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ガリウスの救世者  作者: たぷから
第7部「帝都の伝達者」
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第1章 2-4 寒帯林の探索

 すぐに、ザワザワと水面が細かく泡立ち、たくさんの魚が浮いてきた。

 「ほう……」


 シードリィ得意の、共鳴振動波だ。それで魚を気絶させている。本気を出すと、こんな泉は分子振動でたちまち沸騰させる威力を持つ。泉ごと鍋物にできるほどだ。


 「多すぎるな」


 パオン=ミも泉まで下り、大小数十匹にもなる種々の魚を幾匹か、呪符を変化させた鳥やトカゲに集めさせる。見たこともないが、陸封型のマスやフナ、ナマズの仲間らしき姿をしている。


 「もうよい、食べきれぬわ!」


 シードリィがぽかり(・・・)と頭だけ水より出す。大きな一匹を咥えていた。それを左手で持ってかみちぎり、丸呑みする。


 「気を失っているだけだ。放っておけば生き返る。食べるぶんだけ、獲れ」

 「わかった……」


 パオン=ミが三人分、数匹の魚を遠慮なくもらい、雑務ナイフで鱗などを取り小枝を拾って串刺しにすると岩場の上で焼き始める。串を地面へ刺せないので、鍋をどかして横たえた。


 「へえ、ごちそうじゃないのよお。塩はあったっけ?」

 「ほれ」


 革袋より貴重な岩塩をふりかけ、じっくりと焼けるのを待った。燃料の小枝をどんどん足す。意外と脂があり、良いにおいがたってきた。マレッティが辛抱たまらぬという顔になってくる。毎日乾パンと竜の干し肉だったので無理もない。


 気がつくと、マラカも帰ってきていた。哨戒のついでに、革袋へ大量のクレソンを採ってきている。


 「追手はなさそうです。しかし、既に、おそらくフローテルに監視されてますよ」

 マラカ、まじめな顔でそう云った。

 「さもありなん。あやつが仲介してくれるのだろうから、そ知らぬふりをしておけ」


 まだ泉でパシャパシャやっていシードリィを顎で指し、パオン=ミがそろそろ焼けた焼き魚へかぶりついた。


 「うまい」

 しみじみと、声が、出た。



 翌日、パオン=ミとシードリィは二人して竜に「放れ」の命令をし、二頭の竜は普通にその場より勢いよく地を蹴って、木々の梢をかすっていずこかへ飛んで行った。この竜騎兵(ガルドゥーン)独自の調教は竜を一時的に隠すときに必須の技術で、竜は身を隠しつつ、つかず離れず自律的に行動し、いつでも竜笛(りゅうてき)の招集で文字どおり飛んでくる。


 「さ、行こう」


 岩場を下りた三人を前に、シードリィが云う。岩の上では竜角を削ったペグを打てず、昨夜はテントを張るために泉より離れている場所で地面の乾いている個所を発見し、そこでテントを張り休んだ。シードリィはどこでどうしていたのか、よくわからない。


 「既に見張られているようだが?」

 パオン=ミが隠すことなく云った。

 「わかっている。礼儀だ。知らないふりをしていろ」

 パオン=ミが二人へ目くばせし、うなずいて見せた。


 四人は白樺と針葉樹の森を歩き始めた。荷物は、トロンバーより山脈のふもとまで来た時と同じく、三人で分けて持つ。


 そのまま、時折現れる小鳥以外のどんな動物もおらず、ひたすら風音と足音だけを聴きながら静寂の中を歩き続けること三日。


 薄曇りの日が続き、夜も星が見えなかったのでどこをどう歩いているのか、まったく方向感覚が分からなかった。そうとう森の奥に入りこみ、はぐれてしまっては絶対に遭難して死ぬであろう広大な樹海の最深部だ。もっともパオン=ミがいるおかげで、スーリーが来てくれれば、最悪そうはならないだろうが……。


 三日ぶりにシードリィが口を開いたころには、マレッティなどは、自分が本当に話せるのか「あ、ああ」と試しに声を出してみたほどだ。幸い、話し方を忘れてはいなかった。


 「そろそろだ」

 「よおやくついたのねえ」

 うんざり顔で息をつく。

 「集落があるようには見えぬがのう」


 パオン=ミも疲れた顔を隠さない。つい、無意識にガリアで周囲を探ろうと右手を動かしたが、眼にも止まらぬ速さでシードリィが左手でその手をつかんだ。


 「妙な紙切れは出すな。不躾にガリアで探るのは、無礼な敵対行為だ」


 その通りだ。パオン=ミは反省した。マラカにも目くばせし、うなずく。マラカもすぐ消えて偵察に出るのを控えたほうが良いだろう。


 「で? どこにフローテルの村はあるのよお?」

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