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ガリウスの救世者  作者: たぷから
第7部「帝都の伝達者」
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第3章 3-1 自衛手段

 「つまり……どういうこと?」


 「自分の手を汚さずに、皇太子妃にあなたを処刑させるのよお。あなたにわざとガリアを遣わせることでね!」


 カンナが息をのむ。意味が分かった。


 「だから、ひっかかってうっかりガリアを遣わないでね! 封じられてるってんなら、心配はないでしょおけど、なにせカンナちゃんのガリアは規格外だから……」


 「う、うん……気をつける」


 と、云ってみたものの、ガリアは心だ。これまで何度も黒剣が勝手にカンナの身を護ったことがある。それを制御しろというのだ。


 カンナは、ひどく不安におそわれた。自信がない。

 そんなカンナをよそに、スティッキィがマオン=ランへ確認した。


 「当面の行動の目標はなんなのお? 部屋に一か月間、閉じこもってるわけにもいかないんでしょお?」


 マオン=ランが帳面を取り出し、予定を確認する。


 「そうですね、ええはい、まずは五日後のお披露目の宴です。ここで仕掛けてくることはないと存じますが……次が二十日後のタウマー節の宴。ここが要注意です。それさえ過ぎてしまえば、それから七日後の伝達の儀で、皆様の仕事は終了。殿下と共に聖地へ行っていただきます」


 「伝達の儀って、皇太子殿下が行うのですか?」

 「さあ……それは」

 「具体に、何を伝達してくれるんです?」

 「さあ……」

 二人の質問に、マオン=ランは困った顔で首をひねるだけだった。無理もない。


 「また連絡が来るんだわ、きっと。それまで、おとなしくしていましょう」

 それから三日間、三人はマオン=ランより細々と宮中のしきたり等を学んですごした。

 


 3


 既に、金髪碧眼の異邦の美女が後宮入りしたとして、宮城(きゅうじょう)では上は皇帝の耳に入り、下は下男下女にまで噂が立っていた。三日の間に、市井の一部にまで広がったということだ。皇帝へは皇太子より報告が行われたのは想像できるが、下男下女にまではどこから話が漏れるのだろうか。まして城の外にまで。


 「人の口に戸は立てられないとはいうけどさ、こんなんじゃ、大人しくしていようがないじゃないか」


 ライバが困惑する。目立つなというほうが無理だとしても、こうも情報伝達が早いのでは。


 「皇太子妃が意図的に流してるんじゃないかしらあ」

 これはスティッキィの考えだ。

 「どうしてだよ?」


 「あんたの云う通り、どうせ悪目立ちだもの。わざと注目させといて、逆に手出しさせにくくする作戦なんだわあ」


 スティッキィは納得したようだ。

 「それより、マオン=ランさん、頼んでいたものは……」

 マオン=ランは布でくるまれた棒状のものを差し出した。ニヤニヤしながら、

 「武器庫にそれっぽいのがございました」


 と云い、布をとる。現れたのは、ストゥーリアのカントル流剣術で使う細身の中剣だった。つまり、スティッキィのガリアと同じ実剣だ。


 「よくあったなあ」

 ライバが感心する。


 「武器庫には古今東西の武器が納められておりますので。武器庫番には、スティッキィ様の命令書ですぐにでも許可が」


 「すごいじゃないか」

 「いきなりそこまでの権限を与えられてもねえ。ちょっと怖いわよね」

 云いつつ、スティキィは少し振ってみた。


 「ちょっと大きいけど……なんとか使えそうだわ。錆びてるし……砥石も入手してもらえませんか」


 「おまかせを」

 マオン=ランが下がった。

 「後はどこに隠すかだな」


 「裾の下か、ライバかカンナちゃんにこっそり持っていてもらうか……どっちにしろ、あの重い衣装で振る練習もしておくわ」


 つまり、ガリアが遣えないのであれば、スティッキィは修めた裏カントル流で戦うしかない。聴けば、護衛の女官はもちろん、何人かは後宮姫(こうきゅうき)たちもじっさいに武術を納めているという。


 問題はライバとカンナであった。

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