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ガリウスの救世者  作者: たぷから
第7部「帝都の伝達者」
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第3章 4-2 バグルスであるもの

 きりっと締まった口元と眼力(めぢから)に圧倒されつつ、三人が席へつく。本来であればスティッキィだけがこの部屋へ入り、カンナとライバは外で待たなくてはならない。が、本来の決まり事などどうでもよかった。


 下女が用意した茶器より手ずから茶を淹れ、トゥアン=ルゥが三人へ……いや、カンナへ向き直る。


 「カンナ様、アーリー様より伝達の密命を得ております。もし、カンナ様が無事にここまで来られたならば……伝えるようにと」


 スティッキィとライバは緊張したが、カンナはポカンとしていた。

 「アーリーからって……いつ!?」

 「およそ、ひと月半ほど前です」

 「いつごろだろ……」

 カンナがスティッキィを見た。


 「……ラズィンバーグにちょうど着いたころじゃない?」

 「そんなころに、アーリーはもう、この人に手紙を送ってたってこと?」

 「そう……なんじゃないのお?」


 カンナは考えこんでしまった。アーリーはいつからどこまで思惑を巡らせており、密かに手を打っていたのか。もしかして……最初から(・・・・)なのではないか。最初から、アーリーは自分を駒として使っていたのではないか。


 カンナは恐ろしくなって、アーリーを信じられなくなりつつあって、身震いした。


 そんな……そんなはずはないと思ったが、アーリーの手の内が先を行き過ぎている。最初からそう仕組んでいたとしか思えなくなってきた。


 そんな感情を知ってか知らずか、トァン=ルゥは話を続けた。


 「アーリー様の願いは、カンチュルクの願いでもあり、ひいては皇帝陛下の代々の願いでもあります……。カンナ様はその願いを受け止めなくてはなりません。なぜなら……カンナ様はそのために生まれたのですから」


 その言葉に、スティッキィとライバが顔を曇らせる。そんなもの……カンナが望んであの神にも(・・・・・)匹敵する(・・・・)力を得ているわけではないのに……。


 しかし、カンナはすました顔で、


 「わかってます。わたしアタマ悪いから、難しいことはわかんないですけど、何をすればいいのかはわかってます。それをやらないと、わたしはガリアを……わたしの黒い剣を持ってる意味がないんです。生きる意味がないのは、いやです」


 たまらずスティッキィが両手で顔をおおった。涙が出る。そんな理不尽なことがあるのだろうか。


 「カンナ様は……」

 そこでトァン=ルィもぐっと言葉を飲みこんだが、すぐに毅然として、


 「カンナ様は、聖地で神代の蓋を永遠に封じる役を担っております。それが宿命なのです。使命なのです。そうすれば、この世は真に竜の支配から脱し、人の治める世界となる……。しかし、聖地はその役目を失い、その価値は失われる……。最大限の抵抗を示すでしょう。ダールとて、もはや役目を失い、生まれなくなるやもしれません。ですが、アーリー様はそれでよいとお考えです。他の主だったダールも、ダールという存在の役目は終わっていると考えている……それを許さないのは、七人の聖地の審神者(さにわ)たちのみです」


 「サニワ?」


 「神代の一部の竜神と直接会話をし、神の言葉を人の世へ伝える者たちです。かつては、世界に聖地が二か所あり、東西で竜神が審神者を通じて人を支配していましたが、およそ千五百年とも二千年とも云われれる昔に、ウガマールの審神者たちは滅ぼされました。千年遅れて、いま、東の聖地を滅ぼし、完全に世界は人の手のものになるのです。そうしなくては、人はいつまでも竜の支配のままなのです」


 カンナは眉を少しひそめる。何を云っているのか、よくわからない。

 「あのね……」

 カンナが質問をしたそうな顔となったので、トァン=ルゥはうなずいてうながした。


 「アーリーはどうして、自分でやらないのかな。その……わたしなんかに、という意味だけど。わたしなんかを、わざわざ作って……というか……」


 「神代の蓋を開け閉めするのは、本来であれば黄竜と碧竜のダールでなくばできないことと聞き及んでおります。しかし、このたび行わなくてはならないのは、二度と神代の蓋が開かぬよう、永遠に封じること。それをすることができるものは、ダールでも、人でも、バグルスでもなく……ダールであり、人であり……」


 トァン=ルゥは一瞬、言葉につまったが、

 「バグルスである者でなくては行えぬのです」


 はっきりとそう云った。そしてその言葉に、ライバとスティッキィがぎょっとなった。そう。カンナの肉体は、バグルスと融合(・・・・・・・)させられている(・・・・・・・)

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