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ガリウスの救世者  作者: たぷから
第8部「神鳴の封神者」
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第1章 2-1 拷問開始

 だがディスケル=スタルの言葉にしてもパオン=ミにしか分からない。すなわち、暗く残忍な顔で中年太りのこの役人は、パオン=ヘ向かって云っているのだ。


 「…………」


 とうぜんパオン=ミは何も答えぬ。マレッティは内心、ほくそ笑んだ。パオン=ミはそんじょそこらの間諜ではない。代々続く間諜の家系の直系で、筋金入りだ。それはスネア族のマラカも同じようなものだろう。と、なると、最も拷問に弱いのは自分のはずであった。


 (やってやろうじゃないの。デリナ様を救うまで……耐えて見せるわよ)

 まだ手足が自由には動かず、意識も覚醒していない。よほどの薬物を飲まされたようだ。


 「おい、カンチュルク人。お仲間がおまえにとってただの駒ならば、そのまま黙っているがいい。だが、どうせ同じ目にあうのだぞ。そこを考えろよ」


 役人は厳しい調子でパオン=ミへそう云うと、闇の奥へ消えた。

 「……パオン=ミ、なんだって? あいつ……」


 マレッティがなるべく大きな声を出したが、それでも洞穴内で反響しなかったら聞こえないほどの囁き声だった。それほど、身体の自由が利かぬ。


 パオン=ミはしばらく黙っていたが、やがて搾りだすような声を発した。


 「……すまぬ、二人とも……我が甘かった。タカンなどという輩を、その地位で信用してしまい……」


 「は!」

 マレッティが吐きつける。


 「やめてちょうだい。あんたらしくない。あたしだって目的があるんだから、ただじゃ死なないわよ。マラカだって、わかってんでしょう!?」


 「拙者は、口を割るくらいならとうぜん死を選びます、シャ、シャ……」

 こんな状況でも不敵な口調を崩さず、マレッティは苦笑した。


 「ガリアさえ遣えれば……こんなところ……」

 湿った藁の上になんとか寝返りを打ち、明り取りを見上げる。機を待つしかない。

 だが、その夜から事実上の拷問が始まった。


 簡単な塩粥と白湯の夕食を与えられ、少し動くようになった手足で起き上がると匙で食べる。やはり腹に何か入ると力も出る。


 一息ついたところで、夜半も近くになったころ、何人かの雑兵と思わしき男たちがどやどやと獄に入ってきて、パオン=ミも分からぬ言語でまくしたてたのち、灯明でマレッティとマラカの牢の前で中をのぞくと鍵を開けて入ってきた。


 そしてまだ充分に動けぬ二人をたちまちのうちに服を引き毟って全裸にするや、複数人でかわるがわる激しく(なぶ)りはじめた。


 二人ともそこらの町娘ではない。


 叫び声一つ上げなかったが、特にマレッティは娼館の記憶が嫌でもフラッシュバックし、脳が爆発しそうになる。ガリアが遣えていたならば、粉塵めいた大きさまで文字とおり粉々に切り刻んでいたところだ。


 男たちは歓声と嬌声をあげ、二人の上にのしかかって身体中を荒々しく鷲づかみで揉みつくし、しゃぶりつくして腰を動かし続ける。髪をつかみ顔を上げさせ、その口も嬲った。二人とも耐えていたが、激しく突き上げられて動くので動きに合わせて声が漏れる。パオン=ミは歯を食いしばり、二人が朝方までいいように犯され続ける気配と音をただ聞き続けた。パオン=ミには手出しが厳重に禁じられており、誰も手を出さない。パオン=ミしか言葉が通じないため、先に精神が壊れては意味がないからである。


 ただパオン=ミも先に自害するわけにはゆかない。先にパオン=ミが死ねば、どっちにしろ二人は殺される。三人とも生き残るには、耐えてもらうしかないのだ。


 明り取りから朝の光が差しこんできたころ、ようやく九人もの男たちが満足し、獄を出ようとしたところへ、


 「せめて身体を拭く布と湯を用意してやってくれ」

 パオン=ミがそう訴えたが、男たちはせせら笑って無視した。

 「待て。どうせ、明日以降も続けるのであろう。薄汚くなるばかりだぞ」


 その一言に一人が振り返り、仲間へ何事か云うとややあって牢の下男(しもおとこ)である老爺がやってきて、牢越しに木桶からぐったりと横たわるマレッティとマラカへ向けて水をぶっかけた。そして手拭いを無造作に放り入れると、行ってしまった。


 マレッティはゆっくりと起き上がり、手拭いで身体をぬぐった。絶対に泣かないと決めていたが、涙があふれ、ガチガチと歯が鳴り、手が打ち震えた。股をぬぐうと血が出ていた。久しぶりだったので切れたようだ。


 マラカはまだしゃんとしていたが、その日から一言も話さなくなった。

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