を追い返して、封印をかけること……のはず……そのために、実は審神者達が必要だった……でも、連中はみんな死んだ……はず……いま残ってるのは審神者も兼ねていたデリナだけ……)
どう考えても、向こうに不利ではないか。
(何か対策をこれから考えるのかもね……! でも、そんな大逆転できるような状況には思えないわ! いくら黄竜と碧竜の秘儀があろうとね……)
とにかく、ヒチリ=キリアが戻ったらいろいろ教えてもらうことが増えた。
ところが、ヒチリ=キリアは戻らなかった。
アーリーがパオン=ミ達と合流したのは、その翌日の朝である。
スーリーをシャクナの近くの林へ隠し、パオン=ミとスティッキィは町の裏手の山から直接聖地の分社へ入った。すぐさまマラカが出迎える。既に話をつけてあるのだ。大したものだと思った。
なんと、既にアーリーとライバが到着していた。




