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ガリウスの救世者  作者: たぷから
第8部「神鳴の封神者」
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第2章 2-1 バグルス製造施設

 「なによ、知らなかったの!?」


 山を登りながら、リネットの顔で楽しそうに深い原生林を見渡してヒキリ=キリアが云ったので、ガラネルが驚いた。


 「私がいたころは、ただの島だったはずだが」

 「ふうん……」


 雑司(ぞうし)が案内した施設は、空の上からも巧妙に隠されたもので、島の山間の中腹に入り口があった。地下施設だ。最初は頑丈な玄武岩による天然洞穴だったが、やがて石造りの地下施設となる。しばらく進むとさらに地下へ下りる階段が現れ、そのまま進む。しかし、地上へ通じる空気孔を兼ねた明かり取りがあり、意外と明るい。そしておそらく地下三階ほどの深さで通路が水平となり、まっすぐ伸びている。そこからは真っ暗で……いや、ぼんやりと薄明かりが漆黒の両側へ並んで光ってはいたが……雑司が龕灯(がんどう)を出して前を照らす。


 その長さは三十間すなわち五五メートルほどもあるだろうか。かなり大規模だ。ひんやりとして、とても気温が低い。そして湿度が高い。既に湖底のさらに地下なのだろうか。


 その通路の両側にずらりと入り口が並んでいて、中を覗くと全て部屋になっている。部屋はあまり大きなものではない。しかし、ウガマールの研究室にあったような石棺が二十ほど並んでいて、中に水があり、ぼんやりと光っている。


 「こんなにバグルスを培養できるようになったのか!」


 ヒチリ=キリアが楽しげに叫ぶ。石棺内のぼんやりと光る水には、培養途中のバグルスが静かにねむっていた。バグルスには全身へ管が刺さっており、その管は全ての石棺から出ていて複雑に床を這い、部屋の奥で束ねられて天井へ伸びている。ウガマールの研究室と同じくどこかに金属電池が整備され、そこから電力を供給しているのだ。


 「この部屋だけで二十はいる。こんな部屋が、あの長通路ぞいにずっとあるというのか? いったい、どれだけのバグルスを準備している!?」


 「最低でも千はいるって云っておいたのよ。ホントにそろえるとは思ってなかったけど」


 ガラネルが薄い光の中で不気味で不敵な笑みを浮かべる。

 「千か……」


 ヒチリ=キリアが首を振った。バグルスは寿命が長いので、少しずつ造って行けばそのうち数は揃う。いちどに大量生産するのことを可能にしているとは。しかし、


 「こいつらは完成寸前か? あまり質がよさそうには見えないが……」

 ヒキリ=キリアは水をのぞきこみ、つぶさに観察してそう云った。

 「粗製濫造だな」


 「あんたの時代の高完成度バグルスは、このご時世はなかなか再現できないわ。それだけに、カンナがどれだけ凄いか」


 「別格というわけか」

 「別格以上よ。さ、もういいでしょ。こっちよ、行きましょ」


 ガラネルが雑司へ何事か云い、藍色の覆面と小袖、軽衫袴(かるさんばかま)の雑司がひょこひょこと歩いて先導する。通路の両側にはずらっとバグルスの製造部屋が並んでいて、その数は三十あった。中には使われていない部屋もあったが、数えただけで二百はバグルスを培養している。


 「まだ何か特別な見せ物があるのか?」

 「ええ。もうかなり完成したから、いま残ってるは本当に最後の培養組よ」

 「ふうん……」

 「さ、ここよ」


 通路の行き着いた先に、また部屋があった。何やら入り口も大きく、いかにも特別な部屋だと見て取れる。


 「……大層なものを造っていそうだな、ここは」

 ヒチリ=キリアがニヤリと笑う。

 「見せたいのはこれか」

 「ま、どうぞ」


 ガラネルがぽっかりと空いた暗闇への入り口へいざなう。ヒチリ=キリアが躊躇なく闇へ入った。


 そこは、部屋全体がぼんやりと青く光っているようにも見えた。それだけ、水槽が大きい。石棺というより、プールだった。真四角に近く、三間、すなわち五メートル半四方の大きさで、高さもあるが掘り下げられており、覗きこむと水底が二間、すなわち三メートル半ほど下に見えた。びっしりと薄く蒼く光る水で満たされており、大きな物体が沈んでいる。


 「なんだ、こいつは!?」


 さしものヒチリ=キリアの顔も怪訝にゆがむ。人でもない竜でもない、ましてバグルスでも無い……肉の塊のようでもあり、丸まった竜のようでもあり、胎児のようでもあった。ウロコと皮膚がない交ぜ(・・・・)になったような不気味な外観をもち、刺のようなものが生えている。その刺の隙間から管が伸びて、水を突き出て天井へ向かって伸びていた。


 「生きてるのか!?」

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