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ガリウスの救世者  作者: たぷから
第7部「帝都の伝達者」
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第2章 1-2 アトギリス=ハーンウルム

 北方域を東西に分けるリュト山脈も、パウゲン・タンブローナ連峰までは伸びていない。すなわち、そこに「切れ目」があり、平原が続いている。この平原を通っているホールン川が、太古より中南部の東西文化圏を分けている。サティス内海へ注ぐホールン川河口域を過ぎるとグルジュワン藩王国だが、このロンバル平原を越えるとそこはアトギリス=ハーンウルム藩王国のアトギリス地方だ。


 アトギリスとハーンウルムは、戦国時代末期からディスケル=スタル帝国初期にかけて百年以上も相争っていたが、帝国の辺境を護る強力な両軍事国家が果ても無く争っていては帝国の存亡にかかわるということで、第二代ディスケル皇帝と当時の黄竜のダール、そして聖地ピ=パの仲介と命令でようやく長い戦いに終止符を打った。その後、両王家は婚姻関係を結び、急激に友好を深めていった。その背景には、軍事国家間のみでしか分からない、互いに強敵として認めあう気風もあったのかもしれない。


 そして、第五代皇帝の時代にアトギリス王家の若き王が急病を得て亡くなり、直系男子が耐えてしまって世継ぎ問題で揺れた時、ハーンウルムへ嫁いでいた王の姉が一人息子を祖父でありアトギリス先王の養子としたのを機に、この二つの古い辺境の古代軍事国家は正式に合邦し、両王家の血を引くものを両国の王とするアトギリス=ハーンウルム藩王国となったのである。


 今より、百五十年ほど前のことだ。


 アトギリスは草原地帯で、古代より駱駝(ラクダ)の一種や山羊、羊類の牧畜が盛んだった、竜も平原種の長角竜(ながつのりゅう)を飼っており、そこはカンチュルクとほとんど同じ生活様式といってよい。実際カンチュルクは、アトギリスとグルジュワンの間にある標高の高い緩衝地帯である。アトギリスは広大な平原から北方の高原地帯まで国土を広げ、リュト山脈の一部も治めている。そして、最辺境の地ガラン=ク=スタルに接していた。産業は牧畜と竜騎兵(ガルドゥーン)の傭兵しか無かったが、リュト山脈に通じる岩山地帯で貴金属や宝石類の鉱山が発見され、その交易で莫大な富を成し、ますます軍費を増強し続けた。国民は商人と軍人を兼ねた、独特の気風があった。


 一方、ハーンウルムはアトギリス南西部より続く広大な森林地帯に本拠を置き、山岳民族の国である。帝国では希少な林業を主な産業とし、湖沼や河川が多く淡水漁業も盛んだった。竜も森林種の竜がいる。森の奥の聖なる月の湖を神の湖として、紫竜信仰はここで生まれた。すなわち、ハーンウルムこそが真に紫竜の国であり、生と死の境界の曖昧な信仰の本拠であった。この土地の兵士も屈強で、周辺諸国から常に侵攻され続けてきた歴史があるが、その全てを撃退し、ただの一度も他国に支配されたことが無い。国力や軍事力ではずっと勝るアトギリスがハーンウルムを百年もかけてついに落とせなかったのは、深い森林地帯であったために平原の兵士であるアトギリス兵には不利だったのと、紫竜信仰により死を恐れぬハーンウルム兵の狂信的な戦いのせいでもあったともいう。


 現在、その二国が合邦したアトギリス=ハーンウルムの軍事力は、まさにディスケル=スタル帝国最強を誇っている。


 そのアトギリスの大平原をひたすら飛び続ける。紫月竜(しげつりゅう)は夜行性のため、基本的に夜間飛行だ。訓練して昼間も飛べるようにしてはいるが、夜の方が調子よい。いつのまにか昼夜が逆転し、明け方や宵のうちに地上へ下りて休んだ。乾燥した大地を突っ切って、五日をかけて三人はゆったりと東進し、アトギリスとハーンウルムのちょうど中間ほどにある王都ラドスを目指した。ここは、百五十年間の合邦時に新設された新都である。


 途中、夕刻近くに出発してすぐアトギリスの出城があって、街道警邏(けいら)の竜騎兵が飛んできた。ガラネルが名乗りをあげると三頭の警備隊の紫月竜は歓迎飛行に移り、ガラネルが手を上げて応えた。


 「どうぞ、ガラネル様、我らが城にてお休みを! 将軍もおよろこびに!」

 上空で風鳴りの音に負けぬよう、大声で兵士が叫ぶ。


 「ありがとう! でも、急ぐから! 国王陛下に一刻も早くお目通りをしなくっちゃならないの!」


 「左様で! では、お気をつけて!」

 「お仕事、御苦労様!」

 「恐悦!」

 兵士たちに別れを告げ、ガラネルは先を急いだ。


 王都まであと一日という場所に、オアシスがある。大きな街があって、重要な交易拠点であり、人口も多くさらに砦も兼ねており王都の重要な防衛拠点である要塞都市デバリーンだ。

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