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ガリウスの救世者  作者: たぷから
第8部「神鳴の封神者」
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第2章 6-1 カンナ出撃

 「で、殿下……」

 そう云われては、近衛将軍も動かざるを得ない。


 「畏れながら申し上げます。ここはバスクス殿を信じ、せめて対岸の宿場までご避難を」


 「だが、審神者(さにわ)どもが余をみすみす逃がすかな?」

 「ひと悶着あっても、脱出していただきます!」

 その硬い意思を汲み、皇太子が静かにうなずいた。


 「では……」

 別れの言葉も無く、三人は辞した。


 その後はすこしねむり、起きると上質の出汁を使った粥を食べた。消化が良く、カロリー補給にうってつけである。


 しかしカンナ、椀が止まらない。二杯……三杯……五杯も食べた。

 「ちょっとカンナちゃん……だいじょおぶなのお!?」

 共に一杯ずつのライバとスティッキィが目をむく。


 「それより、カンナさん……」

 ライバが云いかけるが、スティッキィがその腕をとって止めた。

 そして首を小さく振る。


 アーリーがいないため、カンナ一人で戦わなくてはならない。既に予定が狂って、襲撃が早くなっている。肝心の竜神封印の儀式は、カンナの頭の中にしかない。皇太子妃から伝授された、ガリアの最後の力も謎だ。


 全てが不安だった。

 だが、二人は何も云わないと誓ったではないか。

 云えるとすれば、ただひとつ。


 「カンナちゃん……本当にいいのね?」

 「なにが?」

 「本当にカンナちゃんの意思で戦うのね? アーリーや、ウガマールの……その……」


 洗脳じゃなく。


 その一言が出てこない。

 「カンナさん、投げやりになったらいけませんよ。カンナさんが何をしたいか、です」


 「わたしが何をしたいか? そりゃあ……」

 唐突な質問に驚いてから、カンナはその翠の眼をちょっと空中へ泳がせた。


 「これが終わったら考えるかな?」

 その笑顔に、たまらずスティッキィが涙をあふれさせる。


 「泣かないで、スティッキィ」

 「ごめん……ごめんなさい……」

 ライバがスティッキィの肩を優しくさすった。


 「三人で生き残りましょう! 何があっても! 少なくとも、あたいらは、何があってもカンナさんについてきますからね!」


 「そおよお! もう二度と置いてこおったって、そおはいかないんだから!」


 そうは云っても、この戦いは下手をしたら神との戦いだ。今は失われた竜世紀以前の神話には竜神と直接戦ったというガリアムス・バグルスクスがいて、カンナはその再現というが、どこまで再現されているのか想像もつかない。足手まといになるくらいなら、二人はカンナをかばって死ぬ覚悟だ。


 「ま、行けばなんとかなるよ」


 カンナの楽観は、どこから来るのだろう。よく分からないが……その笑顔に救われるのだけは、確かだった。


 三人は皇太子妃に仕立ててもらったサラティスの頑丈な対竜野戦着に着替え、うっすらと明け方に染まる聖地の迎賓殿を出た。



 出て、絵図のとおりの道を駆ける。案内と露払いはライバ、真ん中にカンナ、殿はスティッキィだ。


 街の隅を小走りで進み、聖地の天御中(あめのみなか)と俗世を分ける結界である大鳥居を抜ける。そのまままっすぐ進めば山を越えて島の反対へ出るが、とちゅうから道が細く分かれていて、山の尾根へ抜ける。そこを北へ進み、やがて岬へたどり着く。岬の島に、古代の儀式を行う小島がある。これがデリナよりの情報だ。


 「ガリアはどう!?」


 山道を登りながら自分も含めて確認するが、まだガリア封じは解除されていなかった。


 「マラカの話だと、ガリア封じの波動はその波動を発するなにかより円を描いてて、微妙に重ならない箇所がある。そこではガリアが遣える」


 「それであんたが、ホレイサンの皇子を迎えに行ったんでしょお?」


 「ガリア封じが重なってると、より強いガリアも封じることができる。カンナさんのガリアですらね!」


 「何が云いたいのよ」

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