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ガリウスの救世者  作者: たぷから
第6部「轟鳴の滅殺者」
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第3章 2-1 葛藤の出立

 「だから、スティッキィは殺気を出しすぎるんだ。相手に気づかれるだろう?」

 「あたしが殺る相手は、別に気付かれてもいいやつばっかりだったんですう」


 これもメストの暗殺者だったライバ、タイプの異なるスティッキィの殺しのやり方がどうにも気になるのだった。


 とにかく、二人は再び急ぎ旅支度を整える。教導所の職員へ金を渡し、新しい旅装を整え、糧食も用意した。ウォラたちが自分らの分も用意するとは思ったが、世話になるのが癪な気分なのだ。


 夕刻にはすっかり仕度を整え、二人は教導所の食堂へ向かった。そこで、この奥院宮(おくいんのみや)を護る屈強な兵士の中でも特に教導騎士に鍛えられている凄腕や、職員、そして騎士たちが食事を摂る。教導騎士は、もちろん全員がガリア遣いだ。


 食事は、ヒツジやヤギの肉やヒヨコ豆などの豆類をオクラなどの野菜と共に数種類の香辛料で煮こんだもの、薄焼きのウガマールパン、長粒米と臓物の炊きこみ、魚の揚げ物や煮もの、焼き物なのがウガマールの日常料理だった。野菜も多い。炒めるか煮て食べる。それと、なんといっても果物が豊富だった。飲み物は、水がわり薄ワインやビール。二人はウォラの賓客扱いなので、遠慮なく食べることができた。


 「辛いのに慣れると、おいしいわね」

 スティッキィ、ウガマールの食べ物に馴染んだようだ。


 二人とも、しかし混んでいる食堂で視線を充分に感じている。そりゃそうだ。突然現れた部外者だし、紹介もされていない。ただ、ウォラよりカンナの連れだと云われている。つまり、彼らは純粋に二人の強さに興味があるのだった。


 だが暗殺者家業が身に染みている二人、自分の素性や、ましてガリアを自慢げに話す習慣は無かった。そういうのは二流三流のガリア遣いのすることだ。もう明日の朝にはここからおさらばであるし、興味津々の視線を完全に無視して手早く食事を済ませるや、さっさと部屋へ戻った。


 そのまま、その日は早く休む。



 2


 翌朝、待ち合わせ場所の教導所の入り口前で、四人は合流した。

 「……これだけえ?」

 「そうだ」

 もっとぞろぞろと随行人がいると思っていたスティッキィ、拍子抜けだ。

 「ここに来る前と変わらないじゃなあい」


 「関係者は、既に向こうで準備をしている。後はカンナが行くだけだ。護衛は……私たち三人で充分だろう」


 「ま、確かに……」

 そっと、カンナを見る。まだ、どこか宙を見つめている印象だ。

 「カンナちゃん、その……だいじょおぶ? その……」

 スティッキィ、うまい言葉が出てこない。


 「うん。あたしが生まれ故郷の村から神官長様に連れてこられた理由や、一年間カルマで修業した理由が、このためだ……って……いう……から……」


 誰かに暗記させられたような説明口調の後、やおら、カンナが、半眼となってふらふらしだした。すかさずウォラが抱きかかえるようにして、カンナをスティッキィより離す。そして小声で、


 「よけいなことは云うな。カンナのためだ」


 スティッキィの殺気がふくれあがったが、ライバがまたその腕をつかんだ。振りかえると、ライバが小さく首を横に振る。


 「クゥッ!」

 スティッキィ、涙が出てきた。カンナのために、何もしてあげられぬ。


 ともかく、四人は出発した。ここまで来たなら、あとは本番だ。ムルンベ側も余計な邪魔はしないだろうし、もはやカンナに勝てる可能性のあるものは、レラしかいない。道中邪魔して到着が遅れたとて、レラの不戦勝というものでもない。考えられるのは、カンナの力を予め削ぐ目的で襲撃があるかもしれないことだが、百足竜すら退けたカンナを誰が……いや、なに(・・)が襲うというのか。


 「そればかりは、分からない。向こうも必死だろうからな。ただ、あのような怪物を何匹も調達するのはさすがのムルンベも難しいだろう。そこらの竜では、我らの敵ではない。来るとしたらガリア遣いだろうが、ウガマールにもバスマ=リウバにも、ガリア遣いは少ない。それこそ、レラ以外に襲えるはずもない」


 「なんだっていいわよお」


 スティッキィが、既に殺気を研ぎ澄ませる。何者が現れても、カンナを護らなくてはならない。カンナに余計な力を使わせないという意味も含めて。


 だが、カンナは本当に大丈夫なのか。いつものカンナではないのは明白だ。何の目的があって、カンナを催眠術へかけたような状態にしてあるのか。


 だが、もうどうしようもない。ここまで来たら、やるしかないのだ。スティッキィはウォラの向こうにいるカンナを見つめた。

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