表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ガリウスの救世者  作者: たぷから
第8部「神鳴の封神者」
646/674

第3章 7-2 街道筋の「大騒ぎ」

 「避難民みたいだぜ」


 きっとカンナと竜神の戦いに肝を冷やし、逃げてきたのだろう。取り急ぎ、関所へ集まっているようだ。


 「あらあらまあまあ、まあまあまあ! ウヒヒ、こりゃ、勿怪(もっけ)の幸い!」


 ショウ=マイラが嬉しそうに笑う。レラとマイカがまたも怪訝そうに顔を見合わせた。


 人々が集まっているのは、南街道の中ほどにあるコアンという関所だった。やはり避難民や嘆願民だ。


 「さ、じゃ、いくわよ!」


 云うが、天限儀である黄金の細竹杖を振りかざし、足元から関所の広場へ下りてゆく。あわててレラとマイカも続いた。


 バイーーーン! ビィヨオーーーン!

 次元を振動させて世にも不思議な音を発し、

 「おおーーーーーーーーお」


 ショウ=マイラが不思議な音調で調子を取りながら天から降りてきたのでホレイサン人の役人も村人も腰をぬかさんばかりに驚き、続いて降りてきたレラとマイカと合わせた三人を見据えた。すかさずショウ=マイラ、ホレイサンの言葉で、口上を述べる。


 「古悪(ふるあ)しき竜神をーーーーー ()らしめたもうあたらしきーーーー 神の御名(おんな)を聴きたもうーーーーー その名は神鳴(カンナ)神威(カムイ)大神(オオカミ)とーーーー 拝みなされきーーーーーーい!」


 「!?」


 人々が固まりつく。歌うようなその美声にくわえ、黄金杖を振って地面を打つとまた次元がふるえ、鈴の音のような音と、またあのビャオーーーーーンという震える音がする。


 これにはホレイサン人はおろかレラとマイカも仰天して、ただショウ=マイラの後ろ姿を凝視した。


 歌は続く。


 「おーーーーおおおーーーーーおおーーーーーお」

 再び音程と調子をとる音取(ねとり)の後、


 「観よや天地(てんち)大揺(おおゆ)らぎーーーーーーー ピ=パの御町(おまち)も砕け散りーーーーーーー カツコの宿も波飲(なみの)まれーーーーーーーー 古悪しき竜神はーーーーーー かくも恐ろし荒御魂(あらみたま)ーーーーーーー こは神鳴神威大神がーーーーーーー 鎮めたもうーーーーーー ありがたきーーーーーーーい!」


 ビィャオォオーーーーーン シャン シャン シャン ………。


 その妙音は、よほどにホレイサン人の心をつかんだものか、眼をひんむいて固まっていた農民から旅人から武士役人下男に到るまでいっせいにひれ伏してショウ=マイラを拝みだしたものだから、レラもマイカもただ立ち尽くすほかはない。


 こうして、関所周辺は「大騒ぎ」となった。なにせこれまで聖地を中心として数千年続いてきた竜王朝文化と七竜神信仰を、根底の根本からひっくり返す話である。まさに宗教革命、宗教改革だった。反抗し精神的に抵抗するものも多かったが、事実、あの天変地異と神とカンナの戦いを目にした者も大勢いる。宗旨替えというほどでなくとも、竜神を鎮める「新しい神」が来たというだけでも一部の者には拝むに値した。


 翌日の昼過ぎには、南街道の中ほどにあるコアンの関所は人でごった返した。若くして地方の関所奉行に抜擢された青年奉行が屋敷を明け渡し、三人は身を清めて衣服もこちらの神官が着るものへ改め、周囲の小さな神社の神主や巫女などを従えて、新神(あらがみ)の遣いの天限儀士として一夜にして地位を築いてしまった。また、ショウ=マイラとマイカはダールとして名乗りも上げた。そのダールの見た目や、レラはその妹神として既に顕現してるという触れこみであるからよけいに効果が高い。


 「いいのかよ……こんなんで」


 巫女装束を着させられ、その短い黒髪にも金銀の髪飾りをじゃらじゃらとつけられたレラがその空色の眼を白黒させて戸惑う。ただ暴れるだけではなく、こんな「騒動」のおこしかたがあったとは……。しかも、刻一刻と人が増えている。増えているだけではなく、関所の外で何かしら「まやかしの神を信じるものは……!」などという叫び声とそれへ対抗する人々、仲裁する役人の怒号などがひっきりなしだ。


 「いいのよ~。時間稼ぎなんだから。あ、それもちょうだい! 早く早く! あ、そっちも、こっちこっち!」


 奉行屋敷の奥座へ陣取り、もう奉行や宮司級の人間以外目通りもゆるされなくなったショウ=マイラたちが、供物の食事を食べながら、女給へむけてどんどんお代わりをする。ダールなので、食べるときは食べないといけない。それは、ホレイサン人も分かっていた。つまり、


 「長年お隠れだった黄竜様と碧竜様が、新しい神をお連れになってお戻りになられた」


 というのは、意外にストンとホレイサン人たちの心に納まってしまったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ