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ガリウスの救世者  作者: たぷから
第8部「神鳴の封神者」
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第3章 1-3 「姉貴は死なないよ」

 「しかし、竜神が直に現世をウロウロするのだろう。超古代のように。当時、人間はどうやって生きていた?」


 「知らん。記録が残っていないからな。それに、その超古代の竜神を神代(かみよ)へ追いやり、現代社会の基盤を築いたのはほかならぬ、ウガマールの生み出した竜眞人(りゅうのまひと)……バスクスではないか……いま、同じことをやってなにが悪い」


 「……だが、当時と今では……!」

 「我々の造りあげた成果を信じろ」


 そう云われても、いざとなると不安が残る。人の造った竜眞人が、本当に本物の神へ通用するのか……? 相手は「神のごとき」存在ではない。そのもの、神だ。


 「姉貴は死なないよ」


 突如、聴いていないと思われたレラがその青白い殺意に満ち満ちた目をアートへ向けた。思わず、アートがぞっ(・・)とする。それほどの眼つきだった。


 「アタシが姉貴を助太刀するんだ。負けるもんか。たとえ、相手が本当の神だったとしてもね。アタシたちの力は、神殺しだ。そうなんだろう?」


 「そ……」

 アートはグッと感情を呑みこんだ。

 「その通りだ。そのためにお前は……お前たちは生まれた」


 レラが歳に似合わぬ不敵な笑みを見せる。

 「そうこなくっちゃあ、アタシも姉貴も浮かばれないよ」


 アートが目をつむり、黙りこむ。アーリーが、レラへ向けてその杯にウガマールでは水代わりの薄いワインを注いだ。

 


 それからたっぷりとその夜は寝て、翌日、洗面し歯を磨いて軽く散髪もしたレラがさっぱりして身支度を整えた。アーリーが設えさせておいた、サラティスのバスク達が着る頑丈な野外踏破用の衣服や靴に着替える。ウガマールでは風通しが悪く少し暑い。特に竜革のブーツは蒸れてレラが嫌がった。


 「じきに慣れる」

 「水虫になるぜ……」


 よくそんな知識を知っているなとアーリーが感心した。

 そんなアーリー、その日はレラを連れ、とある場所へ向かった。


 「アタシさあ」

 レラが随分とふっきった、くだけた調子で話をする。


 「ムルンベのやろうの云うこときいて剣の稽古をしてたとき、なんでこんな目に……っていうのを通り越して、いつか何もかもぶっ壊して、どいつもこいつもぶっ殺してやる! っていう思いだけで生きてたんだけど……姉貴にああもコテンパンにやられると、それもぶっとんじまった。今は、姉貴がやらなきゃならないことをこの力で助太刀できるんなら……それでいいよ」


 「そうか」


 アーリーは喜びもせずに、淡々として答えた。当たり前である。そのように調整したのだから。調整がうまくいっただけだ。


 だが、それはレラの本音でもある。調整はそれをうまく引き出したに過ぎない。あまり強引に思考を植えつけると、妙な時に妙な感情に支配されるのはカンナで実証済みだ。


 「で、どこ行くんだ?」

 「ここだ」


 アーリーは、奥院宮(おくいんのみや)にぽつんとある、誰も入ることのできない建物の前にレラを連れてきた。


 「ここって……」


 レラが塔のような建物を見上げる。高塀に囲まれ、建物には入り口も窓もない。完全に密閉されている。わずかに、足元に半地下の通路のようなものの明かり窓があるだけだ。


 外見からは分かりづらいが、ここは先日までレラが調整していた研究所の裏手である。

 「マイカの封印所だ」

 「ここが……?」


 レラが一瞬、感慨ぶかげな声を発したが、すぐに興味ないように鼻を鳴らした。

 「どっから入るんだ?」

 「こっちだ」


 塀に門はあるので、衛兵に云いつけ門を開け、敷地内へ入る。裏手へ回ると、建物とは別に独立した、物入れめいた小さな小屋のような物があった。岩牢の間は、内部で研究所とはつながっていない。


 その扉を開けると、なにもない空間が現れる。敷地を掃除する箒などの用具がぽつんと立てかけてあるだけだ。木でできた床へ、埃が積もっている。掃除をしても、木窓を開けてあるのですぐに土ぼこりが積もる。

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