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ガリウスの救世者  作者: たぷから
第8部「神鳴の封神者」
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第2章 1-3 カンナ暗殺(の試み)

 やがて、審神者(さにわ)の長老がまた代表して、


 「何も、ガラネル殿に現場でバスクスと直接やりあえと云うておるわけではござらぬ。指揮は復古神殿でも執ることはできましょう。我らにはもはや、大量のバグルスを同時に操る術はございませぬ」


 この役立たずども……何のために今の世に存在しているのか。ガラネルは心の中で悪態をつき、


 「わかったわ。後で、現場の確認を。それと、バグルスの培養施設も見せてちょうだい」


 「それはご随意に」


 「じゃ、今日はこの辺でいいのね? さすがに疲れたんだけど。ご自慢の温泉に入らせてもらうわ」


 ガラネルが立ちかける。

 「お待ちあれ」


 三人の側の首領がまた甲高い声を発する。さすがにイラッときて、ガラネルの片目が引きつって小じわを刻んだ。殺気を押さえたのは、ここが聖地だからまだ理性が働いている。


 「まだ、なにか!? 次の会合じゃダメなの!?」

 「ガラネル殿のご意見を賜りたく……」

 「意見!?」


 仕方も無く、また席へ着く。とっと云え、と顔に書いてあったが、審神者どももとことん空気を読まない。他人との交渉など、ほとんどしたことがない人々なのだ。


 「次の密議はもはや儀式の最終打ち合わせとなる。それでは間に合わぬ。ガラネル殿、実は、およそ三日後にはピ=パへ到達するディスケル皇太子とバスクスであるが、聖地に入ったとたんに襲撃し、暗殺を試みようかと思うておる」


 「ハア!?」


 さすがのガラネルも呆れた。アホか、こいつら。そんな暗殺部隊でカンナが倒せるのなら、とっくにやっている。今やダールをも凌駕するガリアの持ち主だ。そもそもウガマールやストゥーリアの暗殺者も、ことごとく返り討ちにしている。


 「暗殺って……」

 思わず笑ってしまう。

 「できるもんなら、やってみれば?」


 鼻で笑ってそう云わざるを得ないが、それが皮肉と通じない。わが意を得たりとばかりに、


 「ほれみよ、ガラネル殿も賛成だ!」

 四人側の長老がその覆面の隙間から見える目をいかにも迷惑そうにゆがめ、

 「ガラネル殿、軽々にさようなことを申されては……」


 さすがのガラネルも困惑。まさかこの程度の皮肉も通じないとは。三人側の若い首領、さらに声を高くしふんぞり返ってその大きな眼をむき、


 「では、我らでそのようにさせてもらう。皇太子とバスクスの動向は押さえてある。なに、すぐにすむ」


 仕方も無く、ガラネルが話を合わせる。

 「勝算でもあるわけ?」


 「なければやりませぬ。必勝……ではないが。やってみる価値はあろう。そなたらも、観戦武官を派遣しておくがよろしい。負けたとしても、ただでは負けん」


 そこまで云われてはと、長老も話に乗った。

 「なんぞ、新しいバグルスでも試すのか」

 「いかにも」

 「どのような」

 「…………」


 覆面の合間からぎょろ眼を覗かせて、三人側の首領はピタリと黙りこくったが、何か云われる前に、


 「ここにきて内証(ないしょう)にしていても始まらぬ。種明かしをすると、バスクスの共鳴がガリアとガリア、ガリアと魂魄で行うと云うならば、魂魄のない肉人形を作ってみたまで」


 いかにもガラネルが興味なさげに口を曲げ、


 「じゃ、ちょっとやってみて、報告してちょうだい。はいはい、これで今度こそ解散ってことでいい?」


 「異議なし」

 意外にあっさり一同がそう返事をし、めいめいに席を立ったので密儀は終了した。

 


 天御中(あめのみなか)と呼ばれる街というか空間というか、施設のほとんどは急峻な山間にあり、それぞれ獣道や回廊でつながれていた。一部は断崖絶壁で湖へ張り出して建物があり、一部は少し平地になっていて背の低い長屋もある。奥神殿や裏神殿が乱立し、聖地の人間といえども一般人は絶対に入ることを許されない。また、入ろうとも思わない。関係者以外が立ち入ると罰が当たって死ぬとかたく信じられている。カツコの宿の対岸にピ=パの街があって、その扇状地の奥まったところにディスケル皇太子の入った迎賓殿がある。扇状地の川の跡の谷間を登ってゆくと、山……すなわち島の反対側へ抜ける唯一の入り口である巨大な鳥居が現れる。そこから先が天御中だが、施設自体は山の裏側にあたり、ピ=パの街からは絶対に見えない位置にある。

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