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ガリウスの救世者  作者: たぷから
第8部「神鳴の封神者」
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第2章 4-6 緊急出撃

 「御三方には申し訳ないが、仕事が早まった。いまより仮眠し、明け方前には出立する」


 三人が顔を見合わせる。

 「と……申されますと……」

 「三十一日ではなく、二十九日であるそうだ」


 またも三人が声も無く硬直する。

 「デッ……デリナ様は!?」

 「わからぬ。急ごう」

 マレッティ、愕然と視線を落とす。



 このような場面でも、すぐさま仮眠をとれるのが歴戦のガリア遣いだった。これが通常の者なら興奮や心配で眠るどころではない。喉も通らなかった食事を飢えた竜が如く平らげ、少量の酒をのむと泥のようにねむった。そして二刻すなわち四時間少々ほどで三人とも静かに起きる。こちらの動きやすい衣服へ着替え、三人で待っているとミナモより呼び出しがあった。


 部屋へ向かうと、ミナモとスミナムチ……アラス=ミレ博士がいるではないか。


 「我らの仕事は、カンナの補佐よ。具体には、この島を覆う天限儀封じの機構を破壊するのだ」


 「天限儀封じの機構!」

 驚いたパオン=ミが二人へ通訳する。


 「ガリア封じの秘密ねえ……正体は分かってるのお?」

 「正確には分からぬ。バグルスの一種らしい……」

 「バグルスゥ!?」


 マレッティは素っ頓狂な声を発して驚いたが、ガリア封じのバグルスを体験しているパオン=ミは納得できた。ガラネルの高完成度バグルスの起源がこんなところにあったとは。


 「力で破壊できなかった場合に備え、博士を連れてゆく。そなたらは、天限儀封じのバグルスと思わしきものも、まずは排除を試みてほしい」


 「わかりました」


 パオン=ミが声をあげる。そして、ミナモも同じような夜戦装束に身を包んでいるのに気づく。


 「……殿下も行かれるのですか?」

 「当然であろう。こんな一大事、余が立会(りっかい)せんでどうする」


 そう、楽しそうに目を細める。パオン=ミが心配してスミナムチを見たが、嘆息交じりに首を振ったので、説得に失敗済みのようだ。


 忍び装束にも似た衣服は特に足回りが頑丈で、竜革底の忍び足袋はそこらの撒菱(まきびし)も通らないほどだった。脚絆(きゃはん)をつけ、がっちりと足首も補強するので竜革ブーツより動きやすい。特にマレッティとマラカは感心した。ボタン類が一切なくひたすら布や紐で身体に固定する衣服そのものには辟易したが……。


 「襲撃は三か所ほどだ」

 絵図を出し、急ぎ場所を確認する。


 「まずここ。そしてここ……さらにここを破壊すると、おそらくだが島の北側をおおう天限儀封じの結界はほぼなくなる」


 ずっと自分のガリアでガリア封じ効果場の範囲を調べていたマラカもうなずく。


 「問題は、その竜神降誕の儀式をどこで行うかですが……」

 「デリナによると、ここだ」


 意外や、ミナモが島の先端のはずれにポツンとある小島を示したのでパオン=ミも驚く。


 「こんな場所で!?」

 「ようわからんが、そうらしい」

 「カンナちゃんたちの襲撃路は?」


 「向こうも手数はそろっておらん。おそらく、正攻法でここを進むだろう。少なくともそう聴いている」


 ミナモが山を登ってから尾根筋にある細い道を扇子で指し示した。

 「なによこれ……待ち伏せ確実じゃない」

 マレッティが呆れた。


 「とはいえ、迂回するにも船で湖を行くしかない。そちらのほうが危険ではないか」


 「陽動する手数も無し……か。スティッキィとライバだけじゃねえ……今更だけどアーリーがいないのは痛いわ」


 「向こうの心配をしていても始まりません。我らは、我らの仕事を」

 マラカに云われ、二人ともうなずく。もう、ここにきてはやるしかない。

 「では出発だ。頼みにしておるぞ」


 不安を隠しきれない三人が、マレッティのガリアの光に照らされるミナモの顔を見やった。どう見ても楽しげだ。


 (この人のこの余裕はなんなのだろう……?)


 そう思うが、雲の上の貴人というのは余人には考えもつかない心の内を持っているというのは頭で理解しているつもりだったので、あまりかまわないことにした。

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