第3章 7-1 朝日の中の新しい時間
「きっと昨夜か先日、アーリー様が通ったのでは」
「パオン=ミ、あれ!!」
スティッキィが見つけた。朝日の中、アーリーが街道へしゃがみこみ、誰かを診ている。
カンナだ!!
「アーリーさまあー!!」
「アーーーリィィーーー!!」
すぐにアーリーが振り返った。そして、思わず笑みがこぼれている。
アーリーが、手を振ってスーリーを出迎えた。
草をゆらして、風が、ふいた。
7
「アーリー様!」
スーリーからとび下りたパオン=ミが転がるように駆け寄り、思わずアーリーヘ抱きついた。子供へ戻ったようだった。マラカやライバもさすがに感慨深い。スティッキィはまっすぐ地面へ下ろされた背負子の上でげんなりしているカンナへとびついた。
「カンナちゃん、カンナちゃん! しっかり!」
その蒼い眼よりとめどなく涙があふれる。カンナのいつにも増して真っ白い頬を両手でさすり、黒鉄色もかすんでいる髪を撫でた。
「かわいそうに……頑張ったのに……こんなになっちゃって……相手は本物の神様だってのに……どうして……」
「もう、それは云わない約束だろ!」
ライバがスティッキィの肩を叩いた。スティッキィが涙をぬぐう。
「アーリー、カンナちゃんはどうすれば助かるの!?」
何でもするという顔だ。何人殺してもかまわないという眼だ。
「マラカ」
「ハッ!」
久しぶりにアーリーの直命に、片膝をつくマラカも気合が入る。
「一足先にシャクナへ行き、神殿の奥の者へバスクスの調整に来たと伝えよ」
「承知!!」
マラカが動くと同時にガリアをまとって消える。
「ちょっと、アーリー、そんなんでいいのお?」
まだカンナを撫でているスティッキィが、当然の疑問を発した。
「調整施設を管理している者には、バスクスの名は絶対だ……たとえ、それが何者だろうとな」
よくわからないが、そうなのだろう。
「アーリー様、カンナはスーリーへ乗せますか?」
「そうしてくれ」
カンナを背負子へ縛り付けている縄を切り、パオン=ミとスティッキィが支えながらスーリーの背へ乗せ、飛び立った。アーリーとライバは、瞬間移動を繰り返して後を追い、関所を越える。
朝日の中、新しい時間が始まる。
そのころ、レラたちはピ=パ湖南街道ぞいのとある関所で「騒ぎ」を起こしていた……。
アーリーが街道を踏破しているころ、三人は湖を飛んで越えた。
レラは風と重力を操るガリアで、既にバスマ=リウバの空戦竜より速く自在に宙を舞うことができるのは第六部で記してある。マイカも、元は重力操作のガリアだ。基本の力は「物質固定」だが、簡易な重力操作は可能であり、自分が空中を舞うくらいは余裕だった。ショウ=マイラはまるで観点が異なり、次元を渡り歩いている。それがライバのような瞬間移動にも見えるし、空を飛んでいるようにも見える。
ただ、速度は圧倒的にレラが速い。レラだけを行かせると暴走してホレイサン人を皆殺しにしかねないというのは、アーリーから聞かずともその言動や雰囲気で分かった。
「レラ、待ちなさい! 一人で行動するのは許しませんよ!」
マイカが厳しく制御する。レラはカチンときて振り返りざまに、
「うるせえ!!」
と叫ぼうとしたが、カンナのためにならないから勝手は厳に慎むようアーリーからも云われており、素直にとどまった。
「わかってるよ!」
二人がレラへ追いつく。レラは腕を組んで、
「……黄竜さんよ、あんたが頭だ。従うから指示してよ」
「もちろんよ! まかせてちょうだい!」
ショウ=マイラには考えがあるようだ。レラとマイカが顔を見合わせる。
三人は晴天の元、一刻ほどもかけて湖の上空を横断し、街道の上にさしかかって高度を落とす。まさか人間が空を飛んでいるとも思わずに、街道を行く人々は誰も気づかない。
「……ずいぶんと混んでますね」




