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ガリウスの救世者  作者: たぷから
第1部「轟鳴の救世者」
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第3章 3-1 待機

 3

 

 アーリーたちは街道を外れ、荒野を歩いた。アーリーは前回の遠征とは異なり、警戒しながら、もどかしいほどにゆっくりと進んだ。荒野を抜けつつ、森から森、小山から小山へと隠れながら。


 「……見ろ、斥候が現れ始めた」


 とある、サラティスよりそう遠くもない森の端より、アーリーが空を見上げた。晴れているが雲が多い。白い雲の中を、何頭かの軽騎竜が飛んでいる。とても小さく見え、かなり高いところを進んでいる。


 「迎撃を警戒してるのかしらあ。都市の上空を旋回してる」

 「ここで夜まで待つか。それとも、もうひとつ向こうの森まで行ってみるか」


 「ここで待ちましょう、アーリー。先発隊と出会ったら戦わないといけないし、ガリアを遣うと駆逐竜を呼び寄せることになるわあ」


 「そうだな……」


 まだ夕刻までは日が高かったが、三人は森から荒野を見渡せる場所へ陣取り、待ち伏せすることにした。何事もなく時間だけが過ぎ、水を少し飲んで堅パンをかじっていると、眼前一ルット(約二キロ)ほどの距離を低空で大鴉竜が三頭、それぞれ数頭の軽騎竜を引き連れて飛んで行った。


 「先発にしては数が少ないわねえ」

 「威力偵察だろう。あれくらいならコーヴで撃退できるだろうが……」


 「都市の外に誘い出されて、待ち伏せくらうのがオチよお。あいつら、ばかだから、個人の竜退治と竜との戦争の区別がつかないわよ、きっとお」


 「どうだろうな。そのためのフレイラだが……」


 カンナはずっと無言だった。まるで実感がわかないままここにいた。しかし、少しずつ緊張して行くのがわかった。そもそも、アーリーと共に竜と戦うのはこれが初めてだ。どのようにすれば、足手まといにならないだろう。そればかり考えた。


 大鴉たちが見えなくなると、まったく平和な時間が戻った。雲が流れ、鳥が鳴き、風が森を揺らす。午後の斜陽も暑い。ひっきりなしに虫が集まってくる。


 「虫よけの香でも焚く? アーリー」


 マレッティがうんざりと羽虫を払いながらつぶやいた。アーリーの返事も待たずに、石を集めて簡易の竈を作り、小枝を積み上げると、


 「アーリー、火をつけてちょうだいなあ」

 「む……」


 アーリーがガリアの効果だけを右手より発する。つまり、手から火を出した。


 (こんなこともできるんだ……)

 カンナは驚いた。ガリアを出さずに、その力だけを発揮するという発想に。


 燃え上がった火へマレッティが薬草の塊をくべて、その白いハーブの煙を身体に染みつける。


 「カンナちゃんもほらあ、虫に刺されないわよお」

 「は、はい」

 「アーリーは?」


 アーリーが無言で立ち上がった。あわててマレッティが火を消そうとしたが、アーリーはそれを手で止めた。その必要はない。アーリーの視線の先、同じく一ルットほど向こうの荒野へ、続々と地平線の奥から竜が現れた。マレッティとカンナも遠眼鏡でそれを確認する。


 しかも、竜どもはアーリー達の真正面の荒野で陣を止めた。そこで休むようだ。


 「ここで夜を明かして、明日の朝一で進軍のつもりかしらあ」


 「この距離だと日暮れ前には都市へ到達するが……都市を夜襲する気が無いのだろう」


 「そのぶん、こっちが夜襲よお」


 なんたる余裕! マレッティの口元が楽しげにゆがんだ。カンナは、竜たちがめいめいに佇んだり地面へ横になったりしているのを遠目に、


 「……竜は、エサとか、どうしてるんですか?」

 「えさ~?」


 何を気にしているんだろう、この子は、という顔でマレッティがカンナを見た。


 「竜どもは、ひと月やふた月は何も食べなくても平気よお。だけど、それまでに川の向こうで食べ溜めをしてるの。何を食べたのかは知らないけど……」


 「竜の世界には、そもそも、我々の牛や鹿のような、草食の竜がいて、ふだんはそれを襲って食べている。竜の世界には竜の摂理がある」


 アーリーの言葉に、マレッティが驚いた。初めて聴く話だった。もっとも、聴こうとも思ってなかったが。


 「しかし、戦に使う竜はその限りではない。攻撃性を高めるため、あえて飢えさせている。それに、都市にはたっぷりと新鮮な食料がある」


 カンナは眼をつむった。その話も衝撃的だったが、あのど真ん中に夜中、つっこむのである。


 (わたし……死んだな、ぜったい……これで……)

 乾いた笑いが出た。


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