第3章 6-2 激闘の後ろで
湖を見下ろすような丘陵地へ着地し、スーリーが離したので草むらへ転がってマレッティはどっと両手をついた。
そのとき、湖の上空で激しい炸裂がおき、湖面を照らしつける。カンナと神が戦っているのだろう。
「カンナちゃん……!」
スティッキィが立ち上がってそれを見守る。マレッティは目尻をひそませ、そんな双子の妹の後ろ姿を見やった。どこまでカンナへ心酔しているのか、見極められない。
とはいっても、やはり自分もカンナの戦いへ眼をやらざるを得ない。規模が違う。ここまで爆風と衝撃が迫ってくる。
(カンナ……)
手で顔をおおい、激しい空中戦を見据えた。もはや、人の戦いではない。話を聞くに相手は神だ。正直、こうして実際に見ていてもそんなことは信じていないが、人間ではないというのは信じられる。人間でなければ、アレらはいったい何なのか……マレッティの興味はそこへ移ってきていた。
「アアッ……!」
何人かの悲痛な声がする。おそらくカンナが、対岸の地面へめりこむまでぶっ飛ばされた。
だがすぐさま反撃に出る。湖の上空へこだまする爆音を伴って、竜神へつっこむ。再び幾度かの激しすぎる人知を超えた干戈を交え、接近して押しあっているように見えたのち……一気に離れ、竜神が追撃。ついにカンナが圧倒されはじめた。
「あれは、なんだ!?」
パオン=ミが叫び、思わずミナモを見た。何か知っているかと思ったが、ミナモは真剣な顔で古い神と新しい神の戦いを凝視している。
竜神の周囲に、無数の人魂……のような炎にも蛍めいた光の粒にも見える真紫の光が集まって、カンナへ向けて襲いかかっている。カンナが次々にその光を黒剣で払ってゆくが、数が多すぎる!
その瞬間、戦いのさらに上空へ光が生じ、明らかに何人かの人物がその光の中から出現した。
「!?」
強大な爆炎に、
「もしやアーリー様か!?」
と、パオン=ミが叫ぶも、あとの数人は分からない。が、その爆炎が風に乗って消え去って、カンナやその数人もいなくなっていた。それどころか、戦っていた相手もいない。
「あ……?」
一同は茫然と、湖の上と砕けた島をみつめた。
スーリーが、大きなくしゃみをした。
見知らぬもの同士は紹介しあい、七人はさっそく今後の打ち合わせを行った。
「その前に、もういっかい確認したいんだけどお、相手が神様ってほんっとうにほんとなのお!? なんか、カンナちゃんよりちっちゃくて……子供みたいだったわあ」
マレッティが腰へ手を当て、半分ひきつったような顔で、ミナモへ向かって云った。言葉が分からなかったが、パオン=ミが通訳する。
「確かに子供のような姿に見えたが……分からん。だが、神以外にあのような力は出せまい。直にやりあったバスクスへ合流し、聴いてみるが良い」
パオン=ミとマレッティ、それにスティッキィが見合った。
「……まるで、殿下は合流されないような云い方に聴こえますが……」
「そのとおりだ」
パオン=ミへ答え、ミナモは、再び静まり返った湖へ目をやった。
「余は、ディスケル皇太子殿下を捜索せねばならん。これからの世に、必要な御方だ」
「ディスケルの……」
確か、カンナ達と共に聖地へ来ていたはずだが。パオン=ミは、ライバとスティッキィを見た。
「……カンナちゃんの云う通りになっちゃったわねえ。皇太子殿下、無事に逃げられていたらいいけれど……」
これはスティッキィだ。
「なに、カンナちゃん、ああなるのを予言してたわけ」
「予言というより、予感なんでしょおねえ」
この双子が並んでいるのを初めて見るマラカは、興味深げに観察していた。
「では、殿下は、湖へお戻りになられると」
「宿場町近辺を捜してみる」
「何も残ってないじゃなあい」
マレッティが目を細めた。津波と地震による倒壊で、聖地の対岸にあった宿場町は跡形もない。




