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ガリウスの救世者  作者: たぷから
第8部「神鳴の封神者」
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第2章 2-3 小島の下への入り口

 洞穴を出て山を下り、雑司(ぞうし)の案内で再び林の中に整備された竜待機場へ戻る。よく訓練されたアトギリス=ハーンウルムの紫月竜(しげつりゅう)が、巨大で黄色い眼玉を眠そうに細めて二人を待っていた。本来夜行性なので、昼間はそもそもまぶしいらしい。


 二人が竜へ跨り、雑司の見送りで聖地の空へ羽ばたく。と云っても狭い聖地だ。少し旋回しただけで眼下へくの字に曲がった本島と周囲の小島が見え、周囲の大きな湖の全周が見える。


 ガラネルは高度をとってから一直線に降下した。

 「次はどこへ行くんだ!?」


 ヒチリ=キリアが叫ぶも、風切り音に遮られて届かない。本島の最北端は真北からおおきく西へずれており、西北西のほうを向いていた。その岬の先端に人が下りれるか下りれないかという険しさの断崖と階段があり、水辺から岩礁が続いてまるで海のようだった。その岩礁のひとつにひときわ大きな岩があって、鳥居が建てられている。だが竜を降ろすほどの大きさではない。その鳥居の先に、ちょっと離れた沖合で先ほどのバグルス製造所のある小島よりずっと小さな島があった。ガラネルはそこへ竜を降ろした。断崖に風が反射して気流が乱れ、降下が難しかったが二人は見事に竜を操った。


 バサバサと翼を梢に叩いて狭い竜待機場へなんとか二頭を着地させると、ここでも真っ黒な覆面衣装の雑司が二人を出迎えた。中身は、やはり、バグルスだ。


 「ここは、なんなのだ?」

 「あとでちゃんと地図で確認するけど」

 ガラネルはまず、木々の合間より断崖岬とこの島の合間にある湖の上の鳥居を指した。


 「あそこが、聖地を護っている対天限儀器の設置してある場所のひとつよ。隠されてるけど、さっき見たやつが四六時中天限儀を打ち消す波動を出し続けている。それが、大小合わせて聖地に十八か所あるわ」


 「結構な数だな」


 「大小合わせてね……。さっき見た奴ほどの規模では、四か所ね。(かなめ)よ。それのどこか一か所でもやられたら、相乗効果が消えて一気に効果は下がるわ」


 「ところで、あいつ、あれでバグルスというのならば、エサはどうしてるんだ?」

 ガラネルが目を丸くする。意表を突いた質問だった。


 「エサは……たぶん、たまに竜肉とか()を与えてるんだとは思うけど……」

 よく分からなかった。


 「で、ここは、なんなのだ?」

 「ここは古神殿の跡地よ」

 「ここが?」

 今度はヒチリ=キリアがリネットの顔で目を丸くする。

 「初耳だぞ」


 「だから、あんたが死んだ後に遺跡が発見されたのよ。当然、いまの湖上古神殿がずっと古代神殿跡地だと思って誰も疑いもしなかったんだけど、神話の時代の本当の古代神殿は、こんな場所にあったのよ」


 「狭すぎるだろう」

 「広さは関係ないのよ」


 ガラネルはそう云い放ち、湖へ栓をするようにぽつんと浮いている小山めいた小島のごつごつとした赤土の斜面をのぼってゆく。ヒチリ=キリアが無言で後に続いた。まばらな木々や藪をかきわけ、山頂というには低い島のてっぺんへたどり着くと、小さな木造の祠があった。にわかに風が吹いてきて、ガラネルは髪を押さえた。ヒチリ=キリアが祠を顎で指した。


 「この祠なら知っている。だが、調査をしてもただの古い祠だったはずだ。しかもこれは、私の時代より建て替えられているぞ」


 「ところが、祝詞が発見されたのよ」


 云うが、ガラネルが不思議な言葉をその口から放った。ヒチリ=キリアは理解できた。ピ=パを含むホレイサン=スタルの宮廷古代語だ。


 とたん、小島がグラグラと地震めいて揺れ、島の周囲も波立った。見ると、祠がずれて地下へ続く入り口がある。ご丁寧に石造りの階段付きだ。


 「これは……!」

 さしものヒチリ=キリアも驚きを隠せぬ。


 「天限儀の力を使っているのか? それにしては、あの天限儀封じの近くだが……」


 「ダールとピ=パの審神者(さにわ)しかこの入り口が開かないところを見ると、なにか他にも機構があると思うんだけど、よくわからないのよ。古代竜神話の時代の産物だし。でも、ここもこれが関係しているみたいよ」


 ガラネルは小物入れから、先ほどの対天限儀器製造施設より失敬してきた三輝綺晶(さんききしょう)の欠片を見せた。


 「なるほどな」


 ただの稀少な宝石だと思っていたものが、超古代神話文明を支えていた可能性があり、いまそれを再発見しているのである。

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