第3章 4-1 ダール3人
「ダール共が……何を考えて神へ逆らうか」
ストラの姿で、竜神は陽炎へ乗ってその場より消え、いったん自らの出現で砕いた聖地へ戻った。
戦いを見届けていたガラネルが、深く平伏して待っていた。
仮初めの静寂が訪れる。
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山間の古びた山小屋に近い粗末な建物で、アーリーが暖炉の側へカンナを横たえた。ここはピ=パ湖対岸の山地のちょうど裏側、反対側にあたる。ここからは湖は見えない。あの地震でも小屋は無事だったが、住民は魂消てどこかへ逃げてしまったようだ。中は全ての生活用品がひっくり返っていたが、皆で片づけた。ここまではショウ=マイラが断層のズレを飛ぶ力で一気に移動してきた。一種の瞬間移動と云ってよいだろう。
「姉貴ぃ、目を覚ましてくれよお」
意外や、レラがカンナへつきっきりでメソメソ泣いている。そのズダボロに近い姿に、神を相手にここまで力を振り絞って戦ったのかと畏敬の念を抱いているようだ。
三人のダールが、カンナを見つめながら作戦会議をする。
「まずカンナの回復だ」
アーリーが重苦しく云う。全てはラズィンバーグにおいてカンナがアーリーの到着を待たずに、一人でウガマールへ行ってしまったのが発端だ。が、過去はもうどうしようもない。未来をどうするかだ。
「作り物といってもバスクスなのだから、基本的に寝ていれば回復すると思いますが」
マイカは、あくまでカンナやレラを真の竜眞人の代理とてしかみなしていないことがわかる。
「それはそうだろうけど、時間がね!? だってほら、いつまでもここで寝かせてくれるほど、敵さんも暇ではないでしょ!? あーっ、困ったわね、どうしよう……ねえアーリー、ね、ね、どうしようか!?」
ショウ=マイラは何をするにも焦っているように見えるが、これが普通で実は急いても苛ついてもいない。慣れぬとつきあいづらい。
「手っ取り早く回復させるには、調整槽へ入れるしかない。だが、あの島の様子では、聖地の施設も壊滅だろう……」
アーリーは出現して竜神と戦った一瞬で、島に何が起こったかを理解していた。
「調整槽か……マイマイ、どこか予備の施設はありませんでしか?」
「えっ、予備施設!?」
ショウ=マイラが息を飲んだ。確かどこかにあった。今でもあるのなら、だが。
「あっ、えーとそうねえ……そうそうそう、あーっ、そうだ、そう! ちょっと待ってね……えーっとね、聴いたことある。聴いたことあるわよお。ちょっと待って待って待って待って……すぐ思い出すから……やあねえ、歳かしら!」
ショウ=マイラが頭をポカポカ自分で叩きだしたその時、
「お前ら心配もしねえで姉貴をなんだと思ってやがるんだ!! そんなもの、外でやれよ!!」
レラが吠えた。
ごもっとも。三人とも外へ出る。
「アレは、カンナを憎んでおり、神技合で死闘を演じ、殺されかけたのではないのですか?」
アーリーよりそう聞かされていたマイカが、再確認を兼ねて不思議そうに尋ねた。
「元は一本気の音が正直な子だ……無理やり改造されて反発していたが、カンナとの戦いで何かしら想うものがあったのだろう」
アーリーがアルトの声で静かに答える。ショウ=マイラがにっこりと笑っていた。
「アーリーはぜんぶお見通しだったんでしょ? ね? ね? そうだったんでしょ?」
アーリーは苦笑し、答えなかった。
「ま、それはいいとして……」
マイカがそこらの倒れている用具を直し、腰かける。正直、彼女はレラやカンナなど眼中にない。
「てっきり、私とマイラで封神を行うとばかり思ってましたが、本当に貴女はあの紛い物たちにその仕事をやらせるのですか?」
「お前が目覚める確証がなかったからな」
アーリーの声も、必然、太くなる。
「では、目覚めた以上、私とマイラで行うということで」
「できるのならばな」
「できないとでも?」
ショウ=マイラが緊張し、半笑いで二人を見渡す。
「そうは云ってない」
「ええ、そうでしょう。もちろん、できますけども。ね、マイラ」




