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ガリウスの救世者  作者: たぷから
第8部「神鳴の封神者」
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第1章 4-1 聖地到着

 4


 どこかの建物の(いらか)屋根の上から見物客に紛れて通りを見ていたのは、だれあろうミナモとスミナムチだった。


 その日もよく晴れている。通りは既に見物客でいっぱいにあふれ、通りへ入れない人々は近所の屋根の上から見物する。


 三年ぶりにディスケル=スタルから皇太子の行列が聖地ピ=パへやってきたのだ。


 ミナモはまた水干に烏帽子姿で、スミナムチは藍の小袖に灰縞の軽衫袴(かるさんばかま)だった。近所の人々は二階屋根へ上ってるのだが、二人はより高い寺の本堂の屋根へ上っていた。


 「皇子(みこ)様……あ、ああ、あぶのうございます……お、お、おやめになって、早う降りられに……」


 高いところが苦手なスミナムチ……アラス=ミレ博士が、ガクガクと震えながら本堂大屋根の峰をはいつくばっている。冷や汗で、メガネがずり落ちそうだ。


 その数間前を、忍者めいて軽々と歩くのはミナモ……「狂皇子(くるのみこ)」ことホレイサン=スタルの第四皇子であるアチメ=ナムヤだ。


 「いやなら降りておれ、博士。無理について来ぬでも……」

 「だ、だって皇子様が……」

 「余がどうした?」


 その場で皇子がひょいと跳び上がり、そのまますとんと尾根の上へ座った。

 「ヒイィッ!!」

 肝を冷やした博士が縮み上がる。皇子がそれを見て笑った。


 「よい大人が小便をもらすでないぞ」

 「な……!」


 顔を赤らめ、なんとかはいつくばって皇子の隣まで来た博士だったが、とても座るなどとはできない。上から見下ろすと、すごい傾斜で大屋根が眼下に広がっている。眼がくらんだ。


 「う、うう、うぅ……」

 じっさい、少し漏らしてしまった。

 「ほれ、来たぞ」


 狂皇子が遠眼鏡を出す。博士もそれへ続いたが、手が震えて腰帯へたばさんでいた遠眼鏡を落としてしまった。


 「あっ……!」

 というまに遠眼鏡は本堂の屋根を転がり落ち、雪止めへひっかかった。


 「なにをやっておる。あとでちゃんと回収せよ」

 「そ、そんなあ……」

 博士が泣きそうな声を出した。


 狂皇子は楽しそうに湖岸の湊より特上の船を連ねて上陸したディスケル皇太子の行列を見た。聖地へ住む二千人の一般の人々が通りで歓声を上げ、万歳をして歓迎した。皇太子は見事な輿へ乗り、畏れ多いので御簾がかけられ直接見ることはできない。だが直接見ると神威(しんい)のため眼がつぶれると信じられており、ここで姿を現そうものなら逆にパニックとなる。みな輿が眼前を通るときは有り難がって拝んだ。その前後には長い行列が続いていて、侍従や護衛官が居並んでいる。総勢は二百人ほどであった。かつてはこの行列も二千人を超えていたというが、いまはこれでもなんとか工面している。


 その侍従の中に、三人の女がいた。侍従というか、侍女だ。云うまでも無く、カンナとスティッキィ、ライバだ。ここまで陸路により約二十日をかけ、帝国を構成する諸藩を行啓しつつやってきた。竜による空路を使えばもっと早く来られるが、この人数を全て飛竜で運ぶのは逆に難しい。なにより金がかかる。


 三人は旅に疲れた様子ではあったが元気そうで、行列の中より物珍し気に聖都の街並みを見物している。明らかに異邦人の顔つきなので目立つのだが、なにせ皇太子の随行なのでだれも気にしていない。きっとここまでの行程でもそうだったのだろう。行列に異邦人数人がまぎれていようとも、皇太子のほうがはるかに重要で誰も気が向かないのだ。


 「考えおったのう」

 狂皇子が笑う。遠眼鏡を無邪気にはしゃいでスティッキィと談笑するカンナへ向けた。


 「しかし、神鳴神威(カンナカムイ)とは……さすが、神殺し……神封じともなると大層な名をつけよる」


 また、皇子の顔が妖狐めいて嗤いにひきつった。

 「み、皇子様、私にも見せてください……」

 狂皇子より遠眼鏡を受け取り、博士もカンナを見やる。


 「……ふうん……」

 「どうだ?」

 「たいしたものですねえ。よくできてますよ」

 「わかるか?」


 「わかりますとも。……嫉妬するくらい、うまく調和しています。すなわち、肉、気、魂魄……碧竜(へきりゅう)天限儀(てんげんぎ)もかなり正確に写し取ったことでしょう」


 「そのようだな」

 笑みの中に、狂皇子の眼が狂気的に光をたたえた。

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