第3章 3-1 自衛手段
「つまり……どういうこと?」
「自分の手を汚さずに、皇太子妃にあなたを処刑させるのよお。あなたにわざとガリアを遣わせることでね!」
カンナが息をのむ。意味が分かった。
「だから、ひっかかってうっかりガリアを遣わないでね! 封じられてるってんなら、心配はないでしょおけど、なにせカンナちゃんのガリアは規格外だから……」
「う、うん……気をつける」
と、云ってみたものの、ガリアは心だ。これまで何度も黒剣が勝手にカンナの身を護ったことがある。それを制御しろというのだ。
カンナは、ひどく不安におそわれた。自信がない。
そんなカンナをよそに、スティッキィがマオン=ランへ確認した。
「当面の行動の目標はなんなのお? 部屋に一か月間、閉じこもってるわけにもいかないんでしょお?」
マオン=ランが帳面を取り出し、予定を確認する。
「そうですね、ええはい、まずは五日後のお披露目の宴です。ここで仕掛けてくることはないと存じますが……次が二十日後のタウマー節の宴。ここが要注意です。それさえ過ぎてしまえば、それから七日後の伝達の儀で、皆様の仕事は終了。殿下と共に聖地へ行っていただきます」
「伝達の儀って、皇太子殿下が行うのですか?」
「さあ……それは」
「具体に、何を伝達してくれるんです?」
「さあ……」
二人の質問に、マオン=ランは困った顔で首をひねるだけだった。無理もない。
「また連絡が来るんだわ、きっと。それまで、おとなしくしていましょう」
それから三日間、三人はマオン=ランより細々と宮中のしきたり等を学んですごした。
3
既に、金髪碧眼の異邦の美女が後宮入りしたとして、宮城では上は皇帝の耳に入り、下は下男下女にまで噂が立っていた。三日の間に、市井の一部にまで広がったということだ。皇帝へは皇太子より報告が行われたのは想像できるが、下男下女にまではどこから話が漏れるのだろうか。まして城の外にまで。
「人の口に戸は立てられないとはいうけどさ、こんなんじゃ、大人しくしていようがないじゃないか」
ライバが困惑する。目立つなというほうが無理だとしても、こうも情報伝達が早いのでは。
「皇太子妃が意図的に流してるんじゃないかしらあ」
これはスティッキィの考えだ。
「どうしてだよ?」
「あんたの云う通り、どうせ悪目立ちだもの。わざと注目させといて、逆に手出しさせにくくする作戦なんだわあ」
スティッキィは納得したようだ。
「それより、マオン=ランさん、頼んでいたものは……」
マオン=ランは布でくるまれた棒状のものを差し出した。ニヤニヤしながら、
「武器庫にそれっぽいのがございました」
と云い、布をとる。現れたのは、ストゥーリアのカントル流剣術で使う細身の中剣だった。つまり、スティッキィのガリアと同じ実剣だ。
「よくあったなあ」
ライバが感心する。
「武器庫には古今東西の武器が納められておりますので。武器庫番には、スティッキィ様の命令書ですぐにでも許可が」
「すごいじゃないか」
「いきなりそこまでの権限を与えられてもねえ。ちょっと怖いわよね」
云いつつ、スティキィは少し振ってみた。
「ちょっと大きいけど……なんとか使えそうだわ。錆びてるし……砥石も入手してもらえませんか」
「おまかせを」
マオン=ランが下がった。
「後はどこに隠すかだな」
「裾の下か、ライバかカンナちゃんにこっそり持っていてもらうか……どっちにしろ、あの重い衣装で振る練習もしておくわ」
つまり、ガリアが遣えないのであれば、スティッキィは修めた裏カントル流で戦うしかない。聴けば、護衛の女官はもちろん、何人かは後宮姫たちもじっさいに武術を納めているという。
問題はライバとカンナであった。




