第3章 6-3 残された5人
「とにかく行ってみる。皆とはここで別れる。さらばだ」
云うや、ミナモがすたすたと丘を降り始める。スミナムチが、あわててパオン=ミ達へぺこりとアタマを下げると、ミナモへ着いて云った。
「で、殿下!」
パオン=ミが叫んだ。
「カンナたちは、どこへ行ったと思われますか!?」
「シャクナへ行ってみるがよい!」
振り返ってそれだけ云うと、ミナモはもうゆるい斜面の下へ見えなくなった。
残された五人が、風へ身をまかせて互いにじろじろと見合う。
「シャクナってどこ?」
マレッティがため息交じりにつぶやいた。疲れる。
「どこかの町の名でしょう。拙者が先んじて街道筋に出かけてみます……」
「あんた、言葉が分からないでしょう」
「聴くぐらいなら、なんとか……」
もう、マラカがそのガリア「葆光彩五色竜隠帷子」をまとって姿を消すや、探索に行ってしまった。
「せっかちねえ……」
マレッティがあきれ果てた。
「我が符をつける」
パオン=ミが呪符を何枚かばらまき、小動物へ変化させてマラカを補佐する。
「で……」
マレッティは座りこんでしまった。がっくりと疲れが出た。落ち着いたら、腹も減ってくる。
「あたしたちはどうすればいいのよ!?」
声も、うるんできた。
「どうするもなにも、カンナちゃんを捜して、合流するのよお!」
スティッキィが前に出て云い放つ。
「あんた、どこにそんな元気があって云ってるのよ!?」
マレッティも負けていない。
「さっきの戦い見たでしょお!? あんなのに巻きこまれて、助っ人も何もあったもんじゃないわよお! 足手まといになるだけなんじゃないの!?」
それは、確かに。スティッキィも云い返せない。ライバやパオン=ミを見た。
「互いの目的を確認しあわなくてはなるまい」
パオン=ミは、ここまできて連帯感や友情などという不確かなものにすがる気はなかった。それぞれの任務を再確認する。
「我はアーリー様と合流せねばならん。おそらく、あそこへ現れたのはアーリー様であろう。何かしらの秘術で、ウガマールよりここへ出現した」
これは、スティッキィとライバはすぐに理解した。なぜならば、自分たちもウガマールのアテォレ神殿よりここへ妙な場所を通ってきたのだから。
そしてマレッティも、なにかを云おうとして口を中途半端に開けたまま、ストゥーリアでのアーリーの言葉を唐突に思い出した。
「聖地とウガマールは、つながっているのだ」
という……。
そうであれば、カンナの後を追って辿り着き、カンナへ助太刀したのだろう。なにより、あの炎の大爆発は何度も見たことがある。アーリーの炎色片刃斬竜剣だ。まちがいない。
「あたしとライバは、何がなんでも、どこまでもカンナちゃんへ着いてゆくのよ。そう決めてるんだから」
スティッキィが狂信的な目つきでそう云い放つ。ライバは少し動揺しているように見えたが、スティッキィの手を取り、しっかりとうなずいた。
「ハッ……ばかみたい。あんなのに、どうやって着いてくってのよお。死ぬわよ、あんたたち。まちがいなくね!」
「死んでもついて行くのよ!!」
スティッキィが目を剥いて奥歯を食いしばりながら云ったので、マレッティは視線を外した。これ以上は、何を云っても無駄だ。
「で、おぬしはどうするのだ?」
「どうするって……」
三人の視線。正直、困り果てる。これ以上カンナへつきあう気はさらさらない。自分は、死にたくない。
「おぬしは、何のためにここまで来た?」
「なんのためにって……そりゃ、デリナさ……」
マレッティは息をのんだ。そうだ。デリナを助けなくては。アーリーにも、それを頼まれている。




