第3章 6-1 神々の戦いよりの脱出
時空を裂いて竜神が降誕し、カンナと衝突して島が砕けた時、ライバとスティッキィはもう目をむいて物も云わずに逃げ出した。が、どこへ逃げるというのだろう。とにかくライバはその場を離れようとスティッキィの手を取って、瞬間移動を繰り返した。
片やミナモとスミナムチ、マレッティ、マラカ、パオン=ミの五人は山間から湖畔にかけて逃げていたので、たまったものではなかった。巨大地震で立ってもいられなくなり、そのうちに湖水がごっそりと引いて湖底が露わになるとミナモが珍しく慌てた。
「高台へ! 急げや、急げ!」
津波が来ると分かったのだ。しかも、海ではない。ピ=パ湖はかなり大きな湖だが海よりは狭い。すぐに襲ってくると観てよい。
「い、い、い、急げって云われてもお!」
地割れめいて島が分断されてゆくさまに、マレッティも眼を回して腰砕けに座りこんでいる。
さらに、天すら割れるかという轟鳴が周囲をつんざく。カンナと竜神がぶつかり合っている。
「なんとかならんか!?」
パオン=ミがマラカへ云うが、なんともならないのは彼女にも分かっていた。ここは比較的汎用のガリアである呪符でどうにかする場面だ。が、いかんせん人数が多い。いっせいに助ける手段が咄嗟に思いつかなかった。
(どうする……どうするパオン=ミ……)
無意識で腰の竜笛へ手を伸ばす。しかしタカンに捕らえられた際、没収されたままだった。
(やんぬるかな……!!)
地震は続き、崖が崩れる。ざわざわと湖水も迫ってきた。高台へ逃げようにも、眼前で島が割れて地割れへ水が滝のように流れ落ち、真っ黒に渦を巻いている。巻きこまれようものなら一巻の終わりだ。さらに、大量の岩石を含んだ土砂崩れが退路を断った。
「皇子ざまああああ!」
いい年をしてスミナムチが泣きわめいてミナモへすがりついている。さすがのミナモも、その涼しい顔がひきつっていた。マレッティも眼が泳いでいる。
「ちょっと、パオン=ミ……どう……」
「パオン=ミ殿、あれを!」
その時、マラカはさすがに着眼が良い。全員が周囲を見ていた時に、空を見ていた。そしてすかさず発見し、報告した。
一直線に飛んでくる、その姿は!
「スーリー!!」
腰が抜けそうになり、あわてて持ち直す。竜騎兵であるパオン=ミの愛竜、緑眼竜のスーリーではないか!
北方圏を北竜属の高完成度バグルス・シードリィに案内してもらったさい、森林行となったため野に放って自由行動させておいた。本来、それを竜笛で呼ぶのが竜帝国文化で共通する竜術で、タカンがそれを封じるために竜笛を没収してしまった。
だが、スーリーは主の危機に際し自ら来た!
「スーリー、こっちだ!」
パオン=ミが大量の呪符を天へばらまき、一部は炎と化して位置を知らせ、一部はそのまま鷺や鳩の白い鳥となってスーリーを導いた。スーリーはその大きくて緑の美しい眼を向けてシャープで大きな翼をはためかせ、さらに速度を上げる。
そのまま逆落としに近いふうで一気にパオン=ミたちのところで行き、着地するや久しぶりの再会に甘えることもせずにマレッティをやさしくくわえ、ミナモとスミナムチを次々に両腕で抱えると、もう背中へ乗っているパオン=ミとマラカごと強力に後ろ足と尾で跳び上がり、一瞬で高度を上げる。
「助かった……!!」
誰もが安堵した。下を見ると自分たちのいたところに津波が押し寄せている。間一髪だ。
そして……。
時空を揺るがしてカンナと竜神が戦っていた。
加勢をしようとも思わなかった。完全に足手まといとなるだろう。
いまは、とにかくその場を離れるのが先だった。一目散に対岸を目指す。
そのスーリーへ、もう二人、飛び乗ってきた者らがいた。
ライバとスティッキィだった。
空中を連続瞬間移動して逃げていた際にスーリーを発見し、ライバが合流のために接近したらそのまま乗ってしまったのだ。
「なんだ、なんだ!?」
パオン=ミは一瞬焦ったが、スティッキィと認識するや、思わず抱きついた。
さすがに七人は定員オーバーと思われたが、スーリーは力強く飛び、あっという間に巨大な湖の対岸、宿場町の反対側へ到達した。
「助かったあ……!!」




